「日本人学校 帰国」で検索すると、候補に「帰国子女」「帰国子女枠」「帰国子女 中学受験」「帰国後」が並びます。つまり多くの家庭が、赴任先で日本人学校に通わせながら、「この在籍歴は、日本に戻ったときにどう扱われるのか」を調べているということです。なかでも不安が集まるのが、「日本人学校だと帰国生の枠が使えないらしい」という話です。今回、10の都道府県が公表している入学者選抜の要綱・要項を実際に開いて、日本人学校在籍者の扱いを1つずつ確かめました。結論を先に書きます。「日本人学校だと帰国枠が使えない」は、全国的には誤りです。10都道府県のうち、日本人学校の在籍だけでは出願できない制度は2つだけでした。しかもその2つは、日本人学校を狙って除外しているのではなく、条文の書き方から結果的にそうなっているだけです。ただし、大学入試になると話がひっくり返ります。高校入試では帰国枠の正規の対象だった日本人学校の在籍歴が、大学の帰国生入試では多くの大学で「海外にいた期間」に数えてもらえません。この段差も、大学の募集要項そのものにあたって確かめました。
結論|条件は「どこの学校にいたか」ではなく「どこに何年住んでいたか」で書かれている
先に全体像です。帰国生を対象にした公立高校の選抜は、都道府県ごとに制度の名前も中身も違います。ただし出願資格の書き方には共通の型があって、多くは次の2つで組み立てられています。
1つめが海外にいた期間(継続して2年以上、1年以上、など)。2つめが帰国してから経った期間(帰国後2年以内、など)。「どんな種類の学校に在籍していたか」を条件にしている制度は、実は少数派です。だから日本人学校に通っていても、多くの自治体では条件の判定に影響しません。

京都府にいたっては、要項の備考に「外国の学校(日本人学校を含む。)を卒業…」と、わざわざ括弧で日本人学校を書き足しています。東京都の4月入学も、応募資格に現地校の号と日本人学校の号を並べて置いています。
エ 令和8年3月31日までに、施行規則第95条第1号に規定する外国において学校教育における9年の課程(以下「現地校」という。)を修了する見込みの者
オ 令和8年3月31日までに、施行規則第95条第2号に規定する文部科学大臣が中学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設(以下「日本人学校」という。)の当該課程を修了する見込みの者
東京都教育委員会「令和8年度 東京都立高等学校海外帰国生徒等入学者選抜実施要綱」からの引用です。制度の側は、日本人学校をちゃんと想定して書いています。そもそも日本人学校がどういう学校なのかは補習授業校と日本人学校の違い、入学の条件は日本人学校の入学条件にまとめています。
10都道府県を実際に読んだ結果|出願できない制度は2つだけだった
確認したのは、帰国生の受け入れが多い10都道府県です。2027年度(令和9年度)の要綱が公表済みなのは神奈川・千葉・埼玉の3県で、東京・愛知・大阪・兵庫・京都・福岡・北海道は2026年度(令和8年度)が最新でした(東京都は「本年9月に公表予定」、福岡県は「10月下旬公表予定」と公式に告知しています)。
| 自治体 | 制度の名前 | 日本人学校の在籍者 | 条件の書かれ方 |
|---|---|---|---|
| 東京都(4月入学) | 海外帰国生徒対象の選抜 | 出せる | 現地校と日本人学校を並べて明記。連続2年以上の在住+在住年数に応じた帰国後年数 |
| 東京都(9月入学) | 9月入学生徒の選抜 | 出せない | 応募資格が現地校の号のみ。公表資料にも応募できないと明記 |
| 神奈川県 | 海外帰国生徒特別募集 | 出せる | 継続して2年以上の在住。日本国籍を有することも要件 |
| 千葉県 | 海外帰国生徒の特別入学者選抜 | 出せる | 外国における在住期間のみ。学校の種類の限定なし |
| 埼玉県 | 帰国生徒特別選抜 | 出せる | 日本国外における在住期間。事前に出願資格の認定手続きが必要 |
| 愛知県 | 海外帰国生徒選抜 | 出せる | 継続2年以上の在住。推薦選抜は日本人学校の卒業見込者のみ出願可 |
| 大阪府 | 海外から帰国した生徒の入学者選抜 | 出せる | 継続2年以上の在留と帰国後2年以内。学校の種類の要件なし |
| 兵庫県 | 帰国生徒にかかわる推薦入学 | 出せる | 在住1年以上。国際に関する学科のみの実施 |
| 京都府 | 海外勤務者帰国子女特別入学者選抜 | 出せる | 備考に「日本人学校を含む」と明記。保護者が海外勤務者であることも要件 |
| 福岡県(特別学力検査) | 帰国生徒等特例措置 | 出せない | 外国の現地校に引き続き3年以上。在外教育施設はみなし規定で要件から外れる |
| 福岡県(推薦の特例措置) | 帰国生徒等特例措置 | 出せる | 在外教育施設の課程修了者を対象として明記。英語科で実施 |
| 北海道(道立) | 帰国生専用の特別選抜なし | 出せる | 一般選抜の出願資格に在外教育施設の修了者を明記 |
表のとおり、10都道府県のうち、日本人学校の在籍だけでは出願できないのは東京都の9月入学と福岡県の特別学力検査の2つでした。逆に愛知県では、推薦選抜に出願できるのは日本人学校の卒業見込者だけで、現地校出身者は出願できません。つまり不利になる方向は、いつも日本人学校とは限らないということです。
出願できない2つは、なぜそうなるのか

東京都の9月入学は、単純に号が置かれていないことによります。4月入学の応募資格には先ほど引用したとおり現地校と日本人学校の2つの号が並んでいますが、9月入学の応募資格は現地校(10年の課程を含む)を修了する見込みの者または修了した者、という書き方しかありません。東京都教育委員会は9月入学生徒募集の公表資料で、はっきりこう書いています。
令和8年3月に在外の日本人学校を卒業した生徒は、都立高等学校の4月募集に応募資格をもつものであり、9月募集には応募できない。
大事なのは後半です。同じ生徒が、4月入学の枠には応募できます。「東京都は日本人学校を締め出している」のではなく、入り口が4月のほうだという話です。
福岡県の特別学力検査は、理由の形がまったく違います。対象者を定めた条文に、次の一文があります。
なお,文部科学大臣が中学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設で教育を受けた者については,当該施設に入学した時点で入国又は帰国したものとみなす。
このみなし規定が効きます。日本人学校に入った日が「帰国した日」の扱いになるため、対象者の要件である「外国の現地校に引き続き3年以上在学」も、「令和7年1月1日以降に帰国」という帰国後の年数も、日本人学校に通っていた期間では満たせなくなります。条文に「日本人学校は出願できない」とは一言も書かれていません。それでも結果として対象から外れる、という構造です。
ただし同じ福岡県でも、推薦入学の特例措置のほうは在外教育施設の修了者を対象として明記しています。制度の名前が同じ「帰国生徒等特例措置」でも、中の2つの制度で扱いが違うということです。県名だけで判断すると間違えます。
そもそも高校に出願できるのか|ここは全国共通で心配ない
帰国枠の話と混ざりやすいのですが、「そもそも日本の高校を受験できるのか」は別の問題です。こちらは全国共通で、心配いりません。
ところが大学入試では、話がひっくり返る
ここからが、この記事でいちばんお伝えしたいところです。高校入試で「帰国生の正規の対象」だった日本人学校の在籍歴は、大学の帰国生入試になると、多くの大学で「海外にいた期間」として数えてもらえません。
理由は、国が大学の帰国生入試の出願資格を定めていないことにあります。文部科学省の「令和9年度大学入学者選抜実施要項」は、帰国生徒について選抜方法の配慮を求めているだけで、在外年数も出願資格も書いていません。線引きは完全に各大学の裁量です。そして実際に、大学によって割れています。

①はっきり「出願できない」と書く大学
東京大学の外国学校卒業学生特別選考は、要項に注記があります。
※ 文部科学大臣が高等学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設を修了した者は出願が認められません。
公式のQ&Aでは、理由まで書かれています。
海外にある「日本人学校」、「在外教育施設」を修了したのですが、出願できますか? できません。日本の教育制度に基づく学校であるため、外国の教育制度に基づく教育課程として認められません。
早稲田大学教育学部の帰国生入学試験も「本学部帰国生入学試験には出願できません」と明記しています。
②「その期間はみなさない」と書く大学
いちばん多いのがこの型です。出願自体を禁じるのではなく、必要な在外年数の計算から日本人学校の期間を外します。お茶の水女子大学の帰国生徒・外国学校出身者特別選抜はこう書いています。
(注2)外国に設置されたものであっても、日本の学校教育法に準拠した教育を施している学校(文部科学大臣が高等学校の課程と同等の課程を有していると認定した在外教育施設)に在学した期間については、外国において学校教育を受けたものとはみなさない。
同じ趣旨の記載を、京都大学経済学部、筑波大学医学群医学類、一橋大学、学習院大学、関西学院大学、武蔵野美術大学、清泉女子大学で確認しました。「2年以上海外に」という要件があっても、日本人学校で過ごした2年は、その2年に入りません。
③資格はあるのに、要件で外れる二段構え
いちばん誤解が生まれやすいのがこの型です。早稲田大学政治経済学部のグローバル(海外就学経験者)入学試験は、出願資格の列挙に「文部科学大臣が高等学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設の当該課程を修了した者」を含めています。ところが同じ要項の別の項で、在外2年の要件をこう限定します。
日本の教育制度以外の課程にて教育を実施する「日本国外に所在する外国の中等教育機関」に継続して2年以上在学した者
立命館大学の帰国生徒入学試験も同じ構造です。資格の欄だけを読むと出願できるように見えて、要件の欄で外れます。要項は最後まで読む必要があります。
④むしろ「日本の高校と同じ」として扱う大学
逆の例もあります。明治大学政治経済学部のグローバル型特別入学試験は、出願資格に在外教育施設の修了者を明示しています。熊本学園大学の帰国子女入試にいたっては、在外教育施設の課程の卒業見込みがそれ単独で出願資格になります。
そして同じ大学の中で扱いが逆転している例まであります。横浜市立大学の2027年度は、海外帰国生特別選抜では「外国に設置されている教育機関であっても日本の教育制度に基づく在外教育施設を除く」としながら、公募制学校推薦型選抜では「出身高等学校(中等教育学校および文部科学大臣が高等学校の課程と同等の課程または相当する課程を有するものとして認定した在外教育施設を含む。以下同じ)の学校長が推薦する者」としています。帰国生枠では「海外の学校ではない」、推薦枠では「日本の高校と同じ」。同じ大学が、入試ごとに違う顔をしています。
要項を読むときのコツ|「日本人学校」という言葉は出てこない
実務的な注意を2つ。1つめは用語です。今回確認した範囲で、募集要項に「日本人学校」と書いている大学はほとんどありませんでした。使われるのは「在外教育施設」か、「日本の学校教育法に準拠した教育を施している学校」という言い回しです。「日本人学校」で要項内を検索しても、何も出てこないことがあります。
2つめは探す場所です。除外は本文ではなく注記や括弧書きに置かれていることがほとんどでした。「(注2)」「※」の中に、いちばん大事な一文があります。出願資格の本文だけを読んで判断しないでください。
なお、これは大学に入れないという話ではまったくありません。日本人学校の高等部を卒業すれば、学校教育法施行規則第150条第2号により大学入学資格そのものは当然にあります。日本の高校生と同じ一般選抜を受けられます。問題になるのは「帰国生入試という別枠を使えるか」だけです。ただし全日制の日本人学校で高等部があるのは上海の1校で、多くの家庭は高校段階で日本に戻るか別の学校を選ぶことになります。そのあたりは日本人学校に高校はあるのかにまとめています。
文部科学省は、在外教育施設についてこう説明しています。
中学部卒業者は、国内の高等学校の入学資格を、高等部卒業者は、国内の大学の入学資格をそれぞれ有します。
根拠は学校教育法施行規則第95条第2号です。先ほど引用した東京都の要綱に「施行規則第95条第2号に規定する文部科学大臣が…認定した在外教育施設」とあったのは、この条文のことを指しています。日本人学校の中学部を出れば、日本の高校を受験する資格そのものは全国どこでもあります。問題になるのは「帰国生の枠を使えるか」という上乗せの制度のほうだけです。ここを分けて考えると、話がずいぶん整理されます。
帰国したあとの手続き|住民票を戻すと学齢簿が動く
受験の話から、日々の手続きに移ります。公立の小中学校への編入は、住民票と連動しています。海外へ出るときに転出届を出すと住民票が消除され、それに伴って学齢簿も消除されます。帰国して転入届を出すと、その逆が起きます。文部科学省の就学事務に関する説明では、海外転出について次のように整理されています。
市町村に住民基本台帳法に基づく転出届を提出することにより住民票が消除され、それに伴い学齢簿も消除される
つまり就学の手続きの起点は学校ではなく役所です。帰国したらまず転入届を出す。そこから就学通知が動きます。なお同じ資料では、海外滞在が1年未満の場合は在学関係を変更する必要はないとされています。短期の赴任で住民票を抜いていない家庭は、扱いが変わります。

言葉が違う|日本人学校からの帰国は「転入学」ではなく「編入学」
窓口で話が噛み合わない原因になるので、先に用語を揃えておきます。指導要録の記載事項を定めた文部科学省の通知は、この2つを別のものとして書き分けています。
(2) 編入学等
第1学年の中途又は第2学年以上の学年に,在外教育施設や外国の学校等から編入学した場合,又は就学義務の猶予・免除の事由の消滅により就学義務が発生した場合について,その年月日,学年及び事由等を記入する。
5 転入学
他の小学校等から転入学してきた児童について,転入学年月日,転入学年,前に在学していた学校名,所在地及び転入学の事由等を記入する。
つまり日本人学校から日本の学校に入るのは「編入学」で、日本国内の学校どうしの「転入学」とは別のカテゴリです。逆方向も同じで、日本の学校から日本人学校へ移るときは「転学」ではなく「退学」の扱いになります。
この違いは書類の名前にも出ます。神戸市と武蔵野市は「編入学通知書」、名古屋市は「転入学通知書」、横浜市・川崎市・練馬区・新宿区は「入学通知書」、藤沢市とさいたま市は「就学指定校通知書」、大阪市は「就学通知書」。同じ手続きなのに、自治体によって呼び名が6通りに割れています。「転校の手続きをしたい」と言うと通じないことがあるので、「海外の日本人学校から帰国したので編入学したい」と伝えるのが確実です。
在籍していた日本人学校から受け取っておくもの
見落としやすいのが、出国する側で受け取っておく書類です。ハノイ日本人学校は、退学時に保護者へ手渡すものをはっきり公開しています。
(2)国内の学校への編入学にあたっては、次の書類を学校より保護者に手渡します。
○在学証明書 ○指導要録の写し ○健康診断票 ○歯の検査票
この4点が事実上の標準セットです。杭州日本人学校はこれに教科用図書給与証書と氏名ゴム印を加えた6点を渡すとし、指導要録の写しは「袋入り・開封無効」と明記しています。封は開けないでください。
ただし学校によってやり方が違います。ジャカルタ日本人学校とホーチミン日本人学校は学則で、校長が編入学先の校長へ送付すると定めています。シンガポール日本人学校やバンコクの泰日協会学校は「書類一式をお渡しします」とだけ書き、書類名を公開していません。シンガポール日本人学校は「別途申請は不要です」と自動交付ですが、台北日本人学校は申請制で「証明書発行には2週間程度お時間をいただきます」としています。退学の直前に頼んでも間に合わないことがあります。
そして補習授業校は全日制の日本人学校とは書類が別物です。補習授業校で発行されるのは在学証明書と教科書給与証明書が中心で、指導要録や健康診断票は出てきません。同じつもりで準備すると足りなくなります。
受け入れ側が求めるものも、自治体でこれだけ違う
今回、10の自治体の案内も読み比べました。必要書類の案内が、驚くほど揃っていません。横浜市は在学証明書・指導要録の写し・教科用図書給与証明書・健康診断票の4点、さいたま市は在学証明書と教科用図書給与証明書に加えていま持っている教科書の現物、大阪市は在学証明書・日本スポーツ振興センター共済加入証明書・教科用図書給与証明書。一方で練馬区と藤沢市の案内はパスポートだけです。
日本人学校出身かどうかで扱いを変えている自治体もあります。川崎市の案内がいちばん明快です。
海外で日本人学校(補習校の場合も含む)に通っていない場合は(現地校、インターナショナルスクール等にのみ通学)、日本の学校への転校手続きの際に必要な書類の提出は「任意」となります。
つまり日本人学校に通っていた家庭のほうが、そろえる書類は多くなります。日本の学籍がつながる分だけ、引き継ぐものがあるからです。武蔵野市のように「機関が証明書を発行していないという場合は不要です。編入学時にお持ちの教科書を聞き取りで確認させていただきます」と例外まで書いてくれている自治体もあります。帰国先が決まった時点で、その市区町村の案内ページを一度読んでおいてください。
教科書|3月に帰国すると、その年度は新しくもらえないことがある
海外にいる間、日本の教科書は在外公館を通じて配られ、年度の途中で出国する場合は公益財団法人 海外子女教育振興財団への申請で受け取ります。帰国して編入学すれば、日本の学校の無償給与の対象に戻ります。
ここで時期がひとつ効きます。義務教育諸学校の教科用図書の無償措置に関する法律施行規則は、学年の途中で移った子に新しい教科書を給与する場合を「二月末日までの間に転学した児童又は生徒について」と定めています。3月に入ってからの帰国は、その年度の新規給与の対象から外れます。福井県教育委員会の事務要領も「3月中に転入学してきた児童生徒については、2月末日までが転学給与の対象とされているので、後期転学用で給与しないこと」と明示しています。3月帰国そのものが悪いわけではありませんが、教科書は自分で用意することになる可能性があると知っておくと慌てません。
なお、教科用図書給与証明書を持って帰れなかった場合について、文部科学省は「教科用図書給与証明書がなくとも教科書給与を行うよう都道府県教育委員会等を通じて周知しています」としています。学校で求められて困ったときは、この周知があることを伝えてください。
学年はどうなるか|原則は年齢相当。「日本人学校だから」というルールはない
帰国後の学年について、文部科学省はこう説明しています。
外国から帰国した学齢児童生徒の小・中学校への編入学に当たっては、原則として、その年齢に応じ、小学校、中学校又は義務教育学校の相当学年に編入学することになります。
つまり年齢で決まるのが原則です。そのうえで例外も置かれています。
帰国児童生徒の日本語能力等の事情により、直ちに相当学年の教育を受けることが適切でないと認められるときは、学校の生活に適応するまで、一時的に下級の学年に編入する措置をとることも可能です。(略)この場合、指導要録上は学齢相当学年に編入したものとしておく必要があります。
ここで正確にお伝えしておきたいことがあります。「日本人学校出身だから学年が下がらない」というルールは、どこにも書かれていません。文部科学省の文書に、日本人学校の出身者と現地校の出身者で学年の扱いを分ける記述はありませんでした。学年を下げる引き金になるのは、あくまで「日本語能力等の事情」のほうです。
そのうえで、日本人学校から帰る子はその事情に当てはまりにくいとは言えます。「在外教育施設の認定等に関する規程」は、認定を受けた日本人学校について修業年限を国内の学校に相当するものとし、教育課程を「学校教育法及び学校教育法施行規則並びに小学校学習指導要領、中学校学習指導要領又は高等学校学習指導要領の定めるところによらなければならない」と定めています。文部科学省も「教育課程は、原則的に国内の学習指導要領に基づき、教科書も国内で使用されているものが用いられています」と説明しています。同じ課程を、同じ教科書で進めてきたのだから、日本語で授業を受けること自体には支障が出にくい、という関係です。
ちなみに編入する学年について案内に書いている自治体は、今回調べた10のうち横浜市だけでした(「学校では年齢相当学年に編入学し、学級が決まります」)。下学年編入について触れている自治体はゼロです。文部科学省が可能だと書いていても、窓口で同じ説明が出てくるとは限らない、ということです。
では、日本人学校から帰ると何も困らないのか
制度の面は、いま見てきたとおりおおむね揃っています。それでも実際に帰国した家庭が口をそろえて言うのは、国語です。ここだけは、日本人学校に通っていても自動的には埋まりません。

文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(令和7年度・基準日は令和7年5月1日、公表は令和8年5月25日)は、対象をこう定義しています。
本調査における「日本語指導が必要な児童生徒」とは、日本語で日常会話が十分にできない児童生徒、もしくは、日常会話ができても学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じている児童生徒を指す。
注目してほしいのは後半です。日常会話ができても対象になる、と国が定義に書いています。「話せること」と「学年相当の教科の日本語が読み書きできること」は別だ、というのがこの調査の前提です。
そして数字が具体的です。この調査で日本語指導が必要とされた公立学校の児童生徒は84,759人、そのうち日本国籍は11,446人。その日本国籍の子どもを言語別に見たとき、最も多いのが「日本語」で27.7%でした。家では日本語だから大丈夫、を国の調査が正面から崩している数字です。
さらに同じ調査は、日本語指導が必要な日本国籍の子どものうち「海外から帰国した児童生徒」が2,537人(22.2%)いることを別に集計しています。学校段階が上がるほど比率は高く、高等学校では31.9%。4人に1人から3人に1人が、帰国した子どもです。
量の面でも差が出ます。小学校の国語の標準授業時数は、学校教育法施行規則の別表第一で1年生から順に306・315・245・245・175・175時間と定められています(合計すると6年間で1,461時間)。学年別漢字配当表の字数は「小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 国語編」に80・160・200・202・193・191字=計1026字と示されています。日本人学校はこの課程に沿って授業をしているので時数そのものは確保されていますが、教室の外が日本語でない環境では、読む量と書く量が日本にいる子と同じにはなりません。帰国して最初につまずくのが、漢字と、文章を書く力である家庭が多いのはこのためです。駐在中の国語をどう積むかは駐在家庭の国語と帰国後にまとめています。
帰国が決まってからやることの順番
最後に、時間の順に並べておきます。
①帰国先の自治体を決める前に、要項を読む。帰国生の枠は自治体ごとに制度も条件も違います。高校受験が視野にあるなら、住む場所を決める段階で、その都道府県の実施要綱に目を通しておくと後戻りがありません。「県名」ではなく「制度名」まで下りて確認してください。福岡県のように、同じ特例措置の中で2つの制度の扱いが分かれている例があります。
②在籍校で書類を受け取る。指導要録の写しなど、退学・転出の手続きの中で受け取るものを確認します。帰国してからでは取り寄せに時間がかかります。
③帰国したら、まず転入届。就学の手続きは住民票から動きます。
④国語だけは、帰る前から始める。手続きは帰国後で間に合いますが、国語の遅れは帰国後に取り戻すほうが大変です。編入して周りが当たり前に読み書きしている中で追いつくより、まだ海外にいるうちに学年相当まで積んでおくほうが、子どもの負担がずっと軽くなります。
通わせながら、国語だけ日本の水準に合わせる方法
日本人学校は、海外で日本の教育課程を受けられる貴重な場です。学年も教科も日本と揃っていて、帰国したときのつなぎ目がいちばん小さい選択肢でもあります。この記事で見てきたとおり、制度の面では日本人学校は不利になりません。
それでも、読む量と書く量だけは環境で決まります。日本人学校に通っていても、放課後も休日も日本語の本に触れない生活が数年続けば、学年相当の国語との差は静かに開きます。全日制がない任地で補習授業校に通っている場合は、さらに差がつきます。
ともだちじゃぱんは、そこだけを引き受けるオンラインの日本語スクールです。日本の現役水準の教員が、学年相当の国語を8人までの少人数クラスで担任制で教えます。授業はオンラインなので送迎はいりません。土曜がまるごとつぶれることもありません。そして日本の同世代の子どもたちと一緒のクラスなので、勉強だけでなく、帰国したときに話が通じる相手が先にできます。費用は月額定額(税込・通い放題)です。
帰国の時期が決まっている家庭ほど、始める時期が効きます。帰ってから追いつくより、いるうちに揃えるほうが、子どもはずっと楽です。
帰国の準備は、いま通っている学校で受け取る書類と、帰国先の受け入れの両方を並行して進めることになります。赴任先ごとの学校事情(学費・在籍規模・現地校との比較)は、都市別の記事にまとめています。
都市別:シンガポールの学校選び|日本人学校と現地校・インター/バンコクの学校選び|日本人学校と現地校・インター/上海の学校選び|日本人学校と現地校・インター/香港の学校選び|日本人学校と現地校・インター/台北の学校選び|日本人学校と現地校・インター/ソウルの学校選び|日本人学校と現地校・インター/ロンドンの学校選び|日本人学校と現地校・インター/デュッセルドルフ日本人学校の学費とインター比較/ニューヨークの学校選び|日本人学校と現地校・インター/シドニーの学校選び|日本人学校と現地校・インター
よくある質問
日本人学校に通っていると、帰国生の枠は使えないのですか?
使える自治体のほうが多数派です。今回10都道府県の要綱を確認したところ、日本人学校の在籍だけでは出願できない制度は東京都の9月入学と福岡県の特別学力検査の2つでした。多くの自治体は「どんな学校にいたか」ではなく「海外に何年住んでいたか」「帰国して何年か」で条件を書いています。京都府のように、要項の備考で「日本人学校を含む」と明記している例もあります。中学受験での扱いは帰国子女枠の中学受験と日本人学校、高校受験の条件の読み方は帰国子女の高校受験の条件にまとめています。
東京都の9月入学に出せないなら、東京は諦めるしかないですか?
いいえ。東京都教育委員会の公表資料は「9月募集には応募できない」と書いたうえで、同じ生徒が4月募集には応募資格をもつと明記しています。4月入学の海外帰国生徒対象の選抜には、日本人学校の修了見込者を対象とする号がきちんと置かれています。入り口が4月のほうだ、というだけです。
日本人学校の中学部を卒業したら、日本の高校を受験できますか?
できます。文部科学省は在外教育施設について「中学部卒業者は、国内の高等学校の入学資格を、高等部卒業者は、国内の大学の入学資格をそれぞれ有します」と説明しています。根拠は学校教育法施行規則第95条第2号です。帰国生の枠を使えるかどうかとは別に、一般の入試を受ける資格は全国どこでもあります。日本人学校の中学部の中身は日本人学校の中学部、高等部の状況は日本人学校に高校はあるのかで扱っています。
大学の帰国生入試でも、日本人学校の期間は海外にいた期間として数えてもらえますか?
大学によって割れます。東京大学は「在外教育施設を修了した者は出願が認められません」と明記し、公式Q&Aで「日本の教育制度に基づく学校であるため、外国の教育制度に基づく教育課程として認められません」と説明しています。お茶の水女子大学・京都大学経済学部・一橋大学・学習院大学などは「その期間を外国において学校教育を受けたものとはみなさない」としています。一方で明治大学政治経済学部や熊本学園大学のように、在外教育施設の修了者を出願資格に明示している大学もあります。国は大学の帰国生入試の出願資格を定めていないため、線引きは各大学の裁量です。要項では「日本人学校」ではなく「在外教育施設」という語が使われ、除外は注記や括弧書きに置かれていることが多いので、そこまで読んでください。
帰国したら、学年は下がりますか?
原則は年齢相当の学年です。文部科学省は「原則として、その年齢に応じ…相当学年に編入学することになります」としたうえで、日本語能力等の事情により一時的に下級の学年へ編入する措置も可能としています。日本人学校の出身だから下がらない、というルールがあるわけではありません。ただし日本人学校は認定基準により国内の学習指導要領に基づく教育課程で、教科書も国内のものを使っているため、この例外に当てはまりにくい状況にはあります。中学の編入の手続きは帰国子女の中学編入を参照してください。
帰国前に、日本人学校で受け取っておくものは何ですか?
ハノイ日本人学校は、退学時に保護者へ手渡すものとして在学証明書・指導要録の写し・健康診断票・歯の検査票の4点を公開しています。これが標準的なセットです。ただし学校ごとに扱いが違い、ジャカルタやホーチミンの日本人学校は学則で校長から編入学先の校長へ送付すると定めていますし、台北日本人学校は申請制で発行に2週間程度かかるとしています。退学の直前ではなく、帰国が決まった時点で在籍校に確認してください。指導要録の写しは封をしたまま渡されるので、開封しないでください。
3月に帰国します。教科書はもらえますか?
その年度の新規給与の対象から外れる可能性があります。教科書の無償措置に関する法律の施行規則は、学年の途中で移った子への給与を「二月末日までの間に転学した児童又は生徒について」と定めているためです。3月帰国そのものに問題はありませんが、教科書を自分で用意することになる場合があると見込んでおいてください。なお教科用図書給与証明書を持ち帰れなかった場合について、文部科学省は「教科用図書給与証明書がなくとも教科書給与を行うよう都道府県教育委員会等を通じて周知しています」としています。
帰国後の就学手続きは、どこから始めればいいですか?
市区町村への転入届からです。海外へ出るときの転出届で住民票が消除され、それに伴って学齢簿も消除されます。帰国して転入届を出すと学齢簿が編製され、そこから就学の手続きが動きます。学校に直接連絡するより先に、まず役所です。なお海外滞在が1年未満の場合は、在学関係を変更する必要はないとされています。
日本人学校に通っていれば、国語は放っておいても大丈夫ですか?
授業時数は確保されますが、環境の差は残ります。文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」は対象を「日常会話ができても学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じており、日本語指導が必要な児童生徒」と定義しています。令和7年度調査では、日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒11,446人のうち22.2%にあたる2,537人が「海外から帰国した児童生徒」でした。同じ調査で、日本語指導が必要な日本国籍の子どもを言語別に見たときの最多が「日本語」で27.7%でした。読む量と書く量は教室の外で決まるので、意識して足す必要があります。帰国後に国語で何が起きるかは帰国子女の国語、漢字については帰国子女の漢字で詳しく書いています。
任地に全日制の日本人学校がありません。どうすればいいですか?
世界の日本人学校の所在は海外の日本人学校の一覧にまとめています。近くにない場合の選択肢は補習授業校が中心になりますが、週1回の通学で積める量には限りがあります。制度の違いは補習授業校と日本人学校は何が違うのか、費用の目安は日本語補習校のしくみと費用、通えない場合の代わりの手は補習校の代わりになるもので扱っています。
この記事で取り上げた都市のある国は、その国にある日本人学校の校数と学費を国単位でも整理しています。タイの日本人学校の学費/中国の日本人学校の学費/台湾の日本人学校の学費/韓国の日本人学校の学費/アメリカの日本人学校の学費/イギリスの日本人学校の学費/ドイツの日本人学校の学費/オーストラリアの日本人学校の学費/香港日本人学校の学費。

