「日本語は普通に話せるのに、漢字だけが読めない・書けない」「ドリルを買って渡してみたけれど、続かない」――海外で子どもを育てるご家庭が、いちばん長く悩むのが漢字です。実際、「帰国子女 漢字」「帰国子女 漢字読めない」「帰国子女 漢字 書けない」「帰国子女 漢字苦手」と検索する保護者はとても多い。ところが検索してみると、出てくるのは体験談か、「毎日ドリルを」という精神論ばかりです。この記事では、文部科学省の学習指導要領と国の調査データだけを使って、「なぜ海外の子は漢字で置いていかれるのか」を構造として説明します。結論を先に言うと、原因はお子さんの努力不足でも、ご家庭の頑張りが足りないせいでもありません。算数の話です。
まず事実:小学校で習う漢字は1,026字
学年別漢字配当表(学習指導要領)で、各学年に配当されている漢字の数は次のとおりです。2020年度から全面実施されている現行の指導要領の数字です。
| 学年 | その学年の漢字 | 修了時の累計 | 国語の授業時数(年間) | 国語1時間あたりの新出漢字 |
|---|---|---|---|---|
| 小1 | 80字 | 80字 | 306時間 | 0.26字 |
| 小2 | 160字 | 240字 | 315時間 | 0.51字 |
| 小3 | 200字 | 440字 | 245時間(−70) | 0.82字 |
| 小4 | 202字 | 642字 | 245時間 | 0.82字 |
| 小5 | 193字 | 835字 | 175時間(−70) | 1.10字 |
| 小6 | 191字 | 1,026字 | 175時間 | 1.09字 |
| 中学校 | 常用漢字1,110字が加わり、合計2,136字(常用漢字) | ― | ― | |
この表のいちばん右の列が、この記事でお伝えしたいことのすべてです。「4年生が202字でいちばん多い」と字数だけを見ると、本当の負担を見誤ります。大事なのは、その漢字を教える時間が同時に減っていくことです。
漢字の「崖」は3年生と5年生に、2回ある
国語の授業時数は、2年生の315時間から3年生で245時間へ、一気に70時間減ります。ところが漢字は160字から200字へ増えます。そして5年生でもう一度、245時間から175時間へまた70時間減る。漢字はほぼ横ばいのままです。
結果として、国語1時間あたりに覚えるべき新出漢字は、1年生の0.26字から5年生の1.10字へ、約4.2倍になります。日本の教室にいる子ですら、学年が上がるほど漢字は「授業で丁寧に教わるもの」から「自分で身につけるもの」に変わっていく。これが、日本の学校の設計です。
ここに海外の条件が乗ります。現地校やインターに通っていれば、日本の国語の授業は0時間です。 4.2倍に密度が上がっていく坂道を、授業時間ゼロで登ることになる。「うちの子は漢字が苦手」ではなく、構造的にそうなるのです。

4年生の壁の正体は、都道府県の25字
もうひとつ、海外の子にだけ効いてくる事実があります。2020年度から、小学校で習う漢字は1,006字から1,026字に増えました。増えた分の正体は、4年生に配当された「都道府県名に用いる漢字25字」です。
文科省の解説はこう書いています。「今回の改訂においては、学年別漢字配当表の第4学年に、都道府県名に用いる漢字25字を配当した」。この25字のうち20字が新規追加(茨・媛・岡・潟・岐・熊・香・佐・埼・崎・滋・鹿・縄・井・沖・栃・奈・梨・阪・阜)で、これが1,006→1,026の+20の正体です。残る5字(賀・群・徳・富・城)は小学校内で学年が移動しただけなので総数は変わりません。
日本に住む4年生にとって、「栃木」「茨城」「愛媛」は、天気予報やニュースやプロ野球で毎日目に入る字です。海外の子には、その生活の実感がまるごとありません。文脈のない20字を、いきなり暗記だけで入れることになる。「4年生から急に漢字を嫌がるようになった」というご相談が多いのには、こういう理由があります。
「補習校に通っているから大丈夫」も、数字で確かめる
補習授業校は、海外で日本語と国語を学べる貴重で価値ある場所です。世界51カ国1地域に242校あり、約2万1千人が学んでいます。そのうえで、時間の話は正直にしておきたいと思います。
文部科学省が公開している補習授業校の統計(平成18年=2006年4月15日現在のもので、これが公開されている最新版です)によると、小学部の年間授業時間は「100時間以上150時間未満」が最も多く36.0%。年間授業日数は40日前後が中心です。ここで重要なのは、この100〜150時間が国語・算数などを合わせた全教科の合計だということです。同じ統計で、小学部の国語の実施率は137校中137校=100%ですが、算数も81.8%の学校が実施しています。
一方、日本の小学校の国語だけの標準授業時数は、3・4年生で245時間、1年生では306時間です。つまり補習校の全教科の合計時間が、日本の国語1教科の時間にすら届かないことが多い。だから補習校は「家庭学習が前提」で設計されています。アムステルダムの補習校は公式FAQでこう書いています。「補習校は年間わずか40日の授業で、日本の公立学校なみのレベルを履修することを目的としております」「家庭学習はぜひともしっかりやって頂かなくてはなりません」。
これは補習校が不誠実なのではなく、むしろ誠実に構造を認めているのだと思います。ただ、その「家庭学習」の中身が漢字であり、それを担うのが仕事帰りの保護者だという点に、無理が集中します。
国の調査が示す事実:「家では日本語」の子がいちばん多い
「うちは家族の会話が全部日本語だから、日本語は大丈夫」――これがいちばん多い安心の仕方で、いちばん危ない思い込みでもあります。
文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(令和7年度・公表2026年5月25日)によると、公立学校で日本語指導が必要な児童生徒は84,759人。そのうち日本国籍の子は11,446人います。そして――
その日本国籍の子を言語別に見ると、最も多いのは「日本語」で27.7%です。英語の18.4%より多い。つまり「家庭で日本語を話している子」が、日本語指導が必要な日本国籍の子の最大グループだということを、国の悉皆調査が示しています。
話す・聞くと、読む・書くは別の力です。家庭の会話は、漢字を連れてきてくれません。「話せる」と「学年相当の国語ができる」の間には、1,026字ぶんの距離があります。

帰国したら学年は戻る。でも漢字は戻らない
保護者からの質問で多いのが「漢字が弱いと、帰国したとき下の学年に入れられますか」というものです。文部科学省の就学手続の説明は、こうです。
「その年齢に応じ、小学校、中学校又は義務教育学校の相当学年に編入学することになります」。例外として「帰国児童生徒の日本語能力等の事情により、直ちに相当学年の教育を受けることが適切でないと認められるときは、学校の生活に適応するまで、一時的に下級の学年に編入する措置をとることも可能です」。そして安心できる一文がもうひとつあります。「この場合、指導要録上は学齢相当学年に編入したものとしておく必要があります」。
つまり学年は年齢で決まり、記録にも学齢相当として残ります。ここは心配しなくて大丈夫です。ただし――だからこそ厳しいとも言えます。5年生で帰国すれば、5年生の教室に座ります。そこで配られるのは5年生の漢字と、5年生の記述問題です。 学年は自動で戻る。漢字は自動では戻らない。埋めるべきは、その差です。
漢検を「物差し」として使うと、穴が見える
漢字の遅れが怖いのは、どこが抜けているか見えないからです。ここで使えるのが日本漢字能力検定(漢検)です。あまり知られていませんが、漢検の級は、学年別漢字配当表の累計とぴったり一致します。
- 10級=80字(小1修了程度)/9級=240字(小2)/8級=440字(小3)
- 7級=642字(小4)/6級=835字(小5)/5級=1,026字(小6修了程度)
- 4級=1,339字(中学在学)/3級=1,623字(中学卒業)/2級=2,136字(=常用漢字すべて)
上の一覧の字数を、この記事のいちばん最初の表の「累計」の列と見比べてみてください。80/240/440/642/835/1,026――完全に同じです。つまり漢検は、市販のドリルとは違って「今、何年生ぶんまで埋まっているか」を学年の物差しで測れる、唯一の公的なはしごなのです。「6級は取れたが5級で落ちる」なら、抜けているのは小6の191字だとはっきりわかります。
ただし海外での受検には現実的な制約があります。ここは正直に書きます。
- 海外は「団体受検(準会場)」のみで、日本国内のような公開会場の個人受検はありません。2〜10級のみの実施です。
- 準会場を設置するには協会への申請と承認が必要で、志願者がのべ10人以上いることが条件です。
- 協会が公開している海外の受検会場は世界で10会場のみ(米ニューヨーク/米CAプレザントン/米ナッシュビル/カナダ・バンクーバー/フランス・グルノーブル/ドイツ・デュッセルドルフ/タイ・バンコク/韓国・蔚山/豪ブリスベン/豪シドニー)。シンガポール・マレーシアの掲載はありません。
- 検定料(準会場・紙・税込)は10〜8級 2,200円/7〜5級 2,700円/4〜準2級 3,200円。
「海外でも漢検は受けられます」と気軽に書かれていることが多いのですが、実際にはお住まいの街に準会場がなければ受検できません。まずは通っている補習校や日本人会が準会場になっているかを確認してみてください。
それでも、焦らなくていいところ
最後に、保護者を少し楽にする公式の事実をひとつ。小学6年生で習う漢字の「書き」は、小学校の卒業時点で完璧である必要はありません。 学習指導要領解説は、第6学年配当漢字の書きについて「中学校の第2学年までの間で確実に身に付け、使えるようにする」としています。国の設計そのものが、漢字の定着に数年の幅を見込んでいるのです。
だから、いま漢字が書けないことを責める必要はまったくありません。必要なのは止めないことと、学年から離れすぎないこと。この2つだけです。
ともだちじゃぱんが、漢字にできること
ともだちじゃぱんは、国内最大級のオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」(在籍1,000名超)を運営する株式会社NIJINのオンライン日本語スクールです。ドリルでも、マッチング型の家庭教師でもありません。現役水準の先生が学年相当の国語を、日本の同世代とのつながりのなかで教えます。
① 減っていく「時間」を、こちらで足す
この記事の中心にあった問題は、結局のところ時間が足りないことでした。ともだちじゃぱんは通い放題の定額(月24,800円・税込)で、平日の夜=放課後に自宅から毎日受けられます。週1回・年40日ではありません。1時間あたり1.10字という坂道に、授業の時間そのものを当てます。
② 教えるのは、今の日本の教室を知っている先生
講師は採用合格率およそ2%の選抜です。実はここも、国の文書が裏づけています。文科省「在外教育施設未来戦略2030」は、補習授業校の授業を担当する「学校採用教師・講師の多くは他の仕事と兼職しており、日本の教員免許状を有していない者も多い」と率直に記しています。漢字は「書き取り20回」で入る子と入らない子がいて、部首から入るのか熟語から入るのか、どの学年で何につまずいているのか――そこを見分けるのが、教員の専門性です。都道府県の25字も、地図と物語のなかで扱えば、暗記ではなくなります。
③ 「友達と話したいから」続く
8人制の少人数クラスに担任の先生がつき、日本に住む同世代の子どもたち(NIJINアカデミーの仲間)と毎日交流します。漢字が続かない最大の理由は、難しいからではなく「使う相手がいないから」です。読む相手、書いて送る相手がいると、漢字は覚えるものから使うものに変わります。1期生は入会金無料で、在籍中はこの価格のままです。

よくある質問
帰国子女はなぜ漢字が読めない・書けないのですか?
努力の問題ではなく、時間の構造の問題です。小学校で習う漢字は1,026字ある一方、国語の授業時数は2年生の315時間から5年生の175時間へと減っていきます。その結果、国語1時間あたりの新出漢字は1年生の0.26字から5年生の1.10字へ約4.2倍になります。現地校やインターに通っていれば日本の国語の授業は0時間ですから、この坂道を授業時間ゼロで登ることになります。話す・聞くと、読む・書くは別の力で、家庭の日本語会話だけでは漢字は入りません。
漢字ドリルだけで足りますか?
ドリルは「量」を確保する道具としては有効ですが、どこが抜けているかを見つけたり、つまずきの原因を見分けたりはしてくれません。特に4年生の都道府県名の漢字25字のように、海外の子には生活の実感がなく文脈のない字は、反復だけだと嫌いになりやすい部分です。まずは漢検の級(10級=80字…5級=1,026字)で今どの学年ぶんまで埋まっているかを可視化し、抜けている学年に戻って教える人がいる形にするのが近道です。
海外でも漢検は受けられますか?
受けられますが、「団体受検(準会場)」のみ・2〜10級のみです。準会場の設置には協会への申請と承認、および志願者のべ10人以上が必要で、協会が公開している海外の会場は世界で10会場のみ(米ニューヨーク、米CAプレザントン、米ナッシュビル、カナダ・バンクーバー、仏グルノーブル、独デュッセルドルフ、タイ・バンコク、韓国・蔚山、豪ブリスベン、豪シドニー)です。シンガポールやマレーシアの掲載はありません。検定料は準会場・紙で10〜8級2,200円/7〜5級2,700円/4〜準2級3,200円(税込)。詳細は各会場へ直接ご確認ください。
漢字が弱いと、帰国したとき学年を下げられますか?
原則は年齢に応じた相当学年への編入です。「日本語能力等の事情により、直ちに相当学年の教育を受けることが適切でないと認められるとき」に一時的に下級学年へ編入する措置もありますが、その場合でも「指導要録上は学齢相当学年に編入したものとしておく必要があります」と文部科学省が明記しています。記録上は学齢相当のままです。編入の手続き全体は帰国時の編入手続きと学年もご覧ください。
小学校を卒業するまでに1,026字を完璧にしないといけませんか?
いいえ。学習指導要領解説は、第6学年配当漢字の「書き」について「中学校の第2学年までの間で確実に身に付け、使えるようにする」としています。国の設計自体が数年の幅を見込んでいます。焦って詰め込むより、学年から離れすぎないように続けることのほうが大切です。国語全体の考え方は海外駐在×子どもの国語・日本語 完全ガイド、帰国後の国語については駐在中の国語、帰国後に間に合う?、補習校に通えない場合は補習校に通えない・続かない子へもどうぞ。

