「うちの子、日本語ができないんです」――帰国が近づいたご家庭から、いちばん多く届く言葉です。ところが詳しく伺っていくと、同じ「帰国子女 日本語できない」でも、中身は家庭ごとにまるで違います。ペラペラ話すのに教科書が読めない子。聞けば全部分かるのに一言も口を開かない子。話しはするけれど言葉が幼いまま止まっている子。この3つは原因も、いま打てる手も別物です。この記事では、文部科学省の定義と最新の調査をもとに3つを分けて整理します。
「日本語ができない」は、3つの違う状態をひとまとめにした言い方
まず、制度の側がこの言葉をどう扱っているかを見ておきます。文部科学省は「日本語指導が必要な児童生徒」を、「日本語で日常会話が十分にできない者」と、「日常会話はできても、学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じている者」の2つに分けて定義しています。公的な物差しでも、会話ができることと、学校の勉強ができる日本語を持つことは別に数えられているということです。
そしてこの対象には、外国籍の子だけでなく海外から帰国した児童生徒が明記されています。文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(令和7年5月1日現在・令和8年5月25日公表)では、公立小・中・高等学校等で日本語指導が必要な児童生徒は84,759人、うち日本国籍の児童生徒は11,446人でした(国立・私立を含めた全体は88,045人)。この11,446人には帰国した子のほか、重国籍の子や、保護者の一人が外国籍で家庭内の言語が日本語ではない子も含まれます。
もうひとつ目を引くのが言語別の内訳です。日本国籍で日本語指導が必要とされた子を言語別にみると、最も多いのは「日本語」で27.7%、次いで英語が18.4%でした(公立)。日本語を使う環境にいながら学習に必要な日本語が足りていないと判断された子が、いちばん大きな塊だということです。「話しているのに、できない」は例外ではなく典型なのです。

タイプ① 話せるのに、読めない・書けない
いちばん多く、いちばん気づかれにくいのがこの型です。家では日本語で普通に話す。一時帰国すれば「上手だね」と褒められる。それなのに、学年相当の教科書を渡すと止まります。ひらがな・カタカナは読めるのに、漢字混じりの説明文になると音読が途切れる。書かせると、話し言葉のままの文が短く並ぶ。
背景ははっきりしています。会話は毎日の生活が勝手に鍛えますが、読み書きは誰かが教えない限り伸びません。現地校やインターに通えば、平日の読み書きの時間は現地の言語に使われ、日本語の読み書きは補習校か家庭学習の枠でしか積み上がりません。日本の小学校が6年間で1,026字の漢字を国語の時間に積み上げていく、その時間だけがそっくり抜け落ちる家庭は珍しくありません(漢字が読めない・書けないの正体)。
見分け方は簡単です。学年相当の教科書を1ページ音読させてみる。会話の流暢さと音読のつまずき方のギャップが、そのまま答えです。同じ現象はインターに通う家庭でも起き、仕組みは会話止まりになる理由で扱っています。

タイプ② 聞けば分かるのに、話さない
親の日本語はすべて理解している。指示も通る。アニメも字幕なしで見る。なのに返事は現地語か、うなずきだけ。日本語で話しかけると露骨に嫌がる――という相談も同じくらい多く届きます。
これは能力の問題というより、受け取る力だけが先に伸び、出す力が置いていかれた状態です。言葉は聞くほうが先に育ち、出すほうは「使う場面」がないと育ちません。海外で暮らしていると、日本語を出す相手は親だけになりがちです。相手が親一人だと、子どもは正しく言えるかどうかを常に採点されている感覚になり、間違えるくらいなら黙るほうを選びます。「発音を直される」「幼い言い方を笑われた」が重なると、口はさらに重くなります。
だから、この型に効くのは教材ではなく相手です。親でも先生でもない、採点しない同世代がいると、話す量は急に増えます。日本語を話したがらない5つの理由と話さなくなったときの見立てもあわせてどうぞ。
タイプ③ そもそも語彙が、年齢に届いていない
3つめは、話しはするけれど言葉のストックが生活の範囲で止まっている型です。「おなかすいた」「行きたくない」「これ買って」は言える。けれど「たぶん」「つまり」「一方で」「〜のような気がする」といった、考えを組み立てるための言葉が出てこない。理由を聞いても「なんか、いやだった」で終わる。
語彙は、触れた場面の数だけ増えます。日本にいる子は授業・行事・友達の会話・本を通じて、生活語彙のうえに抽象語と書き言葉を毎日積みます。日本語に触れる場面が「家族の会話」だけになると、生活語彙は不自由なく回るぶん、その上の層が空白のまま年齢だけが進みます。第二言語教育では生活場面の言葉と学習場面の言葉を分けて考える見方が広く使われ、後者のほうが時間がかかるとされます。ただし「何年で身につく」と一律に言える公的な数値は確認できませんので、年数の目安は参考程度に。
この型は、テストの点より先に会話の深さに出ます。「今日どうだった?」に一言しか返らないとき、面倒くさがっているのではなく言葉が足りていないことがあります。年齢別の積み方は継承語を学齢相当に育てる方法にまとめました。

| どう見えるか | 背景 | 海外での打ち手 | 帰国後の手当て | |
|---|---|---|---|---|
| ①話せるが読めない・書けない | 会話は流暢。学年相当の音読で止まる。作文が話し言葉のまま | 読み書きは教わらないと伸びず、その時間が生活にない | 学年相当の教材を量より頻度で。読む・書く時間を週に固定 | 教科書の語彙と記述の型。全教科に波及する |
| ②聞けば分かるが話さない | 理解はできる。返事は現地語かうなずき | 受け取る力だけ先行。出す相手が親だけ | 採点しない同世代の相手をつくる | 教室で発言できるまでの助走。友達関係に直結 |
| ③語彙が年齢に届いていない | 話すが言葉が幼い。理由を説明できない | 触れる場面が家族の会話だけ。抽象語と書き言葉が空白 | 本・同世代との雑談で触れる量を増やす | 教科の用語。理科・社会の問題文が読めない形で出る |
| 3つが混ざる場合 | 低学年で②、高学年で①③が前に出やすい | 渡航年齢・在外年数・家庭の言語環境で比率が変わる | 重い型から1つだけ。同時に3つは続かない | どの型かを言葉にして学校に伝える |
気づくのは、たいてい帰国したあと。この時間差が厄介
3つの型に共通する、いちばん大事な話がこれです。海外にいる間、これらはほとんど困りません。現地校の成績は良い。家では話が通じる。日本語ができないという事実は、海外の生活の中では誰にも採点されないのです。
露見するのは帰国後、しかも、いっぺんに3か所で出ます。ひとつは授業。理科や社会の問題文が読めない、記述欄が埋まらないという形で全教科に波及します。ふたつめは友達関係。休み時間の話題についていけず口数が減ります。みっつめは進学。入試も学校の評価も、日本語で読んで書けることを前提に組まれています。3つが同時に来るので、本人は「日本語」ではなく「自分」に問題があると受け取りがちです。なじめなさの正体は逆カルチャーショックと友達の力で扱いました。
ここでひとつ、はっきり分けておきたいことがあります。「日本語ができない」と「国語ができない」は別の話です。前者は言語そのものの土台、後者は教科としての読解・記述・文法の話で、必要な手当ても違います。教科としての国語のつまずきをどう分解するかは「できない」の正体を4つの層に分けるにまとめてあるので、お子さんが①の型に当てはまりそうなら、そちらを続けて読んでください。
制度の側の受け皿にも少し触れておきます。公立学校では平成26年度から「特別の教育課程」による日本語指導が制度化され、帰国児童生徒も対象に含まれます(義務教育段階で年間10〜280単位時間が標準)。ただし令和7年度調査では、日本語指導が必要とされながら学校で特別な配慮に基づく指導を受けていない子が9,699人(11.4%)いました。何が受けられて何が受けられないかは公立で受けられる支援とその限界に整理しています。
では、いつ手をつけるか。答えは帰国が決まる前です。帰国後の数か月は引っ越し・手続き・新しい学校への適応で埋まり(編入・転入手続きの流れ)、その時期に言葉の土台を作り直すのは現実的ではありません。やることの順番は帰国が決まったらやる国語のことにまとめました。
正直に申し上げると、ともだちじゃぱんは日本語指導の専門機関でも、受験対策の塾でもありません。診断や個別の言語療育が必要な段階なら、専門機関のほうが確実です。私たちが担えるのは、②の「出す場面がない」と③の「触れる量が足りない」を日常の側から埋めること――そして①の土台になる学年相当の日本語を切らさないことです。母体は国内最大級のオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」を運営する株式会社NIJIN。講師は採用合格率およそ2%の選抜を通った今の日本の教室を知る現役水準の教員で、8人の少人数クラスには日本に住む同世代の仲間がいます。「勉強だから」ではなく「友達と話したいから」続くので、②の子でも口が開きやすい。料金は通い放題で月額定額です。補習校や家庭教師と並べたい方はオンラインの選び方もどうぞ。
まずはどの型なのかを確かめたい方へ。1分でできる学年相当・国語力チェック(無料)で、お子さんの「学年の穴」の目安がわかります。

よくある質問
日本語がペラペラでも「日本語ができない」と言われることはありますか?
あります。文部科学省は「日本語指導が必要な児童生徒」を、日常会話が十分にできない子だけでなく、日常会話はできても学年相当の学習言語が不足し、学習活動への参加に支障が生じている子も含めて定義しています。令和7年度調査で日本国籍の子を言語別にみると、最も多いのは「日本語」で27.7%でした。会話の流暢さは、学校の勉強に必要な日本語がある証明にはなりません。
うちの子がどのタイプか、家庭で見分ける方法はありますか?
3つを順に試してください。まず学年相当の教科書を1ページ音読させる――止まるなら①。次に日本語で質問して日本語で答えさせる――理解しているのに現地語で返るなら②。最後に「なぜそう思ったの?」と理由を説明させる――「なんか」で終わるなら③です。絞れないときは、いちばん本人がつらそうな型からで構いません(作文が書けないとき)。
帰国してからでも間に合いますか?
間に合わないわけではありませんが、帰国直後は条件が悪い時期です。引っ越し・編入手続き・新しい人間関係が同時に来るうえ、授業は待ってくれません。海外にいるうちに、細くても切らさずに続けておくほうが、あとの負担はずっと軽くなります。学年が上がるほど求められる語彙は増えるので、迷っている時間そのものがコストです。進め方は国語だけついていけないを防ぐで扱っています。
公立の学校で日本語のサポートは受けられますか?
受けられる場合があります。公立では平成26年度から「特別の教育課程」による日本語指導が制度化され、帰国児童生徒も対象とされています(義務教育段階で年間10〜280単位時間が標準、高等学校段階は令和5年度から導入)。ただし体制は自治体と学校で差があります。受けられるかどうかは転入先の教育委員会と学校に個別に確認するのが確実です。詳しくは帰国子女の日本語指導にまとめました。
「日本語ができない」と「国語が苦手」は同じことですか?
違います。前者は言語そのものの土台――聞く・話す・読む・書くのどれかが年齢に届いていない状態。後者は教科としての読解・記述・文法などのつまずきで、日本語の土台がある子にも起こります。帰国子女はこの2つが重なって見えるので混同されやすいのが厄介なところです。教科としての国語の分解は「できない」の4つの層、9歳前後の段差は9歳の壁とその埋め方をご覧ください。
日本語そのものの手当てと、教科の遅れの手当ては別々に考えたほうが動きやすくなります。教科の遅れを3つに分けて優先順位をつけるもあわせてご覧ください。

