帰国が決まって編入先の小学校・中学校を調べはじめると、「帰国子女 日本語指導」「帰国児童 日本語 支援 公立」「日本語指導が必要な児童生徒」といった言葉に行き当たります。日本の公立学校には、日本語が十分でない子どもに対する公的な日本語指導の仕組みがあり、外国籍の子だけでなく、海外から帰国した日本国籍の子も対象になり得ます。ただし、この制度は「申し込めば必ず受けられる」ものでも、「受ければ国語が学年相当に追いつく」ものでもありません。この記事では、公立で実際に受けられる支援の中身と、どこまでは期待できてどこからは家庭側の準備が要るのかを、正直に整理します。
公立学校の「日本語指導」とは何か
日本の公立小中学校には、日本語の力が十分でないために授業についていくのが難しい子に対して、通常の教育課程の一部に代えて日本語の指導を行う「特別の教育課程」という仕組みがあります。2014年度に制度化されたもので、対象になった子は、在籍する学級を離れて日本語の指導を受けたり(取り出し指導)、教室に支援者が入って補助を受けたり(入り込み指導)します。標準として年間10〜280単位時間という幅で計画が立てられ、子どもの状況に応じて時間数が決まります。

ここで多くの保護者が意外に思うのが、この制度の対象が「外国籍の子」に限られていないことです。文部科学省が隔年で行っている「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」では、日本国籍でありながら日本語指導が必要な児童生徒が独立した区分として集計されており、その中には海外からの帰国児童生徒が含まれます。しかも、その日本国籍の子たちを「日常的に使用する言語」別に見ると、最も多いのが「日本語」です。会話は日本語でできるのに、教科の日本語が足りていない――帰国生の状況が、まさにこの数字に表れています。
「会話はできるのに支援が必要」がなぜ起きるのか
言語習得の研究では、日常会話(生活言語=BICS)は2〜3年で育つのに対し、教科書を読んで考えて書く学習言語(CALP)には5〜7年かかるとされています(ジム・カミンズ)。家庭で日本語を話していれば会話は保てるため、面談でも先生は「日本語、上手ですね」と言う。ところが実際の授業は、会話とはまったく別の日本語で進みます。「割合」「輪作」「単位量あたり」「筆者の主張」――これらは会話では一度も出てこない言葉です。
さらに漢字があります。小学校の6年間で1,026字が学年ごとに配当されており、海外でこのペースが止まると、社会も理科も算数の文章題も「読めないから解けない」状態になります。算数ができないのではなく、問題文が読めない。この見分けがつかないまま「勉強が苦手な子」と評価されてしまうのが、帰国直後にいちばん多い誤解です。この構造は帰国子女の国語で4つの層に分けて解説しています。漢字だけを取り戻す方法は帰国子女の漢字にまとめました。

実際にどんな支援が受けられるのか(4つの型)
転入先で実際にどうなるかは、自治体と学校によって大きく違います。おおまかには次の4つの型に分かれます。
- 取り出し指導:国語や社会などの時間に別室へ移動し、日本語指導担当の教員から個別・少人数で指導を受けます。もっとも手厚い形ですが、担当教員の加配がある学校に限られます。
- 入り込み指導:在籍学級の授業に支援員が入り、隣で補助します。教室を離れずに済む一方、指導時間は限定的です。
- 国際教室・日本語教室:外国につながる子どもが多い地域に設置された専用の教室。人数が多い自治体ほど整っている傾向があります。
- 実質的に支援なし:対象者が少ない自治体や、「会話ができるから対象外」と判断された場合。帰国生はここに入りやすいのが実情です。
4つ目が、この記事でいちばんお伝えしたい点です。日本語指導の枠は、まず「日本語で会話ができない子」に配分されます。ペラペラ話す帰国生は優先度が下がりやすく、「困っているのは教科の日本語なのに、対象と見なされない」という取りこぼしが起きます。だから、編入前の面談で「会話はできますが、教科書の読み書きに不安があります」と具体的に伝えることが効きます。漢字テストの結果や、書けなかった作文など、読み書きの現物を持っていくと話が早く進みます。
編入手続きのなかで、どのタイミングで相談するか
公立への編入は、住民登録→教育委員会へ転入学の申請→就学先の学校が決まる、という流れで進みます(帰国後の編入・転入手続き)。日本語指導の相談は、この流れのなかで2回してください。
- 1回目=教育委員会の窓口:「市内に日本語指導が必要な児童生徒への支援はありますか」「帰国児童は対象になりますか」と確認します。自治体単位で制度が違うため、ここで大枠が決まります。
- 2回目=学校の受け入れ面談:担任・管理職に、お子さんの読み書きの現状を具体的に伝えます。「日本語が話せるかどうか」ではなく「教科書が読めるかどうか」で話すのがコツです。
あわせて確認しておきたいのが学年の決め方です。海外の学校暦と日本の学年は必ずしも一致せず、地域によっては下の学年での受け入れを相談できる場合もあります。学年が変われば、追いつくべき漢字と教科内容の量も変わります。小学校の編入は帰国子女の小学校編入、高校受験に関わる9年課程の扱いは帰国子女の高校受験で扱っています。
公立の日本語指導と、家庭で補う学習の役割分担

公立の日本語指導は、「授業に参加できる状態まで持っていく」ための仕組みです。学年相当の国語力を体系的に積み上げる場ではありませんし、時間数にも上限があります。一方で、無料で受けられ、学校生活の中で完結するという大きな利点があります。足りない部分を家庭側でどう補うかを、最初に決めておくと迷いません。
| 公立の日本語指導 | 帰国生塾・進学塾 | オンライン家庭教師 | ともだちじゃぱん | |
|---|---|---|---|---|
| 担うもの | 授業に参加できる日本語 | 志望校別の受験対策 | 弱点・記述をピンポイント | 学年相当の国語の土台 |
| 教える人 | 日本語指導担当教員・支援員 | 受験専門の講師 | 登録講師(1対1) | 現役水準の日本の教員(8人制) |
| 始められる時期 | 編入後(対象と認定されれば) | 帰国前から可(オンライン) | 帰国前から可 | 帰国前から可=空白を作らない |
| 同世代の友達 | 在籍学級とは別室になることも | 講座による | 基本なし(1対1) | 日本在住の同世代と毎日 |
| 費用 | 公費(無料) | 講座数で積み上がる | 回数×単価で積み上がる | 通い放題で月額定額 |
| 限界 | 時間数と自治体差が大きい | 土台づくりは範囲外 | 続ける動機をつくりにくい | 志望校別の対策は塾と併用 |
この表で強調したいのは「始められる時期」の行です。公立の日本語指導は、当然ながら帰国して編入した後にしか始まりません。つまり、帰国してから穴を埋め始めることになります。一方、海外にいる間に学年相当の国語を止めずに続けておけば、そもそも埋めるべき穴が小さくて済む。いちばん効くのは、帰国前の時間の使い方です。何から手をつけるかは帰国前の日本語準備にまとめています。
面談で「読み書きの現状」を伝えたい方へ。1分でできる学年相当・国語力チェック(無料)で、学年の穴の目安がわかります。具体的な材料を持っていくほど、支援の相談は前に進みます。
ともだちじゃぱんは、どこを担うのか
公立の日本語指導は、帰国後の受け皿として大切な仕組みです。私たちが担うのは、その手前の時間――海外にいるうちに、学年相当の国語を止めないことです。国内最大級のオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」(在籍1,000名超)を運営する株式会社NIJINが母体で、講師は採用合格率およそ2%の選抜。今の日本の教室を知り尽くした現役水準の教員が、8人制の少人数クラスで教えます。日本の教科書がどう進み、どの学年で何が求められるかを知っている先生が見る、という点が、日本語会話のレッスンとの決定的な違いです。

もうひとつ、支援の枠組みでは埋まらないものがあります。教室に戻ったときの居心地です。取り出し指導は必要な支援ですが、みんなと別の部屋に行くことを気にする子もいます。帰国したときに、すでに日本語で話せる同世代の友達がいる――それは制度では用意できない安心です。授業は平日の夜=現地の放課後の時間帯で、料金は通い放題で月額定額。帰国後になじめるかどうかの話は帰国子女が学校になじめないときもあわせてどうぞ。
よくある質問
日本国籍の帰国生でも、日本語指導の対象になりますか?
なり得ます。文部科学省の調査でも「日本語指導が必要な児童生徒」に日本国籍の子どもが独立した区分として集計されており、海外からの帰国児童生徒が含まれます。ただし実際に支援を受けられるかは、自治体の体制と学校の判断によります。日常会話ができることを理由に対象外と見なされることもあるため、「教科書の読み書きに不安がある」と具体的に伝えることが大切です。
どのくらいの時間、指導してもらえますか?
「特別の教育課程」による日本語指導は、標準として年間10〜280単位時間という幅のなかで計画されます。子どもの状況と学校の体制によって実際の時間数は大きく変わり、週数時間の取り出し指導が中心という学校もあれば、支援員が教室に入る形にとどまる学校もあります。時間数と形式は、必ず転入先の学校に個別に確認してください。
日本語指導を受ければ、学年相当の国語に追いつけますか?
この制度の目的は「授業に参加できる状態にすること」であって、学年相当の国語力を体系的に積み上げることではありません。授業への橋渡しとしては有効ですが、漢字や読解、記述の積み上げは、家庭または学校外の学習で補うのが現実的です。とくに漢字は学年配当のある積み上げ式なので、止まった学年の分を計画的に戻していく必要があります。
私立や国立の学校でも同じ支援がありますか?
「特別の教育課程」は公立学校の仕組みで、私立・国立には同じ形では適用されません。帰国生を多く受け入れている私立校では独自の日本語サポートや取り出し授業を用意している場合があるので、学校説明会や個別相談で「帰国生の日本語サポートはありますか」と直接確認するのが確実です。学校ごとの差がとても大きい部分です。
帰国前に、家庭でできる準備はありますか?
いちばん効くのは「学年相当の国語を止めないこと」です。日本語指導は帰国後にしか始まりませんが、海外にいる間に止めずに続けておけば、そもそも埋める穴が小さくて済みます。加えて、面談で使えるように読み書きの現状がわかるもの(漢字テスト、作文など)を残しておくと、支援の相談がスムーズになります。会話量ではなく、読み書きの記録を残すのがポイントです。

