「日本人学校に入れたら、英語は身につかないのでは」「せっかく海外にいるのに、日本語だけの環境でいいのか」――赴任先の学校を選ぶとき、多くのご家庭がここで止まります。実際、「日本人学校 英語」と検索したときにサジェストの先頭に並ぶのは「英語 話せない」「英語力」です。結論から言うと、日本人学校の英語は「日本の標準授業時数」+「学校ごとの上乗せ」でできており、上乗せの量は学校によってまるで違います。香港は全学年で週5時間以上、シンガポールは小学1年から週3時間、バンコクは小学1年で週1〜2時間――同じ「日本人学校」でこの差です。そして「日本人学校だと英語が伸びない」ことを示した公的データは存在しません。この記事では、各校が公表している数字と文部科学省の一次資料だけで、英語の実際を整理します。
日本人学校の英語は「標準時数+上乗せ」でできている【2026】
まず制度から。文部科学省は日本人学校を「国内の小学校、中学校又は高等学校における教育と同等の教育を行うことを目的とする、全日制の教育施設」と定義し、「教育課程は、原則的に国内の学習指導要領に基づき、教科書も国内で使用されているものが用いられています」と説明しています。つまり英語(外国語)の授業も、まずは日本の標準授業時数が出発点です。

学校教育法施行規則の別表第一・第二では、外国語活動が小学3・4年で年35単位時間、外国語(教科)が小学5・6年で年70単位時間、中学校で各学年140単位時間。週にならすと小学5・6年で週2コマ程度です。海外にいるから自動的に英語が増える、ということはありません。
ただし、日本人学校には上乗せするための制度上の逃げ道が用意されています。ここは意外と知られていません。文科省の「在外教育施設の認定等に関する規程」第9条は、教育課程は学習指導要領の定めるところによらなければならないとしたうえで、「ただし、…その一部について特別の教育課程によることができる」と書いています。そして認定基準側では、その中身として「国際理解や現地理解を深めることを主なねらいとする教科(科目)又は所在国の言語に関する教科(科目)等の設定」「学校教育法施行規則及び学習指導要領に定める各教科等の授業時数又は内容の弾力的な取扱い」「特定の教科(科目)の授業(一部に限る)の外国語による実施」を挙げています。音楽や図工を英語でやる「イマージョン教育」が成立しているのは、この規定があるからです。日本国内の公立小中学校ではできないことが、日本人学校ではできる。だから学校ごとに差がつきます。
各校が公表している英語|「週◯時間」まで見える
実際に各校が公表している内容を並べます。ここが学校選びで最も差が出る部分です。
| 学校 | 公表されている英語の授業 | 特徴 |
|---|---|---|
| 香港日本人学校 | 「全学年で週5時間以上の充実した英語授業を展開しています」(中学部は週6時間との学校記入資料あり) | ネイティブ教員による少人数指導/English Trip/スピーチコンテスト/図画工作(小2〜小6)と水泳を英語で行うイマージョン/小4〜6にGlobal Class(最大20人・編入学試験あり) |
| シンガポール日本人学校 | 「小学1年生から週3時間の英語授業」 | ネイティブ教員/音楽(一部)と水泳を英語で行うイマージョン/中学部グローバルクラスは数学と理科も英語で週3時間/現地校NUS Highとの交流活動 |
| バンコク日本人学校 (泰日協会学校) | 小学部1年から週1〜2時間/中学部は通常の英語が週3時間+グローバル・イングリッシュが週2時間 | NET(Native English Teacher)とのチームティーチング/小学部5年〜中学部3年は習熟度別 |
| クアラルンプール 日本人学校 | 週2回(小学部・中学部とも) | 「授業は全て英語で進められます。授業中は “No Japanese” がルールです」/レベル別に8クラス編成/「ECはJSKL独自の教育活動です。(小・中学部ともに教科ではありません)」 |
| 台北日本人学校 | 小1〜中3で英語活動が週1回(小3・4は週2回)+小5〜中3は教科の英語 | 1学級を3コースに分けて少人数/アメリカンスクールや現地小学校との交流 |
| 上海日本人学校(虹橋校) | 全学年で英語活動と中国語会話を週1時間ずつ | 学校経営方針に「全クラス全ての英語活動、外国語活動、外国語の授業に英語専科とALTを配置」と明記 |
| ホーチミン/ハノイ/マニラ | ホーチミン週2〜3時間/ハノイ週2〜4時限/マニラ 小学部週2時間・中学部週1時間 | いずれもネイティブ講師による英会話(マニラは能力別6クラス)。海外子女教育振興財団に各校が寄せた学校紹介より |
この表からわかることが2つあります。ひとつは「日本人学校の英語」とひとくくりにできないこと。香港の週5時間以上と、上海虹橋校の週1時間では、6年間で積み上がる差は相当なものになります。「日本人学校だから英語がない」でも「日本人学校でも英語はしっかりやる」でもなく、その学校がどうかでしかありません。
もうひとつは、公表の粒度に共通の限界があることです。今回確認した範囲では、英語の年間授業時数を数字で公表している日本人学校は1校もありませんでした。公表は「週◯時間」「週◯回」までです。しかもクアラルンプール日本人学校が「ECはJSKL独自の教育活動です。(小・中学部ともに教科ではありません)」と明記しているとおり、英会話は教科外の活動として置かれている場合があり、標準時数への上乗せ分を正確に計算することは、公開情報だけではできません。さらに英検・TOEFL・IELTSの合格実績を公表している日本人学校も、確認した範囲でゼロでした(校舎が英検の会場になっているという告知はあります)。

「日本人学校だと英語が伸びない」を示したデータは無い
ここは正直に書きます。日本人学校に通った子の英語力を国が測った公的統計は、存在しません。よく引用される文部科学省の「英語教育実施状況調査」は、その調査対象を「各都道府県・市区町村教育委員会及び全ての公立中学校、高等学校(義務教育学校、中等教育学校を含む)」としており、在外教育施設は対象に含まれていません。「英語教育改善のための英語力調査」も国内の国公立中3・高3が対象です。文科省が日本人学校について公表している外国語教育の実施状況の資料はありますが、その時点は平成18年(2006年)4月15日現在――20年前のもので、しかも扱っているのは実施状況であって、子どもの英語力の測定結果ではありません。
つまり「日本人学校に行くと英語が伸びない」も「日本人学校でも十分伸びる」も、公的な裏づけを持っては言えないということです。ネット上の体験談は両方の立場が見つかりますが、それは滞在年数・年齢・学校外の環境という条件が家庭ごとに違うからです。判断材料にすべきは、他人の結果ではなく志望校が公表している時間数と、自分の家庭が学校の外に用意できる英語の時間です。
ついでに、よく見かける数字にも触れておきます。「英語の習得には5〜7年かかる」という説明が広く出回っていますが、この数字は文部科学省の一次資料には存在しません。文科省が年数に言及しているのは日本語(第二言語)の習得についてで、「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA」(平成26年1月)が会話の流暢さは1〜2年、教科学習に必要な言語能力は5年以上としているものです。DLAはその出典をカミンズ(2006)の講演資料と明記しており、第二言語一般の理論の紹介です。しかも令和7年6月の改訂版では、この年数の記述そのものが削除されています。英語について国が示した年数の目安は、そもそもありません。

なぜ各校は英語に力を入れているのか
日本人学校が英語やイマージョンに力を入れている理由も、実は国の資料に書かれています。文科省の「在外教育施設未来戦略2030」(令和3年6月)は、「日本人学校は現地校やインター校との競争的環境の中にある」と率直に認め、「選ばれる在外教育施設」づくりの研究開発テーマ例として「英語力強化、現地社会・現地校との交流強化、イマージョン教育の推進、国際バカロレアの考え方に基づく教育の導入」を挙げています。令和5年の「基本的な方針」も、在外教育施設は「日本国民にふさわしい教育を行うとともに、併せて国際性を培うことを旨として行われてきた」としています。英語に力を入れている日本人学校が増えているのは、家庭の選択肢が現地校・インターに広がっているから――そう国が言っているわけです。
ただし、上乗せ部分には選抜がある場合があります。香港日本人学校のGlobal Classは1クラス最大20人で、編入学試験に合格する必要があると案内されています。「その学校に入れば自動的にその英語が受けられる」とは限らない、という点は確認しておいてください。
英語の心配で学校を替えると、今度は国語が止まる
「英語のために現地校やインターへ」という判断は、もちろんあり得ます。ただしそのとき日本語側で何が起きるかも同時に見ておく必要があります。現地校・インターに移れば、学校の中で国語(教科としての日本語)を扱う時間は基本的にゼロになります。だから世界には週末の日本語補習校が246校あるわけですが、補習校の授業は週1回・年間100時間前後。日本の小学校の国語は6年間で1,461時間(施行規則 別表第一)ですから、6年通っても日本の1〜2年分にしかなりません。

しかもこの「日本語が止まる」は、親から見えにくい形で進みます。文部科学省の「外国人児童生徒受入れの手引」は進路指導の章で、「多くの保護者は…両方の言語力が十分育っている、と認識しがちである。しかし、そのような子供には、どちらの言語においても、学力を形成していく言語レベルにまでは達していない場合がよく見られる」と書いています(この記述の主語は来日した外国人児童生徒ですが、二言語環境で育つ子に共通して起きる現象として読めます)。文科省が「日本語指導が必要な児童生徒」を「日常会話ができても、学年相当の学習言語能力が不足し、学習活動への参加に支障が生じている」子と定義しているのも、同じことを指しています。家で日本語を話せているかどうかは、学年相当の国語ができているかどうかとは別なのです。
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よくある質問(日本人学校と英語)
日本人学校の英語の授業は週に何時間ありますか?
学校によって大きく違います。公表されている例では、香港日本人学校が「全学年で週5時間以上」、シンガポール日本人学校が「小学1年生から週3時間」、バンコク日本人学校(泰日協会学校)が小学部1年から週1〜2時間・中学部は通常の英語週3時間+グローバル・イングリッシュ週2時間、クアラルンプール日本人学校が週2回、台北日本人学校が英語活動 週1回(小3・4は週2回)、上海日本人学校虹橋校が全学年で英語活動 週1時間です。年間の授業時数を数字で公表している学校は確認できませんでしたので、正確な比較は各校への直接確認が必要です。
日本人学校に通うと英語は話せるようになりますか?
学校と家庭の環境によります。日本人学校の児童生徒の英語力を国が測った公的統計は存在しません。文科省の「英語教育実施状況調査」は調査対象が国内の公立学校で、在外教育施設は含まれていません。したがって「話せるようになる/ならない」を統計で答えることはできません。判断材料になるのは、志望校が公表している週の時間数・イマージョンの有無・現地校との交流と、家庭が学校の外に用意できる英語の時間です。
日本人学校でも英語で授業を受けられますか?(イマージョン教育)
受けられる学校があります。文科省の「在外教育施設の認定等に関する規程」第9条は教育課程について「ただし、…その一部について特別の教育課程によることができる」とし、認定基準は「特定の教科(科目)の授業(一部に限る)の外国語による実施」を認めています。実例として、香港日本人学校は図画工作(小2〜小6)と水泳を英語で、シンガポール日本人学校は音楽(一部)と水泳を英語で行っています。シンガポールの中学部グローバルクラスは数学と理科も英語で週3時間。ただし香港のGlobal Classのように編入学試験があり定員が最大20人という選抜つきの場合があります。
「英語の習得には5〜7年かかる」というのは本当ですか?
この「5〜7年」という数字は文部科学省の一次資料には存在しません。文科省が年数に言及しているのは日本語(第二言語)の習得についてで、「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメントDLA」(平成26年1月)が会話の流暢さは1〜2年、教科学習に必要な言語能力は5年以上としています。DLAはその出典をカミンズ(2006)の講演資料と明記しており、第二言語一般の理論の紹介です。さらに令和7年6月の改訂版では年数の記述そのものが削除されています。英語について国が示した年数の目安はありません。
英語のために現地校やインターにしたほうがいいですか?
どちらが正解とは言えません。ただし現地校・インターに移ると、学校の中で教科としての国語を学ぶ時間は基本的になくなります。その受け皿である補習授業校は世界に246校ありますが、授業は週1回・年間100時間前後で、日本の小学校の国語6年間1,461時間とは大きな差があります。英語をとるか国語をとるかの二択にせず、選んだ学校で足りない側を足すという考え方をおすすめします。両者の違いは日本人学校と補習校の違いで比較しています。
日本人学校に入るのに英語力は必要ですか?
必要なのは英語力ではなく日本語力です。日本人学校は全教科を日本語で学ぶため、複数の学校が入学資格に日本語能力を書き込んでいます(上海日本人学校は「本人及び保護者が学校生活に必要な日本語能力を有し」、メルボルン日本人学校は「授業を理解できる日本語力が必要」、香港日本人学校は「日本語による教育に支障がない方」)。入学条件の全体像は日本人学校の入学条件と手続きにまとめました。
「日本人学校に入れると英語が伸びないのでは」という不安は、実際にはその都市で現地校・インターがどれくらいの費用と条件で選べるかとセットでしか判断できません。英語圏・準英語圏の都市ほど、この比較が効いてきます。
都市別の比較:シンガポールの学校選び|日本人学校と現地校・インター/クアラルンプールの学校選び|日本人学校と現地校・インター/香港の学校選び|日本人学校と現地校・インター/ドバイの学校選び|日本人学校と現地校・インター/ニューデリーの学校選び|日本人学校と現地校・インター/ムンバイの学校選び|日本人学校と現地校・インター/ロンドンの学校選び|日本人学校と現地校・インター/シドニーの学校選び|日本人学校と現地校・インター/メルボルン日本人学校の学費とインター比較/ニューヨークの学校選び|日本人学校と現地校・インター/ロサンゼルスの学校選び|日本人学校と現地校・インター/サンフランシスコの学校選び|日本人学校と現地校・インター
この記事で取り上げた都市のある国は、その国にある日本人学校の校数と学費を国単位でも整理しています。マレーシアの日本人学校の学費/インドの日本人学校の学費/アメリカの日本人学校の学費/イギリスの日本人学校の学費/オーストラリアの日本人学校の学費/香港日本人学校の学費/ドバイ日本人学校の学費。

