現地校の成績表は悪くないのに、日本の同学年のドリルで手が止まった――そんなときに「帰国子女 勉強 遅れ」と検索する方に向けて書いています。この記事は「遅れ」という一語をほどきます。教科によって「遅れ」の正体は違い、正体が違えば埋め方も違うからです。三つに分け、帰国前・帰国直後の三か月・その先という時間軸で優先順位をつけます。国語の「できない」の中身は四つの層に分けた記事が担当なので深追いしません。
「遅れ」とひとまとめにするから、手が打てない
相談の多くは「遅れている気がする」という一文から始まります。ところが何が遅れているのかを聞くと、性質の違うものが同じ袋に入っています。袋のままでは手が打てません。次の三つに分けます。
- 差――算数・数学。日本と海外で単元を教える順番と学年への配当が違うだけで、本人の力が足りないわけではありません。未習の単元を並べ替えて埋めれば終わります。これは遅れではなく差です。
- 遅れ――漢字と語彙。日本の学校は学年ごとに配当を決めて毎日少しずつ積む設計なので、離れていた期間がそのまま量になって残ります。ここだけは「遅れ」と呼んでかまいません。
- 空白――日本の社会(地理・歴史・公民)と、日本の教科書に沿った理科。遅れているのではなくそもそも学んでいない。埋め方も上の二つと別です。

この三つは放っておいたときの増え方が違います。差は時間が経っても増えず、空白も教科書を開くまで増えません。時間に比例して積み上がるのは真ん中の「遅れ」だけです。算数の未習単元から順に潰す計画を立てると、いちばん時間に敏感なものを後回しにすることになります。
差・遅れ・空白を、教科で見分ける
算数・数学は「差」です。四則計算も分数も図形も、どの国の教育課程にも入っています。違うのは並び順と、どの学年に置くか。日本の学習指導要領は学年ごとに内容を定めていますから、現地校で先に習った単元とまだ来ていない単元が混ざります。穴は点在していて、連続していません。教科書の目次を学年順に見て、来ていない単元だけを拾えば埋まります。
漢字と語彙は「遅れ」です。小学校学習指導要領の別表「学年別漢字配当表」は、第1学年80字、第2学年160字、第3学年200字、第4学年202字、第5学年193字、第6学年191字――合計1,026字を学年ごとに割り振っています。常用漢字2,136字のうち残る1,110字は中学校以降です。日本の子どもは六年かけて毎日少しずつ積む前提の量を通過します。海外で日本語の時間が週に数時間なら、量は月ごとに積み上がる。ここだけは、待っている間に事態が悪くなります。

ただし、漢字が書けることと文章が読めることは別です。読解が伸びない理由と学年別の進め方は学年別の国語の進め方、インター校で日本語が細っていく仕組みは日本語が遅れる理由が担当です。
社会と理科は「空白」です。日本の小学校では第1・第2学年に社会科と理科の授業時数が置かれておらず、生活科がその位置にあります。社会と理科は第3学年から始まり、第4学年で47都道府県、第6学年で日本の歴史と、日本という国を対象にした内容が積まれます。現地校でsocial studiesやscienceを学んでいても扱う国も用語も別で、これは遅れではなく未学習。埋めるには易しいところへ戻るのではなく、その学年の内容を新しく入れることになります。
学年が上がると、効いてくる種類が入れ替わる
同じ「帰国子女の勉強の遅れ」でも、学年で中身が入れ替わります。小学校低学年はほとんどが「差」です。漢字の配当が少なく、社会と理科はまだ始まっていません。追いつく量が小さく、家庭でも手が届きます。
小学校高学年になると「遅れ」と「空白」が同時に効いてきます。漢字は第3学年以降だけで786字が積まれ、社会は都道府県から日本の産業へ、国語の教材も物語文から説明文へ重心が移ります。いわゆる「9歳の壁」「5年生の壁」は、この時期に何が起きているかを言い当てた通称で、発達段階の断層として断定できる話ではありません。教科の設計から言えるのは、抽象的な語彙と日本を対象にした知識が同時に増える学年だということまでです。
中学生になると重心は「空白」に移ります。地理・歴史・公民が独立し、定期テストで問われます。ここで効くのは読む速さと語彙で、問題文が日本語である以上「遅れ」と「空白」は切り離せません。中学から日本の学校に入る手続きは中学の編入・転入、高校段階で帰国時期が選択肢を変える仕組みは高校受験と帰国時期の関係にあります。
学校には制度としての受け皿がある――「日本国籍だから対象外」ではない
家庭だけで背負う前に、公立学校には制度としての受け皿があることを知っておいてください。学校教育法施行規則の改正により、平成26年4月1日から「特別の教育課程」による日本語指導が制度化されています。文部科学省の説明では対象は「日本語指導が必要な児童生徒(例:帰国児童生徒又は外国人児童生徒など)」とされ、海外から帰国した児童生徒が例として明記されています。授業時数は年間10単位時間から280単位時間までを標準とし、在籍学級の教育課程の一部の時間に替えて在籍学級以外の教室で行う形が想定されています。主たる指導者は当該学校種の教員免許状を有する教員。原則は在籍校ですが、校長の判断により他校で受けた指導を在籍校の授業とみなすこともできるとされています。
「日本国籍だから対象外だろう」と思い込み、相談しないまま過ごす家庭があります。文部科学省「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査(令和7年度)」(2026年5月25日公表、基準日2025年5月1日)によれば、公立学校で日本語指導が必要な児童生徒は84,759人、うち日本国籍が11,446人。学校において特別な配慮に基づく指導を受けている者は75,060人(88.6パーセント)、1人以上在籍する公立学校は12,668校=全公立学校の39.4パーセントです。日本国籍は、支援の対象外である理由になりません。
ただし正確に書きます。この調査の日本国籍には、帰国した子だけでなく重国籍の子や、家庭内で日本語以外が使われている子も含まれます。11,446人がそのまま帰国児童生徒の数ではありません。それでも日本国籍の子が対象になり得ることの反証としては十分です。公式で確認できるのはここまでで、学校ごとの運用は統計から分かりません。
学校には制度の名前で尋ねるのが早道です。(1)「特別の教育課程」による日本語指導を実施していますか。(2)他校での指導を在籍校の授業とみなせますか。(3)対象は誰がいつ判断しますか。(4)年間の時数はどのくらいですか。(5)教科の補充指導も含まれますか。編入の手続きは小学校編入の進め方、体制の見分け方は受け入れ体制の見方にあります。

| 埋めたいもの | 現地校・インター | 帰国後の日本の学校 | 家庭でできる | ともだちじゃぱん |
|---|---|---|---|---|
| 算数の未習単元(差) | 順番が違うだけで力はついている | 在籍学級の進度で進み、個別の穴は拾われにくい | 目次で未習を特定し点で埋める | 担当外。国語を土台として扱う |
| 漢字・語彙(遅れ) | 日本語が週数時間なら量が積み上がる | 取り出し指導が置かれる場合も | 学年配当を基準に毎日少量を続ける | 学年相当の国語を現役水準の教員が継続して見る |
| 社会・理科(空白) | 扱う国も用語も日本の教科書と別 | その学年の内容が新しく始まる | 戻らず、いまの学年の内容を入れる | 日本の教科を日本語で扱う授業で触れる |
| 日本の同世代との関係 | 現地の友人は育つが日本側は途切れる | 帰国後に一から作ることになる | 家庭だけでは作れない | 8人の少人数クラスに日本に住む同世代がいる |
「遅れている気がする」を、数字にする
不安が続くのは、たいてい量が分かっていないからです。分からないものは大きく見えます。今日できる確認を三つ挙げます。
一つ目、漢字は学年配当で数える。学年別漢字配当表は学習指導要領の別表として公開されており、第1学年から第6学年までの字がそのまま並んでいます。相当学年まで順に見て、読めない字と書けない字に印をつけるだけ。一度通せば残りの字数が出ます。「三学年ぶん遅れている」という漠然とした不安が「あと何字」に変わります。
二つ目、算数と社会・理科は教科書の目次で見る。本文は読まなくてかまいません。単元名だけを上から見て、習ったものに丸、来ていないものに三角を付けます。算数は三角が点在するはずで、それが「差」の実体。社会と理科は学年ごとにまるごと三角が並ぶかもしれず、それが「空白」です。紙の上で二つの形が違って見えるので、優先順位が自然に決まります。

三つ目、学校にも物差しがある。文部科学省は「ことばの力」を対話で把握する評価の方法を公表していますが、これは家庭が測る道具ではなく学校が使う道具です。相談の場で「どう把握されていますか」と聞ける、という理解で十分。一時帰国を使う方法は体験入学の使い方にあります。
全部はやらない――帰国の時期で、優先順位が変わる
いちばん多い失敗は、三つ全部を同時に始めて二か月で潰れることです。現地校の宿題も課外活動も続くところに日本の三教科分を上乗せすれば、続かないのが普通です。やらないことを決めてください。基準は帰国の予定時期です。
- 帰国が二年以上先――「遅れ」だけに絞る。漢字と語彙を、量は少なくていいので毎日止めない。差と空白は手を付けません。時間が経っても増えないからです。
- 帰国が半年から一年先――「遅れ」を続けたまま「空白」を足す。社会と理科は相当学年の目次だけ先に触れておく。暗記ではなく、言葉に一度出会うことが目的です。
- 帰国が三か月以内、または直後――順番を逆にする。最初の三か月は、学校生活に慣れることと、いま教室で扱う単元についていくことが最優先。過去に戻る学習は止めてかまいません。戻る課題を足すと、教室での自信が先に折れます。
帰国後に学校へ行きたがらなくなる場合、原因は学力ではなく居場所であることが多く、そちらは行き渋りの理由で扱っています。赴任前から帰国まで通しで組む順番は駐在中の勉強の順番、受験を視野に入れるなら国語をいつからへ。
ともだちじゃぱんは株式会社NIJINが運営する、海外で育つ子のためのオンライン日本語スクールです(2026年12月開校)。学校教育法上の一条校ではなく、在籍している学校の代わりにはなりませんし、算数の補習や受験対策も行っていません。担うのは三つのうち時間に比例して積み上がる「遅れ」――学年相当の国語を、日本の現役水準の教員が8人の少人数・担任制で、帰国の前も後も止めずに続けることです。もう一つが日本に住む同世代とのつながり。学費や奨学金は無料の学校案内でお届けしています。
よくある質問
海外にいる間、まず何から手をつければいいですか?
漢字と語彙です。三つのうち、時間が経つほど量が積み上がるのはここだけだからです。算数の未習単元は帰国前後に並べ替えて埋められ、社会と理科は日本の教科書を開くまで増えません。一日の量より、止めないことのほうが効きます。
日本国籍でも、学校の日本語指導は受けられますか?
国籍で対象外になる制度ではありません。「特別の教育課程」による日本語指導の対象には帰国児童生徒が例として明記され、令和7年度調査でも11,446人が日本国籍です。ただし実施の有無・対象の決め方・時数は学校ごとに違います。公式で確認できるのはここまでです。
算数は遅れていないと言われましたが、本当に大丈夫ですか?
力ではなく単元の並び順の問題であることが多いです。教科書の目次を学年順に見て、来ていない単元だけを拾ってください。穴は点在しているはずで、そこだけ埋めれば追いつきます。ただし日本語の文章題は語彙の影響を受けるので、そこは「遅れ」に含めてください。
帰国直後から塾に入れたほうがいいですか?
最初の三か月は、学校生活に慣れることと、いま教室で扱う内容についていくことを優先してください。同じ時期に過去の学年へ戻る課題を足すと負荷が二重になります。量を増やす判断は落ち着いてからで遅くありません。タイプ別は塾の選び方へ。
社会と理科は、前の学年に戻ってやり直すべきですか?
基本は戻りません。遅れではなく空白だからです。戻って全部埋めようとすると量が膨らみ、いま教室で扱う単元にも追いつけません。まず相当学年の内容を入れ、地名や年号は必要になった時点で拾い直すほうが続きます。学校選びなら見学で聞く質問もどうぞ。

