「帰国子女 日本語 教材」で検索するとき、多くのご家庭が探しているのは「よく効くドリルのおすすめ一覧」です。海外で日本語が細っていく感覚があり、とりあえず手元に何か置きたい。その気持ちのまま買うと、たいてい同じ結末になります――3か月後、机の上に手つかずのドリルが積み上がる。原因は教材の質ではありません。日本語の教材には目的の違う4つのタイプがあり、いま必要なのがどれかを決めないまま混ぜて買っているからです。4タイプの整理と比較表、最大の落とし穴である「学年」の扱い方、そして教材では埋まらないものまでを順に書きます。
教材リストの前に――日本語の教材は4タイプに分かれる
日本語の教材と一口に言っても、作られた目的がまったく違うものが同じ棚に並んでいます。おおまかに①日本の検定教科書、②学年準拠のドリル・通信教育、③日本語(第二言語)としての教材、④読み物の4つです。この4つは、上手・下手の順番ではありません。解決する問題が違うのです。
たとえば、日常会話は流暢なのに漢字と語彙が抜けている子に③の第二言語教材を渡しても、簡単すぎて退屈します。逆に、日本語で聞く・話すこと自体が細ってきた子に②の学年準拠ドリルを渡すと、問題文が読めずに固まります。同じ「日本語ができない」でも、どの層が欠けているかで処方が変わる。この切り分けは帰国子女の国語「できない」を4つの層に分けるで書いたので、先に読むと買い物のムダが減ります。
もうひとつ、順番の話をします。①の教科書は、原則として「買う」ものではありません。海外にいる日本国籍の小中学生には、国の制度として教科書が無償で給与されます。ここを知らずに市販教材から検討を始めると、無料で手に入るものにお金を払うことになります。まず無償で来るものを確保し、足りない一点を②③④で補うのが最短です。

4タイプの中身と、いま実際に手に入るもの
2026年8月時点で公式に提供が確認できるものだけを挙げます。
- ①日本の検定教科書(無償給与)……文部科学省は「在外日本人子女等への教科書の無償給与」として、日本人学校・補習授業校の児童生徒をはじめ広く海外に在留する児童生徒に小・中学校用の教科書を給与しています。令和5年度の実績は約13万7千人。年度当初の出国は在外公館経由、年度途中の出国は配布業務を担う公益財団法人海外子女教育振興財団(JOES)へ申請します。様式や締切は変わるため公式で確認を。手続き全体の流れは海外へ転校するときの手続きに。
- ②学年準拠のドリル・通信教育……日本の学年カリキュラムに沿った市販ドリルと通信教育です。海外受講の対象は、Z会が小学生タブレットコース(1・2年生/3〜6年生)と中学受験コース。タブレットコースは教材がアプリ配信で、専用タブレットは海外では使えません。進研ゼミもこどもちゃれんじ・小学講座・中学講座で取り扱いがありますが、専用タブレットのチャレンジタッチは海外受講の対象外で、申込はOCSなどの販売会社経由です。JOESも幼児・小中学生向けの通信教育を提供しています。
- ③日本語(第二言語)としての教材……日本語がゼロ〜初級の状態から学校生活の日本語につなぐ教材群です。文部科学省作成の『にほんごをまなぼう』(ぎょうせい発行)は現在も流通しており、学校生活に必要な初歩の日本語を扱います。同じく文科省のJSLカリキュラム(Japanese as a Second Language)は初期指導から教科学習につなぐ段階を設計したもので、小学校編・中学校編が文科省サイトに公開されています。教材探しには文科省運営の検索サイト「かすたねっと」が無料で使えます(多言語の教材・文書・用語を検索可)。国際交流基金の『エリンが挑戦!にほんごできます。』も無料(動画中心の全25課)。『まるごと』『ひろがる』『いろどり』もありますが、いずれも子ども専用の教材ではない点は前提に。公立校での日本語指導の実際は帰国子女の日本語指導に書きました。
- ④読み物(多読・絵本・児童書)……NPO多言語多読はレベル0〜5の読みものをサイト上で無料公開しており、音声付きのものもあります。市販では大修館書店の『にほんご多読ブックス』がレベル別に揃っています。読み物は「勉強」の顔をしていないぶん、続く確率が最も高いカテゴリです。
なお、公文式のように海外にも教室があるものは、教材というより「通う場所」なので本記事では扱いません。補習校も同様です(日本語補習校とは)。

| ①検定教科書 | ②学年準拠ドリル・通信教育 | ③日本語(第二言語)教材 | ④読み物 | |
|---|---|---|---|---|
| 何が身につくか | 学年の到達点と単元の並び。学習の地図 | 漢字・語彙・読解の反復量と、進度の設計 | 学校生活の日本語と、教科につなぐ土台 | 語彙と文のリズム。読む体力 |
| 向いている状態 | 渡航前・滞在中。まず最初に確保する | 会話は保てているが読み書きだけ薄い | 日本語で聞く・話すこと自体が細ってきた | どの状態でも。特に「勉強」を嫌がる子 |
| 入手方法 | 在外公館またはJOESへの申請(無償) | 海外受講可の講座を申込/一時帰国でまとめ買い | かすたねっと・国際交流基金サイトは無料。書籍は取り寄せ | NPO多言語多読の無料公開分と市販シリーズ |
| つまずきやすい点 | 届いても開く人がいないまま棚に入る | 今の学年で買うと難しすぎて止まる | 子ども向けでない教材が多く、簡単すぎることも | レベル選びを外すと1冊目で終わる |
| 伴走が要るか | 要る(いつ開くかを決める人が必要) | 要る(丸つけと解き直しが家庭に残る) | 強く要る(本来は指導者が使う前提の設計) | ほぼ不要。ひとりで進みやすい |
最大の落とし穴は「今の学年のドリルを買ってしまう」こと
海外の家庭がいちばん買うのが②の学年準拠ドリルで、いちばん続かないのも②です。理由は単純で、親は「小4だから小4のドリル」を買うからです。
海外で育つ子の日本語は、学年に対して均一に育ちません。話す力は学年相当なのに、漢字は2学年分空いている、というズレが普通に起きます。小学校で学ぶ漢字は1,026字。学年別漢字配当表では第1学年80字・第2学年160字・第3学年200字・第4学年202字・第5学年193字・第6学年191字と割り振られ、2017年告示の学習指導要領(2020年度から全面実施)で現行の形になりました。上の学年ほど負荷が重く、数か月止まると翌年のドリルは開いた瞬間に読めない。どこで止まっているかは帰国子女の漢字で分解しています。
では下の学年の教材を渡せばいいのかというと、そう簡単でもありません。本人のプライドがあります。表紙に「小学2年」と書かれた漢字ドリルを4年生の子に渡すと、多くの子は拒否します。日本語ができないと言われた気がするからです。ここで無理押しすると、教材どころか日本語そのものが嫌いになります。実務的には、次のように扱うのが現実的です。
下げるのは1教材だけにする。漢字だけ1学年下から通し直し、読解と作文は学年相当のものを人と一緒にやる。全部を下げると「自分は下の学年」という自己像が固定されます。学年表記が目立たない教材を選ぶ。級・ステップで進むもの、無学年式のもの、あるいは④の読み物ならレベル表記が学年と結びつかないので抵抗が小さい。期間を区切って本人に言う。「夏の間だけ、抜けを埋めるために前の学年を通す」と目的と期限を先に伝えれば、格下げではなく作戦として受け取られます。年齢の話は正直に。帰国後に入る学年は原則として年齢で決まり、下の学年で準備しても入る教室は学年相当です。「教材のレベル」と「合流先の学年」は分けて考えてください。駐在中に何をどこまで維持するかは駐在中の国語、帰国後に間に合う?にも書いています。
正直に書きます。教材では埋まらないものが2つある
ここまで整理しておいて言うのも妙ですが、教材をどれだけ揃えても構造的に埋まらないものが2つあります。
1つめは、日本語を話す量です。ドリルは書く力と知識を増やしますが、話す時間は1秒も増えません。海外では日本語を話す相手が家族だけになりがちで、家族との会話は文脈を共有しているぶん省略が多く、「ちゃんと説明する日本語」の練習になりにくい。語彙は使って初めて自分のものになるので、入力(教材)だけを増やしても出力が伸びないという詰まり方をします。
2つめは、書いたものに赤を入れる人です。作文と記述式の答えは、模範解答を見比べるだけでは直りません。「この一文はどこが伝わらないか」を指摘できる人が要ります。通信教育の添削はここを担いますが往復に時間がかかり、その場で聞き返せません。市販ドリルは丸つけも解き直しも家庭の仕事です。平日は現地校の宿題、週末は補習校。そこに親が採点役と督促役を兼務する設計は、続かないのが当たり前です。家庭が弱いのではなく、負荷を家庭に全部乗せる設計に無理があります。

「教材+人」の、人の側を担う学校です
先に私たちが担わないことを書きます。ともだちじゃぱんは教材を販売していません。志望校別の受験対策も専門の塾の領域です。海外受講の通信教育や市販ドリルを否定するつもりもありません。反復と進度設計を安く引き受ける、よくできた仕組みです。
担うのは、その手前の学年相当の国語・日本語という土台と、上に書いた「教材では埋まらない2つ」のほうです。母体は国内最大級のオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」を運営する株式会社NIJIN。講師は採用合格率およそ2%の選抜を通った今の日本の教室を知る現役水準の教員です。8人制の少人数クラスに担任がつき、そこには日本に住む同世代の仲間がいます。話す量が増えるのは勉強だからではなく「友達と話したいから」。書いたものにその場で赤が入るのは、担任が同じ画面にいるからです。料金は通い放題で月額定額。オンラインの選択肢の比べ方は帰国子女の国語をオンラインで学ぶ選び方もご覧ください。
まずは今の学年とのギャップを確認したい方へ。1分でできる学年相当・国語力チェック(無料)で、お子さんの「学年の穴」の目安がわかります。海外での国語・日本語の続け方は海外駐在×子どもの国語・日本語 完全ガイドにまとめています。

よくある質問
日本の教科書は、海外にいれば無償でもらえますか?
文部科学省の「在外日本人子女等への教科書の無償給与」は、日本人学校・補習授業校の児童生徒をはじめ広く海外に在留する日本の小・中学生年齢の子どもを対象にした制度です。年度当初の出国は在外公館経由、年度途中の出国は海外子女教育振興財団(JOES)への申請という二本立てで運用されています。ただし必要書類・締切・受け取り場所は赴任先や時期で異なります。公式に確認できるのは制度の枠組みまでで、個別の条件はJOESと最寄りの在外公館の最新案内でご確認ください。
教科書があれば、ドリルは買わなくていいですか?
教科書は「何を、どの順番で学ぶか」の地図であって、反復の装置ではありません。漢字は出てくるだけで、書けるまで練習させる作りではありません。目安は簡単です。今の学年の教科書を1単元だけ音読させ、内容について3つ質問してみてください。読めるのに答えられないなら読解の型が足りず、漢字の読みで止まるなら反復が足りない。前者はドリルでは埋まらず、後者はドリルが最短です。
日本語がかなり弱い子には、どのタイプから始めますか?
会話も含めて薄くなっているなら、③の第二言語教材と④の読み物からです。文科省の『にほんごをまなぼう』やJSLカリキュラム、「かすたねっと」、国際交流基金の無料サイトが使えます。ただし③は指導者が使う前提の設計が多く、家庭にそのまま渡しても回りにくい。無料公開の読み物でレベル0から入り、成功体験を先に作るほうが立ち上がりは早くなります。
下の学年の教材を嫌がります。どうすればいいですか?
全部を下げず漢字だけ1学年下から通すのが現実的です。そのうえで学年表記が目立たない無学年式や級・ステップ制を選び、「夏の間だけ」と期限を先に伝えます。子どもが拒否しているのは難易度ではなく、下の学年に置かれたという意味づけです。目的と期限が共有されていれば、同じ教材でも受け取り方が変わります。
通信教育を海外で受けるとき、気をつける点は?
専用タブレットの扱いと、紙教材の届き方です。Z会は専用タブレットが海外で使えず、小学生タブレットコースは教材がアプリ配信になります。進研ゼミは専用タブレットのチャレンジタッチが海外受講の対象外で、申込もOCSなどの販売会社経由です。紙教材は国際輸送の遅延と関税の可能性があり、会費が一括払いになる講座もあります。条件は変わるので申込前に各社の海外受講ページで確認を。塾やオンライン指導と併用する場合の考え方は帰国子女の塾・オンラインの選び方にまとめています。

