「日本語は話せるんです。でも、話し方が日本の子と違う」――「帰国子女 日本語 話し方」で検索する保護者が本当に気にしているのは、たいてい発音の良し悪しではありません。その話し方のせいで、日本の同世代の輪の中で浮いていないかです。この記事では、①「違う」の中身を5つに分解し、②そのうち実害が出るのはどれか、③親がやってはいけない対応、④実際に効く練習、の順に整理します。
この悩みは、発音の話ではなく人間関係の話であることが多い
ご相談の入り口は「日本語の話し方が変で」という言い方でも、中身を聞いていくと出てくるのはほぼ人間関係の場面です。友達に「言い方きつくない?」と言われた。先輩にタメ口で話して空気が固まった。先生への話し方を注意された。本人が「浮いてる気がする」と言い出した。――発音そのものを指摘されたという話は、実はあまり出てきません。
だから最初に、学習面の悩みと切り分けてください。漢字が書けない・読解の点が取れないという課題は、教材と時間である程度は埋まります(帰国子女の国語「できない」の4つの層/帰国子女の漢字)。ところが話し方は、机の上では埋まりません。相手がいて、その相手との関係の中でしか練習にならない種類のものだからです。同じ「日本語ができない」に見えても、必要な打ち手がまったく違います。
なお、そもそも「帰国子女」という言葉が指す範囲は、受験の出願要件などの制度ごとに定義が異なります(帰国子女とは?)。この記事では制度上の区分にかかわらず、海外で数年を過ごしてから日本の学校の教室に入った子を想定して書いています。

何が「違う」のかを、5つに分解する
「話し方が違う」とひとことで言われるものは、少なくとも次の5つに分けられます。分けないまま直そうとすると、直る見込みのないものに時間を使うことになります。
- ①イントネーション・アクセント(音の高低)。日本語は語の中の音の高低の位置で意味を区別する高低アクセント(ピッチアクセント)の言語で、音節を強く長く発音する英語の強勢アクセント(ストレスアクセント)とは仕組みそのものが違います。英語環境で長く過ごすと、音の上下が平らになったり、英語の強弱のリズムが混ざったりすることがあります。
- ②語彙。家庭の外で日本語を使う機会が少ないと、持っている言葉が家庭内の会話に寄ります。継承語(heritage language)の研究では、家庭で使われる語彙の理解は高い一方、学校で使われる語彙は弱くなりやすく、「聞く・話す・読む・書く」の4技能がアンバランスになりやすいと指摘されています。親から聞いた言葉しか持っていないため、同世代から見ると言い回しが少し古い、という現象もここから来ます。
- ③敬語とタメ口の切り替え。文化審議会答申「敬語の指針」(平成19年=2007年2月2日)は、敬語を尊敬語・謙譲語I・謙譲語II(丁重語)・丁寧語・美化語の5種類に整理しています。日本の学校では、先生には敬語、先輩にも敬語、同級生にはタメ口という切り替えが毎日、何十回も発生します。
- ④断り方・遠回しの表現。英語圏で身につけた率直な言い方をそのまま日本語に置き換えると、意図と関係なく「きつい」「冷たい」と受け取られることがあります。断る・反対する・お願いする場面に集中して出ます。
- ⑤相槌と間の取り方。うなずきの回数、「うん」「そうなんだ」を入れるタイミング、相手が話し終わる前に話し始めるかどうか。本人にはほぼ自覚がない領域です。
このうち、実害がいちばん出やすいのは③と④です。①②は時間とともに薄れていきますし、多少なまっていても人間関係は壊れません。ところが③と④は、初対面の数日で「感じが悪い子」という評価に直結してしまいます。しかもこの2つは「日本語能力」ではなく「日本の同世代の中での運用」の問題なので、ドリルや検定の問題集をどれだけ解いても直りません。

| ①イントネーション | ②語彙 | ③敬語・タメ口の切替 | ④断り方・言い回し | |
|---|---|---|---|---|
| 周りにどう受け取られるか | 「外国っぽい」。からかいの材料にはなるが、関係は壊れにくい | 「言い方が古い」「知らない言葉がある」。会話が噛み合わない場面が出る | 「常識がない」「なめている」。先輩・先生との関係に直撃する | 「きつい」「冷たい」。友達関係の入り口でつまずく |
| 本人の自覚のしやすさ | 自覚しにくい。録音すると気づける | 比較的しやすい。通じなかった経験で気づく | しにくい。注意されて初めて知ることが多い | いちばんしにくい。本人は普通に言ったつもり |
| ドリルで直るか | △ 音声教材で一定は近づく | ◯ 読書量と教材で埋まる | × 知識としては覚えられるが、口が動くかは別 | × 教材にほぼ載っていない領域 |
| 効く練習 | 音読・シャドーイング。日本語の音を毎日耳に入れる | 学年相当の読み書きと、同世代との雑談の両方 | 場面ごとの型を覚えて、実際に人に向かって言う | 言い換えの型を持ち、失敗しても平気な相手で試す |
| かかる時間の目安 | 年単位。急がなくてよい | 数か月〜年単位。積み上げが効く | 数週間〜数か月。型を持てば早い | 数か月。場数がそのまま効く |
やってはいけない3つの対応
1つめは、親がその場で毎回直すこと。「その言い方はおかしい」「日本ではそう言わない」と一言ずつ訂正したくなる気持ちはよく分かります。ただ、話し方は最終的に発話量でしか仕上がりません。訂正が挟まるほど、子どもが日本語で口を開く回数は減っていきます。直そうとした結果、練習量が落ちるという逆向きのことが起きやすい。直すなら、その場ではなくあとから一度に、1回につき1つだけにしてください。
2つめは、話し方をからかうこと。家族の間の軽い冗談、きょうだいのモノマネ、親戚の「変な日本語」というひとこと。悪気がなくても、本人にとって日本語を話すこと自体が恥ずかしいことに変わってしまう入り口になり得ます。ここは家庭内で線を引いておく価値があります。
3つめは、日本語を話すこと自体をプレッシャーにすること。「日本人なんだから」「帰国したら困るよ」は、いま話せていない事実を毎回突きつける言い方です。日本語=評価される場面、という結びつきができると、家庭の中でも日本語を避けるようになります。もし学校に行きたがらない様子が出ているなら、話し方の矯正より先にそちらの対応が必要です(帰国子女の不登校・行き渋り)。
もう一点。大人が悪気なく使う「帰国子女っぽいね」というラベルにも注意してください。褒めているつもりでも、本人には「やっぱり自分はここの一員ではない」という線引きとして届くことがあります。同じことは「英語できるんでしょ」「日本語もう忘れちゃった?」にも言えます。保護者が使う言葉は、そのまま本人の自己像になります。「日本語の話し方が変」ではなく「日本の学校の言い方をまだ知らないだけ」。この言い換えだけでも、家庭の空気は変わります。
効くのは「量」と「安全な場」と「場面ごとの型」
①同世代と日本語で話す量を確保する。これが土台で、これがないと他は効きません。親との会話は語彙が親世代に寄りますし、そもそも親は敬語を使う相手ではないので、③と④の練習になりません。必要なのは「先生に話す」「先輩に話す」「同級生とふざける」の3種類が全部ある環境です。日本の公立学校にも日本語指導の仕組みはありますが、対象や時間数には限りがあります(帰国子女への日本語指導と公立の支援の限界)。
②失敗しても安全な場をつくる。教室でいきなり本番をやらせると、一度の失敗で口を閉じます。先に失敗のコストが低い場所で試させてください。オンラインの少人数クラス、いとこ、同じ立場の帰国生同士。ここでの失敗は評価に響きません。編入直後の数か月をどう設計するかは、小学校の編入・高校の編入の流れとあわせて考えると現実的です。
③敬語は「場面ごとの型」で入る。尊敬語と謙譲語の区別から教え始めると、たいてい失敗します。分類は説明のための道具であって、話すための道具ではないからです。入り口は文法用語ではなく、場面と定型文にしてください。職員室に入るときは「失礼します」。先生に頼むときは「〜していただけますか」。先輩に呼ばれたら「はい」。まずこの10個ほどを丸ごと口に入れて、あとから「これが敬語というものだよ」と種明かしをする順番のほうが、実際に口が動きます。
④断り方は、言い換えの型を持たせる。「無理」ではなく「ごめん、その日ちょっと厳しいかも」。「違う」ではなく「あー、そうなんだ。自分はこう思ってたけど、どう?」。クッションになる言葉(ごめん/ちょっと/かも/と思う)を数個持っているだけで、受け取られ方は大きく変わります。性格を変える話ではなく、語尾の在庫を増やす話だと本人に説明してあげてください。

ともだちじゃぱんが担うこと、担わないこと
先に、私たちが担わないことを書きます。発音やイントネーションを矯正する専門的な訓練は行っていません。志望校別の受験対策も、帰国生向けの専門塾の領域です(比較は帰国子女の塾・オンライン5タイプにまとめました)。学校でのいじめや、本人の心身の不調にかかわる支援も、私たちの専門ではありません。
私たちが担うのは、学年相当の国語・日本語と、その言葉を使う相手のほうです。母体は国内最大級のオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」を運営する株式会社NIJIN。講師は採用合格率およそ2%の選抜を通った今の日本の教室を知る現役水準の教員で、いまの学校で子どもたちが実際にどう話しているかを知っています。授業は8人制の少人数クラスで担任がつき、そこには日本に住む同世代の仲間がいます。先生には敬語、同級生とはタメ口――この切り替えが自然に毎回発生する場が、週のどこかにある状態をつくれます。料金は通い放題で月額定額です。
まずは今の学年とのギャップを確認したい方へ。1分でできる学年相当・国語力チェック(無料)で、お子さんの「学年の穴」の目安がわかります。海外での国語・日本語の続け方は海外駐在×子どもの国語・日本語 完全ガイドにまとめています。

よくある質問
発音やイントネーションを直す教室に通わせたほうがいいですか?
優先順位としては後ろで構いません。日本語は音の高低で意味を区別する高低アクセントの言語なので、英語の強勢アクセントに慣れた耳では確かにズレが出ます。ただ、教室で問題になっているのはほぼ敬語の切り替えと言い回しのほうです。イントネーションは、日本語の音を毎日耳に入れて音読する量があれば年単位で自然に近づいていきます。先に投資すべきなのは、話す相手のいる時間です。
敬語は、何から教えればいいですか?
文法用語からは入らないでください。文化審議会答申「敬語の指針」(2007年)は敬語を尊敬語・謙譲語I・謙譲語II(丁重語)・丁寧語・美化語の5種類に整理していますが、これは説明のための枠組みです。実際に必要なのは「職員室に入るとき」「先生に頼むとき」「先輩に呼ばれたとき」「欠席の連絡をするとき」といった場面ごとの定型文を10個ほど、口が勝手に動くまで練習することです。分類の理解はそのあとで十分間に合います。
「言い方がきつい」と言われたと本人が落ち込んでいます。どう声をかければ?
まず、性格の話ではなく言葉の在庫の話だと切り分けてあげてください。「きつく言ったつもりはないよね」「日本語だと、同じ意味でも柔らかく聞こえる言い方があるだけ」。そのうえで、次に使えるフレーズを1つか2つだけ一緒に決めます。多く渡すと使われません。なお本人の落ち込みが長く続く、眠れない、学校に行きたがらないといった様子がある場合は、話し方の練習より先に学校の先生やスクールカウンセラーへの相談を優先してください。
家では日本語だけにしたほうがいいですか?
「日本語だけ」を強制することが有効だと言い切れる根拠は見当たりません。むしろ家庭が日本語の練習場になると、家でも評価される感覚が残りやすくなります。現実的なのは、家庭は安心して話せる場所として維持したうえで、日本語で話す相手を家庭の外に1つ増やすことです。家庭内の会話だけでは語彙が家庭寄りに偏りやすいことは継承語をめぐる研究でも指摘されており、そこを埋めるには相手を増やすほうが早いと考えています。
どれくらいで日本の同世代の話し方に馴染みますか?
年齢・滞在年数・学校の雰囲気で大きく変わるため、一律の目安はお伝えできません。傾向として言えるのは、敬語や断り方のように「型」で覚えられるものは早く、イントネーションや語彙のように積み上げが要るものは遅いということです。だからこそ、早く効く③④から手をつけて、まず教室での関係を安定させる。①②は日々の読み書き(帰国子女の国語をオンラインで学ぶ選び方)で年単位で埋めていく――この順番をおすすめしています。

