夏休みや年末年始に日本へ帰るとき、「せっかくだから数週間だけ日本の学校に通わせたい」と考えるご家庭は多いと思います。滞在先が東京なら、東京都 一時帰国 体験入学という言葉で検索する方は確実にいます。ところが区のサイトを開いた瞬間に出てくるのは「体験入学は実施しておりません」「体験入学という制度はありません」という一文で、そこで手が止まってしまう。その一文で諦めてしまうのは、実はとてももったいないことです。
先に結論を書きます。2026年8月16日時点で、東京23区と多摩地域10市、合わせて33自治体の公式ページを1つずつ開いて確かめました。「体験入学」という名前の制度は、33自治体に1つもありませんでした。それでも、短期間だけ日本の学校に通うこと自体は、16区7市が「正式な編入学」という形で受け入れています。名前が無いことと、通えないことは、まったく別の話です。
一時帰国の家庭について「受け入れできません」とはっきり書いていたのは、23区のうち中央区の1区だけでした。中央区は「中央区立学校の体験入学制度はございません。短期間でも、必ず編入学の手続きが必要です。」としたうえで、「注記:中央区の住民登録がない方は受け入れができません。」と書いています。逆に言えば、それ以外の区は道が閉じていません。「体験入学は不可」という一文を読んで「東京では通えない」と結論するのは、いちばんもったいない誤読です。読むべきなのは「体験入学」という言葉の有無ではなく、その先に書かれている編入学の条件のほうです。

東京の33自治体に、「体験入学」という名前の制度は1つもありません
なぜ、こんなことになっているのか。出発点は、文部科学省が海外から一時帰国する家庭向けに出しているFAQ(2020年5月1日付)の1問目です。
いわゆる「体験入学」は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです。
つまり「体験入学」は、国が作った制度ではありません。各教育委員会が、自分の裁量でやるかどうかを決めているものです。だから、やらない教育委員会があっても制度上おかしなことは何も起きていません。東京では、その裁量を持つ33の教育委員会が、そろって「体験入学という枠は置かない。正式な編入学として受ける」という答えを出した、ということになります。
では、その裁量を持っているのは誰なのか。法令で確かめると、東京の状況はもっとはっきりします。学校教育法施行令第1条第1項は「市(特別区を含む。以下同じ。)町村の教育委員会は、当該市町村の区域内に住所を有する学齢児童及び学齢生徒…について、学齢簿を編製しなければならない」と定めています。同条第2項は「前項の規定による学齢簿の編製は、当該市町村の住民基本台帳に基づいて行なうものとする」。そして第5条が入学期日の通知と就学すべき学校の指定を、第6条が住所地の変更などで学齢簿に新たに記載された子どもへの通知を、第8条が就学校の変更を、第9条が区域外就学を定めています。いずれも主語は「市町村(特別区を含む)の教育委員会」であって、都道府県の教育委員会ではありません。
ここから2つのことが言えます。1つは、海外に住所がある子どもは日本の住民基本台帳に載っていないため学齢簿が編製されず、「あなたはこの学校に通ってください」という指定も発生しない、ということ。一時帰国中の通学は、通常の就学の枠のすぐ外側にある扱いになります。もう1つは、その外側をどう扱うかを決めるのは、都ではなく区市町村の教育委員会だということ。東京に「都内共通のルール」という単位が存在しないのは、そもそも法令上の権限がそこに置かれていないからです。33自治体を調べると33通りの条件が出てくるのは、偶然でも不親切でもなく、構造上そうなります。
もう一つ、諦めなくていい根拠を挙げておきます。文部科学省は「戸籍や住民票がない場合の就学手続について」というページで、「教育委員会においては、住民票や戸籍の有無にかかわらず、すべての学齢の児童生徒の義務教育諸学校への就学の機会を確保することが極めて重要」としています。住民票が無い=通えない、という単純な図式ではないということです。実際このあと見るように、中野区・荒川区・渋谷区は、住民登録が無いことを前提にした受け入れを公式ページに明記しています。
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「東京都が認めていない」と書いているのは、港区です
東京について調べていると、「東京都は体験入学を認めていない」という説明に行き当たることがあります。出どころは港区のページです。区民からの意見に対する回答として、こう書かれています(掲載2025年8月28日/ページID 170798/教育委員会事務局学校教育部学務課)。
海外からの一時帰国に伴う区立学校への通学については、東京都の体験入学を認めていないという方針に基づき、港区では正式な編入学として取り扱っています。
編入学に当たっては、授業の理解や学校生活に慣れるなど一定の期間が必要であることから、港区では3週間以上の継続した就学ができることを条件とし、区ホームページにおいて周知しております。
この記載は実在します。ただし、ここから「東京都が禁止しているのだから23区どこも同じだ」と一般化するのは危険です。今回、東京都教育委員会の公式サイトを確認しましたが、「体験入学を認めない」という都の方針を、一次情報として見つけることはできませんでした。都教委の「学校教育」で案内されている入学・転入学は、都立学校(高校・中高一貫教育校・都立小学校・特別支援学校)に関するものです。区市町村立の小中学校の就学手続きの案内は、都のサイトにはありません。
都教委の「公立小中学校への外国人就学について」も、手続きは「住んでいる区市町村の役所に行き、手続きをしてください」と案内しています。東京都教育相談センターも、小中学校の入学・転学については「お住まいの区市町村教育委員会の教育相談所(室)にご相談ください」としています。都は、就学の窓口を一貫して区市町村に返しているわけです。前の章で見た法令の権限配分と、きれいに一致します。
さらに、港区以外の22区の公式ページも読みましたが、「東京都」に言及していた区はゼロでした。体験入学を置かないと書いている区は、いずれも自区の判断としてそう書いています。台東区は「体験入学という制度はありません。正式な編入学での受入れとなります。」練馬区は「『体験入学』にあたる制度はありません。正式な入学の手続きが必要です。」文京区は「受け入れは正式な編入学の扱いとなり、体験入学での受け入れはおこなっておりません。」品川区は「体験入学は実施しておりません。正式な入退学の手続きが必要です。」世田谷区は「なお、体験入学ではありません。正式な編入学での受入れとなります」。都の方針だから、とはどこも書いていません。
ですので、この記事では次のように整理します。「港区はそう説明している」。これは事実です。「東京都が体験入学を禁止している」。これは、公式サイトでは確認できませんでした。存在しないと断定するつもりもありません(都のサイトには表示にJavaScriptを使うページがあり、全ページを網羅して検証したとは言えないためです)。ただ、読者にとって実務上重要なのは、どちらであっても申し込む先も、条件を決めているのも、滞在先の区市町村の教育委員会だという点です。港区の「3週間以上」という条件は、港区に問い合わせるときにだけ効いてきます。隣の区に持ち込んでも意味がありません。
23区を1区ずつ開いて確かめた結果
実際の一覧です。「扱い」「期間の下限」「住民登録」は、各区の公式ページに書かれている表現をそのまま拾っています。「記載なし」としているところは、不可という意味ではなく、公開情報からは読み取れなかったという意味です。ここを読み違えると、通えたはずの区を自分で外してしまいます。
| 区 | 扱い(公式の呼び名) | 期間の下限 | 住民登録 | 公式ページの記載・窓口 |
|---|---|---|---|---|
| 中央 | 編入学のみ/一時帰国者は受け入れ不可 | 記載なし | 必須 | あり/学務課 03-3546-5512 |
| 港 | 編入学として受入(短期就学) | 3週間 | 記載なし | あり/学務課 |
| 新宿 | 編入学のみ | 記載なし | 転入手続きが前提 | あり/学校運営課 03-5273-3089 |
| 文京 | 編入学として受入(一時帰国中の就学) | 原則2週間 | 不要 | あり/学校運営課学事係 03-5803-1295 |
| 台東 | 編入学として受入(一時帰国中の就学) | 2週間 | 不要 | あり/学務課学事係 03-5246-1411 |
| 墨田 | 編入学として受入(一時的な編入学) | おおむね2週間 | 住民登録または居住実態 | あり/学務課(Webフォーム先行) |
| 品川 | 編入学として受入(一時帰国時の編入学) | 3週間 | 任意(滞在証明で可) | あり/学務課(窓口のみ・郵送不可) |
| 大田 | 編入学として受入 | 記載なし | 不要(居住証明で可) | あり/学務課学事係 |
| 世田谷 | 編入学として受入(一時帰国中の就学) | 記載なし | 不要 | あり/学務課(電子申請可) |
| 渋谷 | 編入学として受入 | 4週間(休業期間を除く) | 必須としない | あり/学務課学事係 03-3463-2986 |
| 中野 | 編入学として受入(転入学) | 10日(出席できる日数) | 有無を問わないと明記 | あり/学務課学事係 03-3228-5459 |
| 杉並 | 編入学として受入(一時帰国者の入学) | 1週間未満は不可の場合あり | 杉並区に置いたまま、または除票 | あり/学務課学事係 |
| 北 | 編入学として受入(一時帰国中の就学) | 原則2週間 | 不要 | あり/学校支援課学事係 03-3908-1541 |
| 荒川 | 編入学として受入(一時帰国の編入学) | 概ね2週間(長期休業を除く) | 不要と明記 | あり/学務課学事第一係 |
| 板橋 | 編入学として受入 | 記載なし(極端に短いと不可) | 不要 | あり/学務課学事係 03-3579-2611 |
| 練馬 | 編入学として受入(就学手続き) | 記載なし | 不要 | あり/学務課学事係 03-5984-5659 |
| 上記のほか、千代田・江東・目黒・豊島・足立・葛飾・江戸川の7区は、一時帰国中の短期就学についての記載を公式ページで確認できませんでした(=不可という意味ではありません)。 | ||||

集計すると、こうなります。「体験入学」として受け入れる区は0。「正式な編入学として扱う」と明記している区が16区あり、そのうち一時帰国者を受け入れないと書いているのは中央区だけです。残る7区は、一時帰国中の短期就学について公式ページに記載がありませんでした。千代田区・江東区・目黒区・豊島区・足立区・葛飾区・江戸川区の7区です。
この7区のうち2区は、少し事情が違います。葛飾区の帰国児童生徒向けの案内は、転入届を出したあとの手続きとして書かれていて、住民登録をしない一時帰国の場合についての記載がありません。江戸川区はもう一歩踏み込んでいて、住民票の側で線を引いています。「外国に生活の本拠を有する方が一時帰国する場合、住所は外国にあるものとされておりますので、転入届は受付できません。(滞在予定期間がおおむね1年以上になる場合を除く)」。江戸川区では、住民登録を入口にする道は最初から使えません。就学そのものについては記載が無いため、学務課学事係(03-5662-1624)に直接聞く以外に確かめる方法がありません。
「記載なし」の区への具体的な聞き方は、この記事の後半でまとめます。先に、条件がいちばん大きく割れている2つの論点を見ていきます。住民登録と、期間です。
住民登録の扱いが、区によって正反対に割れます
一時帰国の相談でいちばん多い質問が「住民票を移す必要がありますか」です。東京の答えは、区によって正反対でした。
移さなくていい、と明文で書いている区があります。中野区は「住民登録の有無に関わらず、学校に出席できる日数が10日以上ある方であれば、正式に編入学として受け入れを行っております。」荒川区は「※住民票の転入手続きは不要です」。渋谷区はFAQで「※一時帰国での就学の場合は、住民登録は必須としていません。」としています。文京区・台東区・北区・大田区・世田谷区・板橋区・練馬区も、住民登録を要件にしていません。大田区は、居住を証明する書類での対応を案内しています。
逆に、住民登録を入口にしている区もあります。中央区は「中央区の住民登録がない方は受け入れができません。」新宿区は転入手続きを済ませたうえでの編入学として案内しています。墨田区は住民登録または居住の実態を確認する形で、Webフォームでの事前相談を先に求めています。品川区は住民登録を必須とはせず、滞在を証明する書類で代えられる運用ですが、申し込みは窓口のみで郵送を受け付けていません。
そして杉並区は、他のどこにも無い条件を置いています。対象は「日本国籍をお持ちの方で、住民票を杉並区に置いたまま(他区市町村に置いたままの場合は不可)、もしくは海外転出などで除票になっていて、海外から杉並区に一時帰国した方」。住民票をどこに残しているかで、可否が変わります。たとえば住民票を実家のある他県に置いたまま杉並区に滞在する場合は、この条件から外れます。さらに杉並区は「お子さんが日本に帰国してからの手続きになります。帰国前の手続きはできません。」としています。出国前にすべてを確定させておきたいご家庭にとっては、ここが計画上の制約になります。
この違いは、滞在先を選べるご家庭には実利のある情報です。父方・母方の実家がそれぞれ別の区にあるなら、どちらに滞在するかで条件が変わります。日程が短いなら中野区(10日)に滞在できるほうを選ぶ、住民票を動かしたくないなら住民登録不要と明記している区にする、といった判断が実際にできます。
多摩10市も、10市10通りでした
多摩地域からは、人口の多い10市を調べました。23区と同じく「体験入学」という名前の制度はどこにもありませんが、受け入れ自体は7市が編入学として明記しています。
- 三鷹市:「編入学による学校体験が可能です」と、めずらしく「学校体験」という言葉が残っています。条件は「在籍期間が21日間以上であること(夏休み等の長期休業期間は含みません。)」。住民登録は不要。「教材費等の経費は自己負担です」と明記。
- 調布市:呼び名は「短期編入学」。「体験入学とは異なり、正式な編入学としての受け入れとなりますのでご留意ください。」期間は2週間以上(始業式・終業式を除く)。住民登録は不要ですが、ホテル滞在は不可。「通学開始は、お手続き日の翌開校日からとなります。」
- 町田市:原則5日。今回調べた33自治体のなかで最も短い下限でした。
- 小金井市:2週間。「入学予定日の2週間前までに学務課学務係へご相談ください。」「年末・年度末・年度初め・学校行事期間中の受け入れはできません。」
- 八王子市・府中市・立川市:いずれも編入学として受け入れ、住民登録は不要。期間の下限の記載は見当たりませんでした。なお八王子市のページは2026年7月1日更新で、今回の33自治体でいちばん新しい情報でした。
- 武蔵野市:「武蔵野市立学校では、体験入学の受け入れをしていません。ただし、滞在地の学区の学校への編入学として受け入れられる場合もあります。」住民登録の手続きが第一段階として案内されています。
- 西東京市・国立市:一時帰国中の短期就学についての記載を見つけられませんでした。西東京市のページの更新日は2023年12月11日で、今回の33自治体でいちばん古いものでした。

三鷹市と小金井市には、もう一点、見落とせない記載があります。両市とも令和8年(2026年)から条件を変えています。三鷹市は「※令和8年4月より、最低在籍期間を21日間(夏休み等の長期休業期間を含まない)としています。」と書き、さらに「なお、日本国内在住のインターナショナルスクール等在学者については、長期休業期間中における体験的な就学のお受入れはしておりません。」としています。小金井市も「令和8年度より、日本国内在住でインターナショナルスクール等に在籍されている方の長期休業期間中における体験的な就学の受け入れは実施しておりません。」と明記しました。
この記事の内容は、すべて2026年8月16日時点で各自治体の公式ページから確認したものです。いま見たとおり、条件は改定されます。数年前の情報や、他のご家庭の体験談をそのまま前提にすると、日程を組んだあとで足元が変わっていた、ということが起こります。最終確認は必ず、滞在先の区市町村の公式ページと窓口でお願いします。
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期間の下限は、5日から4週間まで開いています
今回いちばん驚いたのが、ここです。どの自治体も「短期間の受け入れ」と言っているのに、その「短期間」の下限がまるで違います。短い順に並べると、こうなります。
町田市 原則5日 → 中野区 出席できる日数が10日以上 → 文京区・台東区・北区・荒川区・墨田区・調布市・小金井市 おおむね2週間 → 港区・品川区 3週間以上 → 三鷹市 21日間以上 → 渋谷区 4週間以上。

暦の日数でいえば5日と28日ですから、いちばん短い自治体といちばん長い自治体で5倍以上の差があります。たとえば「3週間だけ日本に帰る」という同じ計画でも、町田市・中野区・文京区・台東区・北区・荒川区・墨田区・調布市・小金井市・港区・品川区なら日数の条件は満たしますが、三鷹市(21日間以上)はぎりぎり、渋谷区(4週間以上)には届きません。同じ計画が、滞在先が駅ひとつ違うだけで通ったり通らなかったりします。
期間の下限が書かれていない区でも、極端に短いと断られることがあります。板橋区は日数の明記こそありませんが、極端に短い場合は受け入れられないとしています。墨田区は「滞在期間が極端に短い場合や語学学習を目的とした場合は、編入学をお断りさせていただく場合があります。」杉並区は1週間未満だと受け入れられない場合があるとしています。「記載なし」=何日でもいい、ではないということです。
そして、ここからが夏休みに帰国するご家庭にとって重要な話です。この日数に、夏休みは数えてもらえないことがあります。三鷹市の21日間は「夏休み等の長期休業期間は含みません」。渋谷区の4週間は「夏休みや冬休みなどの学校の休業期間を除いて、4週間以上継続して就学ができること」。荒川区は「荒川区内に滞在し、通学期間が概ね2週間以上であること(長期休業を除く期間)」。調布市の2週間も、始業式・終業式を除いた日数です。
世田谷区はさらに踏み込んで、目的の側から線を引いています。「宿泊行事や長期休業中に実施される事業の参加のみを目的とした就学はできません」。夏休みのイベントや行事だけに参加する形は認めない、という意味です。三鷹市・小金井市の「インターナショナルスクール等在学者の長期休業期間中の体験的な就学は受け入れない」という記載も、同じ方向を向いています。
まとめると、7月下旬から8月末までの「夏休みだけ」の一時帰国は、東京ではいちばん条件の悪い形になります。7月上旬に帰って終業式まで通う、あるいは8月末の始業式から9月中旬まで通う。学期にかかるように日程を組めるかどうかが、実際の合否を分けます。港区が「区立小・中学校は終業式までの期間、いくつかの要件のもと3週間以上継続して通学することができる児童・生徒を対象に受け入れを行っています」と書いているのも、まったく同じ発想です。航空券を取る前に、まずこの1点を確認してください。
時期そのものに制限を置いている自治体もあります。北区と荒川区は、年度末・年度始め(3月〜4月)の受け入れを原則としていません。小金井市は「年末・年度末・年度初め・学校行事期間中の受け入れはできません。」としています。春休みに合わせた帰国を考えている場合は、ここが先に効いてきます。
「編入学として受け入れます」は、実は不利な話ではありません
「体験入学ならよかったのに、編入学だなんて大げさで面倒だ」と感じるかもしれません。けれど少なくとも1点、編入学のほうがはっきり有利なところがあります。教科書です。文部科学省のFAQは、この非対称をそのまま書いています。
体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っていませんが、編入学を対象とした無償配布は行っています。
体験入学の枠で受け入れている自治体では、教科書は自己負担になるのが原則です。東京の「正式な編入学として受け入れる」方式は、この点ではむしろ得をしています。学籍が置かれるので、出欠や成績も記録されます。数週間でも「見学のお客さん」ではなく、その学級の一員として扱われるということです。子どもにとっての意味は、実はここが大きいのだろうと思います。
ただし、無償になるのは教科書であって、すべてが無料という意味ではありません。費用について明記があったのは、今回調べた33自治体のうち三鷹市と品川区の2つだけでした。三鷹市は「教材費等の経費は自己負担です」、品川区は教材費等の負担があり就学援助の対象外であることを案内しています。他の自治体に記載が無いのは、無料という意味ではありません。給食費・教材費・学用品について、申し込みのときに必ず確認してください。
もう1点、伝え方の注意です。今回の33自治体で、受け入れの「動機」について明文の規定を置いていたのは墨田区だけでした。「滞在期間が極端に短い場合や語学学習を目的とした場合は、編入学をお断りさせていただく場合があります。」学校は語学学校ではない、という当然の線引きですが、問い合わせのときに「日本語の勉強のために」とだけ伝えると、この規定に触れる可能性があります。伝えるべきは、日本の学校生活を経験させたい、帰国後の学校に慣れさせたいという、就学そのものの目的のほうです。
「記載なし」の区市には、どう聞けばいいか
千代田区・江東区・目黒区・豊島区・足立区・葛飾区・江戸川区の7区と、西東京市・国立市の2市。ここに情報が無いのは、「断られた」ということではありません。公開していないだけで、実際には受け入れている可能性が十分にあります。問い合わせ先は、どこも学務課(区によって学校運営課・学校支援課・教育総務課)です。千代田区は学務課学務係(03-5211-4284)、江東区は学務課学事係(03-3647-9174)、目黒区は学校運営課学事係(03-5722-9304)、葛飾区は学務課学事係(03-5654-8457)、江戸川区は学務課学事係(03-5662-1624)、国立市は教育総務課学務・保健係(042-576-2111)。豊島区・足立区・西東京市も学務課が窓口です。
聞き方にはコツがあります。「体験入学はできますか」と聞くと、東京では高い確率で「やっていません」と返ってきます。それは制度の名前が無いという意味でしかなく、通えるかどうかの答えではありません。次の4つを、この順番で聞いてください。
- 「海外から一時帰国する子どもを、短期間の編入学として受け入れていますか」(「体験入学」ではなく「編入学」という言葉を使う)
- 「最短で何日間、または何週間の在籍が必要ですか。長期休業期間は日数に含まれますか」
- 「住民登録は必要ですか。不要な場合、滞在を証明する書類は何が要りますか」
- 「申し込みはいつまでに、どこへ(教育委員会か、通学区域の学校か)出せばよいですか」
3つ目については、文部科学省のFAQも同じ整理をしています。「入学期日等の通知や学校の指定は市町村教育委員会が行うよう法令で定められています。現在、居住している市町村の教育委員会にご相談ください。その際、住民票の異動がなされていない場合は居住実態を把握するための書類が必要になることもあります。」滞在先の賃貸契約書、祖父母宅であればその住所が分かる書類など、何を用意すればよいのかを先に聞いておくと、帰国してからの動きが一気に速くなります。
なお、公立以外で「体験入学」という名前の受け入れを東京で確認できたのは、玉川学園(町田市)の1校だけでした。ただし対象がはっきり限定されています。「海外在住者で3年以内に帰国の予定があり、帰国時に玉川学園への入学や再入学を希望される方」、または「本学園を保護者の海外転勤等の事情により退学し、一時帰国による受け入れを希望される方」。学年は「原則として幼稚園年長、小学校1〜5年生」です。つまり将来その学校に入る(戻る)予定のある家庭のための制度であって、一般の一時帰国家庭が数週間だけ通うためのものではありません。期間と費用の記載は見当たらず、申し込みはメール(k12affairs@tamagawa.ed.jp)となっています。
国立の学校も確認しました。東京学芸大学附属大泉小学校には海外生活経験児童の編入学の募集がありますが、短期・体験入学の記載はありません。東京学芸大学附属国際中等教育学校にも編入学選抜(「帰国後または来日後1年以内」「海外の教育機関に連続1年と1日以上在籍」)がありますが、短期の受け入れの記載はありません。私立全体についても、文部科学省のFAQは具体的な学校の紹介は難しいとしています。国は、私立の短期受け入れ校のリストを持っていません。私立を検討するなら、1校ずつ直接聞くしかないというのが現状です。
相談先としては、練馬区が「帰国・外国籍児童(生徒)受入れ相談フォーム」という公式の窓口を用意しています。東京都教育相談センター(0120-53-8288・24時間)もありますが、小中学校の入学・転学については「お住まいの区市町村教育委員会へ」という案内になります。新宿区の「日本語サポート指導」(母語を話す指導員を短期集中で配置)や、足立区の日本語指導(あだち日本語ルーム・指導者派遣)といった支援もありますが、対象は区立の幼稚園・小中学校に就学している子どもです。まず編入学して在籍することが前提で、一時帰国の場合に使えるかどうかは公式には書かれていません。区市立図書館や児童館の夏休み教室を一時帰国の子どもが使えると明記した公式ページも、今回は見つけられませんでした。
最後にひとつだけ。数週間の編入学には、はっきりした価値があります。日本の教室の空気、給食、掃除、休み時間の会話。帰国後の生活を、子ども自身が具体的に想像できるようになります。一方で、2週間や4週間では届かないものもあります。学年相当の国語です。海外で暮らしていると会話は保てても読み書きだけが止まりやすく、9歳前後から差が開きはじめます。短期の編入学は、その差を「見える化」してくれますが、埋めるのには別の時間が要ります。私たちともだちじゃぱんは、その帰国と帰国のあいだをつなぐ側にいます。日本の現役水準の教員が、8人の少人数クラスで学年相当の国語を教えます。海外の時差に合わせた時間帯で、日本に住む同世代の友達が毎日そこにいます。次の一時帰国が、学校見学ではなく再会になるように。
よくある質問
東京では、一時帰国中に公立の小中学校へ通えないのですか?
いいえ、通えます。「体験入学」という名前の制度が無いだけです。2026年8月16日時点で東京23区と多摩10市の公式ページを確認したところ、「体験入学」を実施している自治体は1つもありませんでしたが、短期間の就学そのものは16区7市が「正式な編入学」として受け入れています。一時帰国者について受け入れ不可と明記していたのは、23区では中央区だけでした(「中央区の住民登録がない方は受け入れができません。」)。「体験入学は実施しておりません」という一文は、通えないという意味ではありません。
「東京都が体験入学を認めていない」と書いてあるページを見ました。都全体のルールですか?
その記載は港区のページのもので、東京都の方針としては公式サイトで確認できませんでした。港区は「東京都の体験入学を認めていないという方針に基づき、港区では正式な編入学として取り扱っています」と説明しています(掲載2025年8月28日)。ただし東京都教育委員会のサイトで案内されている入学・転入学は都立学校に関するもので、区市町村立小中学校の就学手続きの案内は都のサイトにありません。都の「公立小中学校への外国人就学について」も「住んでいる区市町村の役所に行き、手続きをしてください」としています。港区以外の22区で東京都に言及していた区はありませんでした。存在しないと断定はできませんが、少なくとも条件を決めているのは滞在先の区市町村です。
どのくらいの期間、通う必要がありますか?
自治体によって、5日から4週間まで開きがあります。短い順に、町田市が原則5日、中野区が出席できる日数10日以上、文京区・台東区・北区・荒川区・墨田区・調布市・小金井市がおおむね2週間、港区と品川区が3週間以上、三鷹市が21日間以上、渋谷区が4週間以上です。期間の記載が無い区でも、板橋区や墨田区のように「極端に短い場合は受け入れられないことがある」としている例があります。滞在日数が決まっているなら、それに合う自治体を先に確認するのが現実的です。
住民票は移す必要がありますか?
区によって正反対です。中野区は「住民登録の有無に関わらず」受け入れると明記し、荒川区は「※住民票の転入手続きは不要です」、渋谷区は「一時帰国での就学の場合は、住民登録は必須としていません」としています。一方で中央区は「中央区の住民登録がない方は受け入れができません」。杉並区は「住民票を杉並区に置いたまま(他区市町村に置いたままの場合は不可)、もしくは海外転出などで除票になっていて」という独自の条件です。江戸川区は「外国に生活の本拠を有する方が一時帰国する場合…転入届は受付できません」として、そもそも転入届が受理されません。
夏休みに合わせて帰国すれば通えますか?
夏休みだけの帰国は、東京ではいちばん条件が厳しくなります。三鷹市の「21日間以上」は「夏休み等の長期休業期間は含みません」、渋谷区の4週間は「夏休みや冬休みなどの学校の休業期間を除いて」、荒川区の概ね2週間も「長期休業を除く期間」です。調布市の2週間も始業式・終業式を除きます。世田谷区は「宿泊行事や長期休業中に実施される事業の参加のみを目的とした就学はできません」と明記しています。7月上旬に帰って終業式まで通う、8月末の始業式から通う、というように学期にかかる日程を組めるかどうかが実際の分かれ目です。
区のサイトに何も書いていません。断られたということですか?
いいえ。「記載なし」は「不可」ではありません。千代田区・江東区・目黒区・豊島区・足立区・葛飾区・江戸川区の7区と、西東京市・国立市の2市は、一時帰国中の短期就学についての記載を公式ページで確認できませんでした。不可とはどこにも書かれていません。学務課へ電話し、「体験入学はできますか」ではなく「海外から一時帰国する子どもを短期間の編入学として受け入れていますか」「最短の在籍日数は」「長期休業は日数に含まれますか」「住民登録は必要ですか」と聞いてください。言葉を変えるだけで答えが変わることがあります。
編入学だと手続きが重くて損ではありませんか?
少なくとも教科書については、編入学のほうが有利です。文部科学省のFAQは「体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っていませんが、編入学を対象とした無償配布は行っています」としています。学籍が置かれるため、出欠や成績も記録されます。ただし費用がすべて無料になるわけではなく、三鷹市は「教材費等の経費は自己負担です」、品川区は教材費等の負担と就学援助の対象外を案内しています。他の自治体に記載が無いのは無料という意味ではないので、給食費・教材費は申し込み時に確認してください。
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東京の公立小中学校へ体験入学を申し込むときも、判断に迷うのは受け入れ側の手間です。一時帰国の体験入学を迷惑と思われないための頼み方を先に確認しておくと、窓口でのやり取りがスムーズになります。



