一時帰国のあいだ、上の子は小学校の体験入学に通わせられる。では下の子は——。そう考えて「一時帰国 幼稚園 受け入れ」と検索するご家庭は少なくありません。ところが調べはじめると、出てくるのは小学校と中学校の話ばかりで、幼稚園のことがどこにも書かれていない。そういう手応えのなさが、この検索語のうしろにあります。
先に結論から書きます。自治体が実施している「体験入学」は、原則として小・中学校=学齢児童生徒のための仕組みで、未就学児は入口が別です。そして未就学児には未就学児の道が三本あります。公立幼稚園への短期の就園、一時預かり事業、私立園の体験保育。それぞれ根拠になっている法律が違うので、条件も費用もまったく違います。公開されている資料にあたって、順番に確かめていきます。

体験入学に幼稚園が出てこないのは、書き忘れではない
まず前提として、体験入学は国の制度ではありません。文部科学省は、海外から一時帰国する家庭向けのFAQ(2020年5月1日付)にこう書いています。
いわゆる「体験入学」は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです。「体験入学」を実施していない教育委員会もあれば、実施していても期間や条件が違う場合もあります。
文部科学省「海外から一時帰国中又は一時帰国を予定しているお子様の保護者向けお問合せに寄せられたFAQ」(2020年5月1日付)
実施しているのは教育委員会です。そして教育委員会が就学の手続きを担うのは、学校教育法上の学齢児童生徒——つまり小学1年から中学3年までです。幼稚園は同じ学校教育法の「学校」ではありますが、就学義務の対象ではありません。だから体験入学の要項に幼稚園が出てこないのは、書き忘れではなく構造なのです。
それを一行で明文化しているのが大阪府吹田市です。体験入学の案内に、こう書かれています。
※日本において小学生、中学生に相当する年齢である方に限ります。未就学児や高校生に相当する年齢の方は対象外です。
吹田市「海外から一時帰国した児童生徒の体験入学について」
ここまで書いている自治体はむしろ珍しく、多くは「幼稚園について何も書いていない」だけです。調べた範囲では、幼稚園版の「体験入園制度」を公式に持っている自治体は見つかりませんでした。ないものを探して疲れるより、別の三本を見にいくほうが早い、というのがこの記事の立場です。
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道その一・公立幼稚園に「短期で就園する」——芦屋市の回答
制度としての体験入園はありませんが、通常の就園枠に短期間だけ入るという形で受け入れている自治体があります。兵庫県芦屋市が、まさにその質問と回答を公式サイトに載せています。質問文がそのまま一時帰国家庭の状況です。
海外より芦屋に2か月間だけ一時帰国する予定ですが、公立幼稚園にこの間だけ就園することはできますか。/公立幼稚園の定員に空きがある場合には、短期間でもご入園いただくことができますので、ご希望の幼稚園に直接お申込みください。
芦屋市「(FAQ)一時帰国時の公立幼稚園への就園について」
読み方のポイントは三つあります。ひとつ、条件は「定員に空きがある場合」であること。ふたつ、申込先が教育委員会ではなく園に直接であること。みっつ、園区の指定がないと書かれていること。海外に所得がある場合は所得証明の提出を求められることがある、とも添えられています。
ただし正直に書いておくと、この回答は住民登録が必要かどうかに触れていません。公立幼稚園の募集要項に住所要件を置いている自治体は多く(たとえば新宿区は「入園申請時に保護者とともに新宿区に住所があり、入園後も区内の住所から通園する」ことを条件にしています)、芦屋市がそこをどう処理しているかは公開情報からは読み取れませんでした。ここは園か市に直接たずねるしかありません。
道その二・一時預かり事業——実は住所要件が法律にない
未就学児にとって現実的な本命は、おそらくこちらです。一時預かり事業は児童福祉法第6条の3第7項に根拠がある事業で、条文の対象はこう書かれています。
家庭において保育(略)を受けることが一時的に困難となつた乳児又は幼児
児童福祉法第6条の3第7項第1号
法律の条文には、住所の要件がありません。住所要件を課しているのは、その下の各自治体の実施要綱です。ここが大事なところで、要綱は自治体ごとに書きぶりが違うため、市外・国外に住んでいても使える自治体が実在します。
もうひとつ、事業には類型があります。国の実施要綱は、一般型と幼稚園型Ⅰで対象児童を書き分けています。
(一般型)主として保育所、幼稚園、認定こども園等に通っていない、又は在籍していない乳幼児とする。/(幼稚園型Ⅰ)主として、幼稚園等に在籍する満3歳以上の幼児で、教育時間の前後又は長期休業日等に当該幼稚園等において一時的に保護を受ける者。
「一時預かり事業の実施について」の一部改正について(令和2年4月1日/文部科学省初等中等教育局長・厚生労働省子ども家庭局長通知)別添 新旧対照表
つまり幼稚園型は「在籍している園児」が対象なので、一時帰国の子には構造的に使えません。狙うのは一般型です。ここを取り違えると、園に問い合わせても話がかみ合いません。
| 自治体 | 市外・国外在住でも使えるか | 費用(原文の表記) | 公式ページに書かれていること |
|---|---|---|---|
| 松江市 | 使える(住所要件を課していない稀な例) | 3歳以上児 650円(700円)/4時間未満、1,300円(1,400円)/4時間以上 | 「(注意)松江市外在住の方も利用できます。」/かっこ内が市外在住世帯の料金。別途、給食費・おやつ代等の実費 |
| 横浜市 | 里帰り等で一時的に市内在住なら可 | 1時間あたり300円を上限に施設ごとに設定 | 「里帰り出産等で一時的に横浜市内に在住されている場合は利用可能です。」/ただし利用料の減免は「海外からの一時的な帰国等」を明示的に対象外としている |
| 勝山市 | 里帰り等で世帯に滞在する子を要綱で明記 | 4時間未満で給食なし 1,000円/それ以外 2,000円 | 「里帰り出産等のために保護者と一時的に市内に住所を有する者の世帯に滞在する者」を対象児童に含めている |
| 大阪市 | 里帰り・介護・裁判員・災害避難に限り市外可 | 平日 3歳児以上 1,200円/日、1・2歳児 2,000円/日 | 「市外居住者であってもご利用いただけます」/ただし「市外居住者は利用料減免の対象外です」 |
| 京都市 | 在住要件を外す場面を限定列挙(海外一時帰国は入っていない) | 市の要綱による | 災害被災・裁判員・里帰り出産等・「お試し居住」のみ在住要件を問わない、と列挙している |
| さいたま市 | 公式ページに市外可の記載を確認できず | 公立 2,000円/日(1〜2歳児)、1,950円/日(3〜5歳児) | 相場の目安として |
道その三・私立園の「体験保育」——月額3万7,000円という現実
三本目は私立です。これは制度ではなく各園の判断ですが、一時帰国を名指しで想定して受け入れを公表している園が実在します。千葉県松戸市の聖徳大学附属第二幼稚園です。
海外にお住まいの幼児が、在学校の長期休暇等に伴い一時帰国するにあたり、本園での保育生活を一時的に体験したい場合に、本園との条件が合致すれば、体験保育をすることができます。/体験保育期間は原則として1日〜1ヶ月程度となります。
聖徳大学附属第二幼稚園「海外からの一時帰国に伴う幼稚園への体験保育」
費用は3・4・5歳児が月額37,000円、満3歳児が月額38,000円で、体操服や教材費は別途。申込書の提出と面談を経て、承認後に費用を納めるという流れです。「アレルギー等の対応はできません。」とも明記されているので、除去食が必要なお子さんは事前に確認が要ります。
同じページに、住民登録に関する一文があります。これが次の話につながります。
住民登録をした場合は、体験保育でなく、入園扱いとなり入園手続き金等が必要となります。
同前

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そもそも「1年未満の一時帰国では転入届が出せない」
ここが、この話でいちばん誤解されている前提です。短期の一時帰国では、住民登録をしたくてもできません。複数の自治体が、ほぼ同じ文言で説明しています。
ただし、外国に住所を移している方が一時帰国している場合で、一時帰国の期間が1年未満であるときは、住所は外国にあるものとして扱いますので、転入届の受付はできません。
境港市「国外からの転入届、国外への転出届のご案内」(同旨の記載が北見市ほかにもあります)
背景には、民法第22条の「各人の生活の本拠をその者の住所とする」という原則と、住民基本台帳法第4条がこれと異なる意義の住所を定めてはならないとしている構造があります。正直に書くと、この「1年未満」という線引きの国レベルの原典までは特定できませんでした。複数の自治体が同じ説明をしている、という事実としてお読みください。
そして住民登録がないことは、幼稚園の話では次の三つに直結します。公立園の入園要件(多くが住所要件を置いている)、幼児教育・保育の無償化、そして定期の予防接種です。予防接種法第5条第1項は定期接種の対象を「当該市町村の区域内に居住する者」と定めています。海外で受けた接種を定期接種の回数として算入できるかは自治体の運用によります。
無償化は使えるのか——国は「使える」と言い、条件は継続性を求めている
ここは期待させたくないので、両側を並べます。まず国の立場は明確です。こども家庭庁のFAQは、こう書いています。
子ども・子育て支援新制度に基づく支援の対象は、日本国籍の有無、戸籍・住民登録の有無にかかわらず、当該市町村での居住の実態があれば、米軍基地内に居住する場合を含め対象としており、幼児教育・保育の無償化についても、この考え方が変わるものではありません。
こども家庭庁「幼児教育・保育の無償化に関する自治体向けFAQ【2024年7月1日版】」No.1-30
住民票がなくてもよい、と読めます。ところが同じFAQが、その「居住地」の意味をこう定義しています。
なお、この場合の居住地とは、住民票の有無にかかわらず居住事実が認められる場所をいい、将来にわたり起居を継続することが社会通念上期待できる場所を指しますので、個別の状況を把握したうえで、市町村間において調整のうえ、ご判断いただくこととなります
同前 No.5-34
「将来にわたり起居を継続することが社会通念上期待できる場所」。数週間で帰る一時帰国がこれを満たすと書いた公的な文書は、見つかりませんでした。加えて、園と保護者の私的契約で受け入れられた場合について、同じFAQは「基本的に幼児教育・保育の無償化の対象者ではなく、利用者負担額については、専ら施設・事業者と保護者の契約によります」としています。私立園の体験保育が有償なのは、この構造の帰結です。
健康診断・予防接種・アレルギーで、実際に求められるもの
意外に思われるかもしれませんが、入園時の健康診断が法令で義務づけられているのは保育所のほうで、幼稚園ではありません。児童福祉施設の設備及び運営に関する基準第12条第1項は「入所した者に対し、入所時の健康診断、少なくとも一年に二回の定期健康診断(略)を行わなければならない」と定めています。一方、学校保健安全法第13条第1項が幼稚園に求めているのは「毎学年定期に」の健康診断です。
結核についても違いがあります。小・中学生の体験入学で話題になる「結核高まん延国に6か月以上の居住歴があると精密検査」という話は、学校保健安全法施行規則第6条第3項が検査対象を小学校・中学校の全学年、高校・高専の第1学年、大学の第1学年と限定列挙しているため、幼稚園児には及びません。ただし小学校に上がるときには関係してくるので、頭の隅に置いておくと後が楽です。
実務で求められるのは、母子健康手帳などによる接種歴の確認です。こども家庭庁の「保育所における感染症対策ガイドライン」は「子どもの入園前には、BCGワクチンの接種歴を母子健康手帳等で確認する」としています。海外で接種した記録は、日本語の様式では出てきません。母子手帳と現地の接種証明を両方持って行くのが、いちばん揉めない準備です。
アレルギーは、園によって答えが正反対になります。保育所向けのガイドラインは「完全除去対応(提供するか、しないか)」を原則とし、「基本的に家庭で食べたことのない食物を保育所では提供しない」としていますが、これは通年で通う子を前提にした運用です。数週間の短期でそこまでの体制を組めるかは別問題で、先ほどの私立園のように「対応できません」と明記している園もあります。申し込みの電話で最初に伝えるべきは、期間でも費用でもなく、アレルギーの有無です。
日本語で遊べた三週間の、その先をどうするか
未就学の時期に日本の園で過ごした子は、たいてい驚くほど早く日本語に馴染みます。数日で名前を呼び合うようになり、帰る頃には日本語で言い合いまでできている。そして飛行機に乗った翌週から、その相手がいなくなります。幼児の日本語は、教材ではなく相手で決まります。相手がいなくなれば、そこで止まります。
ともだちじゃぱんは、その「相手」を海外にいるあいだも切らさないためのオンラインスクールです。日本の現役水準の教員が担任につき、8人の少人数クラスで、同じように海外で育っている日本の同世代と毎週顔を合わせます。年に一度会う友達ではなく、毎週話す相手をつくることが目的です。
小学生以上の一時帰国については、一時帰国の「体験入学」完全ガイドと一時帰国中に保育園を使う方法にまとめています。住民票を戻すかどうかで迷っている方は子どもだけ住民票を戻すという判断もあわせてどうぞ。
よくある質問
一時帰国中、公立幼稚園に短期間だけ通わせられますか
自治体によります。芦屋市は公式FAQで「公立幼稚園の定員に空きがある場合には、短期間でもご入園いただくことができますので、ご希望の幼稚園に直接お申込みください」と回答しています。ただし多くの自治体は公立幼稚園の入園に住所要件を置いており、短期の一時帰国では住民登録ができません。滞在先の自治体に、住民登録なしで就園できるかを最初に確認してください。
小学校の「体験入学」に、弟妹の幼稚園も一緒に申し込めますか
できません。体験入学は教育委員会が学齢児童生徒を対象に実施しているもので、吹田市は「未就学児や高校生に相当する年齢の方は対象外です」と明記しています。未就学児は、公立幼稚園への短期就園、一時預かり事業、私立園の体験保育という別の入口を探すことになります。
一時預かりは、住民票がなくても使えますか
自治体の実施要綱によります。根拠となる児童福祉法第6条の3第7項の条文自体には住所要件がなく、松江市のように「松江市外在住の方も利用できます」と明記している例もあります。一方、京都市のように在住要件を外す場面を限定列挙し、そこに海外からの一時帰国が入っていない自治体もあります。滞在先の要綱を確認してください。
費用はどのくらいかかりますか
一時預かり事業なら、確認できた範囲で1日あたり1,000円〜3,000円前後です(大阪市の3歳児以上は平日1,200円/日、勝山市は4時間未満で給食なしなら1,000円、松江市の市外在住3歳以上児は4時間以上で1,400円)。私立園の体験保育は月額単位で、聖徳大学附属第二幼稚園の例では3・4・5歳児が月額37,000円です。別途、給食費・おやつ代・教材費などの実費がかかります。
幼児教育・保育の無償化は適用されますか
短期の一時帰国に適用されると明記した公的文書は見つかりませんでした。こども家庭庁は「戸籍・住民登録の有無にかかわらず、当該市町村での居住の実態があれば」対象としていますが、その「居住地」を「将来にわたり起居を継続することが社会通念上期待できる場所」と定義しています。数週間の滞在がこれに当たるかは市町村の判断になります。園との私的契約で受け入れられた場合は、同FAQが明確に無償化の対象外としています。
予防接種や健康診断で、何を持って行けばいいですか
母子健康手帳と、現地で受けた予防接種の記録を両方お持ちください。こども家庭庁のガイドラインは入園前にBCGの接種歴を母子健康手帳等で確認するとしています。なお、小・中学生の体験入学で求められる結核の精密検査(高まん延国に6か月以上の居住歴がある場合)は、学校保健安全法施行規則が対象学年を限定列挙しているため、幼稚園児には適用されません。



