小学生のときに一時帰国の体験入学をさせて、よかったから中学生でもまた──と考えて調べはじめると、様子が変わることに気づきます。一時帰国 体験入学 中学校で情報を探しても、小学校の案内ほど具体的に書かれていない。あるいは、条件のところに小学校には無かった但し書きが並んでいる。
今回、自治体の要綱や教育委員会の案内を実際に開いて確かめたところ、中学校には小学校に無い障壁がいくつも存在していました。中学3年生は受け入れないと明記している市があり、定期テストの期間は断られることがあり、給食が出るとは限らず、部活の公式戦には制度上出られません。順に見ていきます。

前提:そもそも国の制度ではありません
文部科学省は、海外から一時帰国する家庭向けのFAQ(2020年5月1日付)で「いわゆる『体験入学』は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです」と明記しています。だから条件は市ごとに違い、名前すら統一されていません。京都市は「聴講生」、横浜市は「一時受入れ」、仙台市・川崎市・福岡市は「仮入学」と呼びます。詳しくは一時帰国の小学校の受け入れを自治体別に調べた記事にまとめました。
そのうえで、小学校と中学校で扱いを明示的に分けている自治体は、今回調べた範囲では多くありませんでした。ほとんどが「小・中学校」と一括で規定しています。ところが、条件を細かく読むと中学生にだけ効いてくる条項が現れます。
中学校でだけ立ちはだかる、6つの壁

壁① 中学3年生は受け入れないと書かれている
茅ヶ崎市は受け入れの案内で「中学3年生の受け入れはできません」と明記しています。北海道名寄市の要項はさらに理由まで書いていて、中学3年生を原則対象外とする根拠を「高等学校入学者選抜などの進路の選択・決定を控えた時期であるため」としています。
中3こそ「日本の高校を受けるかもしれないから、日本の中学を見ておきたい」と考える学年です。その学年が、まさにその理由で対象外になる。ここは早めに知っておいたほうがいい食い違いです。
壁② 定期テストの期間は断られることがある
さいたま市は「学校内のイベント(定期テスト等)との兼ね合い等により受け入れができない場合があります」と書いています。茅ヶ崎市も「テスト期間中や運動会・体育祭を含む校外活動等の行事がある場合」を、断ることがある条件に挙げています。
中学校は年に4〜5回の定期考査があり、その前後は授業も特別な時間割になります。さらに茅ヶ崎市は「4月から5月、2月から3月は学校での受け入れができません」として時期そのものを封鎖しています。中学校のカレンダーは小学校より詰まっていて、空いている窓が狭いということです。
壁③ 給食が「当たり前」ではなくなる
文部科学省の学校給食実施状況等調査(令和5年5月1日現在)によると、完全給食を実施している学校の割合は次のとおりです。

小学校は18,755校のうち18,532校=98.8%。中学校は9,820校のうち8,818校=89.8%です。茅ヶ崎市は「小学校では原則給食を利用し、中学校は給食かお弁当持参の選択制」と説明しています。名古屋市は今も選択制のスクールランチで、3日前までの予約制です。
費用の面でも差が出ます。仙台市は「小学校及び特別支援学校小学部の給食費は無償」と案内していて、中学校は保護者負担ということになります。しかも大都市は移行の途中で、神戸市は2026年1月に、横浜市は2026年4月に全員給食へ切り替わったばかりです。去年の体験入学と今年の体験入学で、給食が別物になっている可能性があります。
壁④ 教科書は無償にならず、しかも9教科ぶん
文部科学省のFAQは「体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っていませんが、編入学を対象とした無償配布は行っています」と明記しています。さいたま市も「体験入学では教科書の無償給与はありません」、仙台市・福岡市・京都市・茅ヶ崎市もそれぞれ対象外・自己負担としています。
小学校でも同じ扱いですが、中学校は教科数が多いぶん負担が重くなります。海外子女教育振興財団から無償で配布される教科書を持っている場合も油断できません。茅ヶ崎市は「海外子女教育振興財団の無償配布教科書は、本市採用教科書と異なる場合があります」と注意喚起しています。教科書は市町村ごとに採択が違うため、持参しても授業と噛み合わないことがあるのです。
壁⑤ 部活動の公式大会には、制度上出られない
中学校の体験入学に期待することの上位に、部活動があると思います。ここは制度の壁が明確です。日本中学校体育連盟の「運営の基本と大会開催基準」は、参加資格をこう定めています。
参加者は、都道府県中学校体育連盟加盟の中学校に在籍し、当該競技要項により全国大会参加資格を得た者に限る
体験入学は学籍を伴わない受け入れなので、この「在籍」に当たりません。同基準の参加資格の特例も、学校教育法第134条の各種学校に在籍する生徒と、地域クラブ活動に所属する生徒の2類型だけで、体験入学生を想定した例外規定はありません。
ただし「体験入学生の出場を禁ずる」と名指しした条文があるわけではなく、これは条文の構造からの整理です。日常の練習への参加については、茅ヶ崎市が「行事、校外活動等は学校との相談のうえ認められた場合に参加できます」と書いている程度で、部活動を名指しした公式ルールは見つけられませんでした。練習に混ぜてもらえるかどうかは、学校との相談次第ということになります。
壁⑥ 修学旅行・宿泊行事には参加できない
これは「時期を避けてほしい」ではなく、はっきり参加不可と書かれています。吹田市は「林間・臨海学習、修学旅行等の宿泊を伴う学校行事には参加できません」、神戸市は「自然学校や修学旅行等、宿泊を伴う学校行事は安全面を考慮し参加できません」、京都市は宿泊を伴う活動・入学式・卒業式・夏季休業期間中のプール活動を原則不可としています。
世田谷区にいたっては、動機そのものを封じています。「宿泊行事や長期休業中に実施される事業の参加のみを目的とした就学はできません」。修学旅行に合わせて帰国する、という計画は成り立たないということです。

成績はつきません。その法的な理由
吹田市は率直に書いています。「体験入学期間中の成績の評価はしません。通知表や卒業証書のお渡しはありません」。
根拠は学校教育法施行規則第24条第1項です。「校長は、その学校に在学する児童等の指導要録……を作成しなければならない」。体験入学は学籍を伴わないため「在学する児童等」に当たらず、指導要録が作られません。指導要録が無ければ評定も付きません。文部科学省が示す指導要録の「学籍に関する記録」欄も、入学・編入学・転入学・転学・退学という正式な学籍異動だけを記載対象としていて、体験入学の記載欄はありません。
※これは条文と自治体の記述からの整理で、「体験入学中の成績は内申に反映されない」と正面から述べた文部科学省の通知は見つけられませんでした。断定はできませんが、構造としてはこうなっています。
では「内申のために体験入学」は成り立つのか
結論から言うと、成り立ちません。制度の側が、そもそも内申を求めていないからです。
帰国生徒を対象にした高校入試を3都府県で確かめました。
| 都府県 | 調査書(内申)の扱い | 検査の内容 |
|---|---|---|
| 東京都 海外帰国生徒対象 | 現地校出身者は調査書ではなく「海外における最終学校の成績証明書又はこれに代わるもの」を提出。中学校在学者・卒業者および日本人学校卒業(見込み)者は調査書 | 三田・竹早・日野台は国数英3教科+面接。国際高校は日本人学校出身者が3教科+面接、現地校出身者は作文及び面接のみ |
| 神奈川県 海外帰国生徒特別募集 | 「海外の現地校に在籍しているため調査書を作成できない等の場合は、資料の整わない者として、参考にできる資料を活用し、適正に選考することとしておりますので有利不利はありません」 | 英・国・数の3教科+作文+面接 |
| 大阪府 帰国生徒選抜 | 実施要項に「調査書の作成を要しない」「調査書の提出を要しない」と明記。選抜資料は学力検査の成績と面接の評価のみ | 数学・英語の2教科+面接(和訳辞書1冊持込可) |
つまり、帰国生の入試ルートでは調査書が無くても不利にならない設計になっています。数週間の体験入学で内申を稼ごうという発想は、制度上まったく成立しません。体験入学の価値は別のところにあります。
学年は「年齢」で決まります
海外の学校は9月始まりのところが多く、日本の学年とずれます。どの学年に入るのかは、法令で決まっています。
学校教育法第17条は、就学義務の期間を「満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初め」から「満十五歳に達した日の属する学年の終わり」までと定め、学校教育法施行規則第59条(第79条で中学校に準用)が「学年は、四月一日に始まり、翌年三月三十一日に終わる」としています。つまり4月1日時点の年齢で学年が決まります。
運用でも同じです。京都市は「外国における学年にかかわらず、聴講に当たっての受入学年は年齢相当の学年とする」と明記し、福岡市も「年齢相当での受け入れ」としています。現地校で1学年上(あるいは下)にいても、日本では年齢どおりの学年に入るということです。
日本人学校の子と、現地校・インターの子で違うこと
体験入学で入る学年に差はありません。どちらも年齢相当です。差が出るのはその先の資格です。
学校教育法施行規則第95条は高校の入学資格を定めており、第1号が「外国において、学校教育における九年の課程を修了した者」、第2号が「文部科学大臣が中学校の課程と同等の課程を有するものとして認定した在外教育施設の当該課程を修了した者」です。日本人学校は第2号にあたり、中学部を修了すれば高校入学資格があります。現地校に通う子は第1号のルートです。
一方補習授業校は、現地校や国際学校に通う子に土曜日や放課後に一部の教科を日本語で教える施設で、正規の学校ではありません。単独では第95条の資格を生まず、本体は現地校のほうになります。なお国内のインターナショナルスクールについて、文部科学省は「学校教育法第1条に規定する学校として認められていないインターナショナルスクールに就学させたとしても、法律で規定された就学義務を履行したことにはなりません」と説明しています。
中学生の一時帰国で、本当に効くこと
ここまで制約ばかり並べました。では中学生の体験入学に意味がないかというと、そんなことはありません。ただし期待の置きどころを変えたほうがいい、というのが調べた結論です。
部活の大会にも修学旅行にも出られず、成績もつきません。残るのはふつうの授業と、休み時間と、同じ制服で並んで歩く日常です。そしてそれこそが、帰国後に効きます。日本の中学校がどういう速さで進み、どういう言葉で説明され、同世代がどんな話し方をするのか。教室に座ってみないと分からないことです。
同時に、数週間では届かないものもはっきりしています。学年相当の国語です。中学の国語は説明的文章と文学的文章の読解が中心で、語彙も抽象度も一気に上がります。海外で暮らしていると会話は保てても読み書きが止まりやすく、その差は中学の3年間で最も開きます。帰国子女の国語で「できない」が起きる仕組みにも書いたとおり、これは能力の問題ではなく、触れた量の問題です。
私たちともだちじゃぱんは、そこを埋めるためのオンラインスクールです。日本の現役水準の教員が、8人の少人数クラスで学年相当の国語を教えます。月額定額で通い放題、日本の同世代とクラスメイトとして毎日つながります。近くに補習授業校があるなら、まずそちらが確実です。土曜が使えない、通える距離にない、レベルが合わない──そういうご家庭の受け皿として、あるいは併用先として使っていただいています。
そして中学生には、もうひとつ効きます。次に一時帰国したとき、会いに行ける友達がいる。体験入学がゼロからの学校見学ではなく、再会になります。
よくある質問
中学生でも一時帰国の体験入学はできますか?
できる自治体が多いですが、中学校固有の条件がつきます。茅ヶ崎市・吹田市・京都市・仙台市・川崎市・福岡市・神戸市・さいたま市・横浜市などは小・中学校を一括で規定しています。ただし茅ヶ崎市は「中学3年生の受け入れはできません」と明記し、名寄市も「高等学校入学者選抜などの進路の選択・決定を控えた時期であるため」として中3を原則対象外としています。札幌市は「体験入学という制度は設けておりません」として正式入学のみです。
中学3年生でも受け入れてもらえる市はありますか?
中3を明示的に除外していない自治体もありますが、確認が必要です。今回調べた範囲で中3を名指しで除外していたのは茅ヶ崎市と名寄市でした。他の自治体は小・中学校を一括で規定しており、中3を除外する明文は見つけられませんでした。ただし記載がないことは受け入れの保証ではありません。時期が受験期と重なるため、教育委員会または学校へ直接ご確認ください。
体験入学中に部活動に参加できますか?
公式大会への出場は制度上できません。日常の練習は学校との相談次第です。日本中学校体育連盟の大会開催基準は参加資格を「都道府県中学校体育連盟加盟の中学校に在籍し」と定めており、学籍を伴わない体験入学生は該当しません。特例規定も各種学校の生徒と地域クラブ活動所属生徒の2類型のみです。ただし「体験入学生の出場を禁ずる」という明文があるわけではなく、条文からの整理です。練習参加については茅ヶ崎市が「行事、校外活動等は学校との相談のうえ認められた場合に参加できます」としています。
体験入学の成績は高校入試の内申に影響しますか?
影響しません。そもそも成績がつきません。吹田市は「体験入学期間中の成績の評価はしません。通知表や卒業証書のお渡しはありません」と明記。学校教育法施行規則第24条第1項は指導要録の作成対象を「その学校に在学する児童等」としており、学籍のない体験入学は該当しません。加えて帰国生入試の側も内申を求めておらず、大阪府は「調査書の作成を要しない」、神奈川県は調査書がなければ「資料の整わない者」として扱い「有利不利はありません」、東京都は現地校出身者に成績証明書を求めています。
中学校でも給食は出ますか?
出るとは限りません。文部科学省の調査(令和5年5月1日現在)で完全給食の実施率は小学校98.8%に対し中学校89.8%。茅ヶ崎市は「中学校は給食かお弁当持参の選択制」、名古屋市は選択制スクールランチ(3日前予約制)です。費用も、仙台市は小学校の給食費が無償である一方で中学校は保護者負担です。神戸市は2026年1月、横浜市は2026年4月に全員給食へ移行したばかりで、年によって状況が変わります。
海外の学校と日本で学年がずれています。どの学年に入りますか?
4月1日時点の年齢に応じた「年齢相当の学年」です。学校教育法第17条と同施行規則第59条(第79条で中学校に準用)により、日本の学年は4月1日に始まり、就学義務も年齢で区切られます。京都市は「外国における学年にかかわらず、聴講に当たっての受入学年は年齢相当の学年とする」、福岡市も「年齢相当での受け入れ」と明記しています。現地校で学年が前後していても、日本では年齢どおりに入ることになります。

