夏や年末に日本へ帰るとき、「せっかくだから日本の学校を数週間だけ体験させたい」と考えるご家庭は多いと思います。ところが実際に調べはじめると、一時帰国 小学校 受け入れという言葉で自分の滞在先の市のサイトを検索しても、それらしいページが出てこないことがあります。制度そのものが無いように見えるのです。
結論から言うと、無いわけではありません。ただし「体験入学」という名前で呼んでいない自治体がとても多いのです。今回、政令市・特別区を中心に自治体の公式サイトと要綱・様式を実際に開いて確かめたところ、呼び名だけで5通り以上に分かれていました。期間の上限も、住民票の扱いも、学校でケガをしたときの保険も、市をまたぐだけで別のルールになります。

まず、「体験入学」は国の制度ではありません
ここが出発点です。文部科学省は、海外から一時帰国する家庭向けのFAQ(2020年5月1日付)で、はっきりこう書いています。
いわゆる「体験入学」は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです。「体験入学」を実施していない教育委員会もあれば、実施していても期間や条件が違う場合もあります。
法令の側から見ても同じ構造になっています。学校教育法施行令第1条は、市町村教育委員会が学齢簿を編製するのは「当該市町村の区域内に住所を有する」子どもについてであり、その編製は「当該市町村の住民基本台帳に基づいて行なうものとする」と定めています。海外に住所がある=住民基本台帳に載っていない=学齢簿がない=就学すべき学校の指定も発生しない。だから一時帰国中の通学は、正規の就学の枠の外側で、各教育委員会と校長の裁量として運用されているわけです。
「区域外就学」(施行令第9条)の枠組みに乗るのでは、と思われるかもしれません。しかし第9条は「その住所の存する市町村」があることを前提に、別の市町村の学校へ通う場合を定めた条文です。日本国内に住所がない子どもには、そもそも適用の前提が欠けています。文部科学省の区域外就学の解説ページが挙げている活用例も、地方への一時的な移住や二地域居住であり、一時帰国の体験入学への言及はありません。
呼び名が、自治体ごとにこれだけ違う
国の制度でない以上、名前も統一されていません。今回確認できたものを並べると、次のようになります。

京都市は「聴講生」です。ページの表題自体が「聴講生(海外から一時帰国した児童・生徒の取扱い)」で、「正式な就学ではなく『聴講生』としての取扱いとなります」と説明しています。横浜市は帰国児童生徒教育ガイドのなかで「一時受入れ」と呼びます。仙台市・川崎市・福岡市は「仮入学」、三鷹市は「編入学(学校体験)」です。
さらに踏み込んで、体験入学という枠組み自体を置かない自治体もあります。札幌市は「札幌市では体験入学という制度は設けておりませんので、短期間であっても正式にご入学していただきます」と明記。東京23区では品川区・文京区・台東区・杉並区・荒川区・練馬区などが同様で、台東区は「体験入学という制度はありません」と書いています。港区の説明はさらに踏み込んでいて、「東京都の体験入学を認めていないという方針に基づき、港区では正式な編入学として取り扱っています」としたうえで、条件を「3週間以上の継続した就学ができること」としています。短く体験するどころか、長さの下限が課されるわけです。
実際に調べた自治体の条件一覧
公式サイト・要綱・申請様式にあたって確認できた範囲をまとめます。「記載なし」は制度が無いという意味ではなく、公開情報からは読み取れなかったという意味です。最終確認は必ず滞在先の教育委員会か学校へ。
| 自治体 | 呼び名 | 期間の上限 | 申込先 | 費用・保険で明記されていること |
|---|---|---|---|---|
| 京都市 | 聴講生 | 原則2か月 | 校区の学校(校長が教育委員会と協議して許可) | 教科書無償給与の対象外/就学援助の対象外/災害共済への加入は可能(例外あり) |
| 神戸市 | 体験入学 | 記載なし | 校区の学校(「体験入学願」+校長面談) | 給食費・教科書・教材費は自己負担/災害共済費用も自己負担・年額一括で日割精算不可 |
| 横浜市 | 一時受入れ | 学校長が決定(上限の定めなし) | 最寄りの学校(校長判断) | 受入れ期間中の諸費用は保護者負担/保険の記載は確認できず |
| 仙台市 | 仮入学 | 2か月が限度 | 教育委員会学事課(2開庁日前まで) | 教科書代は全額自己負担/小学校の給食費は無償・中学校は保護者負担 |
| 川崎市 | 仮入学 | 概ね2か月 | 通学区域の学校へ直接(校長判断) | 給食費ページに「児童生徒(体験入学を含む)」と明記=給食の対象 |
| 福岡市 | 仮入学 | 2週間程度 | 通学区域の学校へ直接 | 教科書無償給与・給食費無償化・就学援助のいずれも対象外 |
| 吹田市 | 体験入学 | 概ね1か月 | 市学務課へ電子申請(3週間前まで) | 給食費・教材費は全額保護者負担/教科書も保護者購入・返金不可/災害共済に任意加入できる(年額460円) |
| 茅ヶ崎市 | 体験入学 | 原則2週間・同年度1回 | 市教育委員会学務課(1か月前まで) | 給食費等は自己負担/災害共済に加入できないため医療費等は自己負担 |
| 三鷹市 | 編入学(学校体験) | 記載なし(21日間以上が条件) | 登録フォーム→市教委学務課 | 教材費等は自己負担/保険の記載は確認できず |
| 芦屋市 | 体験入学 | 記載なし | 希望する学校長へ直接 | 費用・保険の記載は確認できず/その学校に過去1年以上在籍した人に限定 |
| 世田谷区 | 体験入学ではなく正式な編入学 | 記載なし | 区教委学務課(帰国後に受付) | 給食費は登校期間分を請求/食材発注のため早めの申出を要請 |
| 港区 | 正式な編入学のみ | 3週間以上(下限) | 学務課 | 記載を確認できず |
| 札幌市 | 制度なし(正式入学のみ) | ― | 教育委員会就学相談コーナー | ― |
| 名古屋市・大阪市 | 公式サイトを実査しましたが、一時帰国中の短期就学に関する記載を見つけられませんでした。転入学は住民登録が前提と説明されています。教育委員会または校区の学校への個別問い合わせが必要です。 | |||
住民票をどうするかで、道が二つに分かれる
いちばん間違えやすいのがここです。住民登録をすると、多くの自治体では「体験入学」ではなく「正式な編入学」に切り替わります。
神戸市の「体験入学願」は、この分岐を様式のうえで露骨に示しています。保護者は次の3つからチェックを求められます。「児童・生徒は、日本に住民票を置きません」「住民票を置きます。外国籍のみです」「住民票を置きます。二重国籍のため、区役所で就学免除の手続きをします」。そのうえで「※上記に該当しない場合、体験入学はできません。正規就学になります。」と書かれています。日本国籍で住民票を置いた瞬間に、体験入学の道は閉じるということです。茅ヶ崎市も、帰国時に転入届を出した場合は体験入学の対象外としています。

正式な編入学を選ぶと、教科書は無償で配られ、成績も記録されます。文部科学省のFAQも「体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っていませんが、編入学を対象とした無償配布は行っています」と、この非対称をはっきり書いています。一方で住民登録や転出入の手続きが必要になり、数週間の滞在には重くなります。港区や三鷹市のように期間の下限(3週間以上・21日間以上)を課す自治体があるのは、この「正式な就学」の側に寄せているからです。
お金の話:教科書は無償になりません
日本の義務教育=教科書は無償、というイメージがあると思います。体験入学ではそこが逆になります。京都市は「教科書無償給与の対象ではない」「就学援助制度の対象ではない」と明記。吹田市は「給食費、学習に使用するプリント等の教材費など、全額保護者負担」としたうえで、教科書も保護者購入・返金対象外としています。福岡市は教科書無償給与・給食費無償化・就学援助のいずれも対象外です。
給食費の実費は、確認できた範囲で1食あたり270〜450円程度でした。ただし給食費の無償化が進んでいる自治体でも、体験入学は対象外とされているのが原則です(町田市のように一時帰国児にも無償とする例外もあります)。仙台市のように「小学校の給食費は無償」=中学校は保護者負担、という学校種による差もあります。
見落とされがちな、ケガをしたときの備え
これが今回いちばん驚いた点です。学校でケガをしたときに医療費が給付される日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付について、自治体の案内が正反対に割れています。

JSC自身は、よくある質問のなかで「一時帰国した生徒が2か月ほど本校へ通学することになりましたが、災害共済給付制度に加入することはできますか?」という問いに対し、「原則、当該校に在籍をする場合は加入対象になりますが、一般の生徒と同様の授業を受ける場合についても加入できます」と答えています。ところが茅ヶ崎市は「日本スポーツ振興センター災害保険に加入できないため、事故等による医療費等は、自己負担です」、豊中市も「原則、加入はできません」と案内しています。逆に吹田市は年額460円で任意加入でき、市川市・我孫子市・さくら市なども加入を案内しています。
しかも災害共済給付は、給付が医療費・障害見舞金・死亡見舞金の3種類だけで、他人にケガをさせた・物を壊したといった賠償責任はカバーしません。医療費の給付も「療養に要する費用の額が5,000円以上」からです。つまり加入できる自治体でも、それだけでは足りません。海外旅行保険の治療費用特約と個人賠償責任保険を確認しておくのが現実的です。茅ヶ崎市自身も「旅行保険や個人賠償責任保険等に加入しておくことをお勧めします」と書いています。
断られる条件は、ちゃんと書いてあります
「頼めば受け入れてもらえるのか」が気になると思いますが、多くの自治体は受け入れられない場合を明文で公開しています。事前に読んでおけば、無理な申し込みを避けられます。
- 時期:茅ヶ崎市は「4月から5月、2月から3月は学校での受け入れができません」。年度末・年度始めを避ける自治体は他にもあります。
- 行事・テスト:茅ヶ崎市は「テスト期間中や運動会・体育祭を含む校外活動等の行事がある場合」、さいたま市は「定期テスト等との兼ね合い等により受け入れができない場合があります」。
- 学校の体制:芦屋市は「学校改修等による工事や学校行事、学級数や職員の受け入れ体制等により、受け入れができない場合があります」。吹田市は「学校の運営上、支障があると認められる場合」に加え、「受入開始後であっても中止する場合があります」としています。
- 人数:茅ヶ崎市は「希望者が一定数を超える場合はお断りすることがあります」。
- 滞在先:品川区は「友人宅やホテル(民泊を含む。)に滞在する場合は就学を認めない」。三鷹市もホテル・ウィークリーマンション滞在を受入不可としています。京都市・神戸市は滞在先が通学区域内にあることを条件にしています。
- その学校との関係:芦屋市は「通学を希望する公立小・中学校に過去1年以上在籍したことのある方」に限定しています。以前その学校に通っていた子が戻ってくる形しか受けていません。
- 長期休業だけの通学:三鷹市は「夏休み等の長期休業期間は含みません」として在籍21日以上を求め、「長期休業期間のみの就学希望」を受入不可条件に挙げています。世田谷区も「宿泊行事や長期休業中に実施される事業の参加のみを目的とした就学はできません」。一時帰国=夏休み、という前提が崩れる自治体があります。
参加できない活動が明記されている例もあります。京都市の遵守事項は「入学式、卒業式、宿泊を伴う活動、夏季休業期間中のプール活動には、原則として参加できない」としています。夏の帰国でプールを楽しみにしていると、ここで食い違います。
申し込みは、いつ・どこへ
申込先は大きく二つに分かれます。学校長へ直接(横浜市・神戸市・京都市・川崎市・福岡市・芦屋市)か、教育委員会へ(世田谷区・茅ヶ崎市・吹田市・三鷹市)か。まず市のサイトでどちらかを確かめてください。
締切は2開庁日前から2か月前まで、20倍以上の開きがあります。市川市・和光市は2か月前、茅ヶ崎市・芦屋市・我孫子市・富士吉田市などは1か月前、吹田市は3週間前、世田谷区・品川区は約2週間前、仙台市は2開庁日前です。理由が公式に書かれている例は少ないのですが、世田谷区は「事前に食材の発注が必要なため」と説明しています。給食の食数は想像よりずっと早く確定していて、北九州市は「1日当たり約70,000食の給食を調理しているため、使用する食材の量も多く、原則として給食を実施する日の20日前に食数を確定しています」と公表しています。
食物アレルギーがある場合は、さらに早い相談が要ります。今回調べた範囲では、アレルギー対応が必要な場合は給食を利用できず弁当持参とする自治体がほとんどでした。町田市は対応の判断に「1か月以上の時間を要する場合があります」としています。

数週間では埋まらないものが、ひとつだけ残ります
体験入学には、はっきりした価値があります。日本の学校の空気を知る、同世代と日本語だけで過ごす、給食と掃除を経験する。帰国後の生活を具体的に想像できるようになります。実際に受け入れる側も、そこに意味を見ています。川崎市のある市立小学校は受け入れの案内文で、体験入学を「在校生にとっても『生きた国際理解教育』の貴重な機会」と位置づけ、滞在国の様子を紹介する「ミニ発表」の場を設けたいとまで書いています。
一方で、期間が2週間から2か月では届かないものもあります。学年相当の国語です。日本の小学校で学ぶ漢字は6年間で1,026字あり、教科書の文章は学年が上がるほど抽象的になります。海外で暮らしていると、会話は保てても読み書きだけが止まりやすく、9歳前後からその差が開きはじめます。数週間の体験入学は、その差を「見える化」してくれますが、埋めるのは別の時間が要ります。
補習授業校が近くにあるなら、それがいちばん確実な選択肢です。世界に246校あり、約2万1千人が通っています(校数は外務省の指定一覧・2026年8月時点、在籍は文部科学省・令和6年)。土曜がまるごと使えること、送迎ができることが前提になりますが、通えるなら通う価値があります。私たちともだちじゃぱんは、それが難しいご家庭や、補習校と併用したいご家庭のための受け皿です。日本の現役水準の教員が、8人の少人数クラスで学年相当の国語を教えます。そして何より、日本に住む同世代の友達が毎日そこにいます。一時帰国のときに会いたい人がいる、という状態を先につくっておく。次の帰国が、学校見学ではなく再会になります。
よくある質問
一時帰国の体験入学は、どこの市でも受け入れてもらえますか?
いいえ。市によって扱いが大きく違います。文部科学省は「いわゆる『体験入学』は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです」と明記しています。京都市・神戸市・吹田市・茅ヶ崎市・芦屋市・横浜市・仙台市・川崎市・福岡市・三鷹市は受け入れの明文がありますが、札幌市は「体験入学という制度は設けておりません」、台東区は「体験入学という制度はありません」として正式な編入学のみとしています。名古屋市・大阪市は公式サイトに記載を見つけられませんでした。
自分の市のサイトに「体験入学」のページが見当たりません
別の名前で呼ばれている可能性が高いです。京都市は「聴講生」、横浜市は「一時受入れ」、仙台市・川崎市・福岡市は「仮入学」、三鷹市は「編入学(学校体験)」という名称を使っています。「一時帰国」「短期」「就学」といった語で検索し直すか、教育委員会の学務課に直接電話するのが確実です。
住民票は移したほうがいいですか?
移すと「体験入学」ではなく正式な編入学になるのが一般的です。神戸市の申請様式は「日本に住民票を置きません」「外国籍のみです」「二重国籍のため就学免除の手続きをします」の3択で、「上記に該当しない場合、体験入学はできません。正規就学になります」と明記しています。数週間だけなら住民登録をしない前提で相談し、数か月以上なら編入学を検討する、という分け方になります。
教科書や給食費はどうなりますか?
教科書は無償になりません。給食費も実費が原則です。文部科学省FAQは「体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っていません」としています。京都市は「教科書無償給与の対象ではない」「就学援助制度の対象ではない」、吹田市は「給食費、教材費など全額保護者負担」で教科書も返金対象外、福岡市は給食費無償化の対象外です。給食費の実費は1食270〜450円程度の例が確認できました。
学校でケガをしたら、保険はききますか?
自治体によって正反対なので、必ず確認してください。日本スポーツ振興センターは公式FAQで「一般の生徒と同様の授業を受ける場合についても加入できます」としていますが、茅ヶ崎市は「加入できないため、事故等による医療費等は、自己負担」、豊中市も「原則、加入はできません」と案内しています。吹田市は年額460円で任意加入できます。なお災害共済給付は医療費・障害見舞金・死亡見舞金のみで賠償責任はカバーせず、医療費も総額5,000円以上からです。海外旅行保険と個人賠償責任保険を別途ご確認ください。
夏休みに合わせて帰国すれば通えますか?
夏休みを在籍日数に数えない自治体があります。三鷹市は「在籍期間が21日間以上であること(夏休み等の長期休業期間は含みません)」とし、「長期休業期間のみの就学希望」を受入不可条件に挙げています。世田谷区も「宿泊行事や長期休業中に実施される事業の参加のみを目的とした就学はできません」。また京都市は「夏季休業期間中のプール活動」への参加を原則不可としています。夏の帰国を前提にするなら、この点を最初に確認してください。
どのくらい前に申し込めばいいですか?
2か月前を目安に動くと、ほとんどの自治体に間に合います。締切は市川市・和光市が2か月前、茅ヶ崎市・芦屋市・我孫子市などが1か月前、吹田市が3週間前、世田谷区・品川区が約2週間前、仙台市は2開庁日前と幅があります。世田谷区は「事前に食材の発注が必要なため」と理由を明記しており、北九州市は給食の食数を実施日の20日前に確定しています。食物アレルギーがある場合は、町田市の例で「1か月以上の時間を要する場合があります」とされているため、さらに早めの相談が必要です。

