小学生・中学生のあいだは、一時帰国のたびに地元の学校へ数週間通わせることができました。高校生になって同じことをしようとすると、急に情報が出てこなくなります。一時帰国 体験入学 高校で検索しても、出てくるのは個人ブログと知恵袋ばかりで、自治体の案内が見当たらない。
今回、法令の条文と都道府県教育委員会の要項を実際に確かめました。結論を先に書きます。高校に「体験入学」という制度は、国にも都道府県にもありません。情報が出てこないのは探し方の問題ではなく、制度そのものが存在しないからです。ただし、高校生が一時帰国でできることが無いわけではありません。制度の形が違うだけです。

高校に「体験入学」が無い、二つの理由
理由① 国のFAQが、高校生には編入学しか示していない
文部科学省の一時帰国者向けFAQ(2020年5月1日付)は、「いわゆる『体験入学』は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです」と書いています。
注目したいのは、このFAQの構成です。「体験入学&編入学について」の項目には9問あり、そのすべてが義務教育段階の話です。そして「高校生」という項目は質問が1問しかなく、しかもその1問は体験入学ですらありません。「海外のインターナショナルスクールに通っていて、一時帰国しています。高校生の場合、編入学の受け入れはどうなっていますか」という問いで、回答は「学校によって取り扱いが異なりますので、まずは学校(公立学校の場合は教育委員会)にお問い合わせください」。
国が高校生に示している道は、編入学だけです。
理由② 体験入学の要綱は、そもそも学齢を対象にしている
体験入学を実施している自治体の要綱を読むと、対象の定義に答えがあります。北海道名寄市の要項は第1条で「学校教育法における学齢児童生徒……の年齢に該当する海外在住の児童生徒が」と定め、第4条で対象校を「小・中・義務教育学校」としています。就学義務のある年齢=満15歳に達した日の属する学年の終わりまでが対象なので、高校生は年齢の段階で入っていません。
同じ要項は、中学3年生ですら原則対象外としています。理由は「高等学校入学者選抜などの進路の選択・決定を控えた時期であるため」。高校に近づくほど、体験入学の枠は閉じていく構造になっています。
法令は「片道通行」になっています
学校教育法施行規則を高校の条文から順に読むと、構造がはっきり見えます。

第90条は入学を「入学者の選抜に基づいて、校長が許可する」と定め、第91条は学年の途中や第二学年以上への入学(=編入学)を「相当年齢に達し、当該学年に在学する者と同等以上の学力があると認められた者」に限っています。第92条が転学、第97条は併修の相手を「他の高等学校又は中等教育学校の後期課程」=国内の高校に限定しています。
そして第93条。「校長は……生徒が外国の高等学校に留学することを許可することができる」とし、36単位まで認定できると定めています。日本の高校生が外国の高校へ行く道は用意されているのに、その逆、つまり海外の学校に在籍している生徒を日本の高校が短期で受け入れる規定は、どこにもありません。学校教育法第58条の専攻科・別科も修業年限1年以上で、数週間の受け皿にはなりません。
「聴講生」制度は高校にもある。ただし資格で二重に弾かれる
高校にも聴講生・科目履修生の制度は存在します。根拠は単位制高等学校教育規程第10条で、「単位制による課程を置く高等学校においては、当該単位制による課程の聴講生として特定の科目を履修する者……に対し、多様な教育の機会の確保について配慮するよう努める」と定めています。ただし対象は単位制課程のみです。
問題は応募資格です。県立神奈川総合高等学校の聴講生募集は、対象を「県内に居住または勤務する方で、中学校卒業相当年齢以上で、かつ高等学校に在籍していない方」としています。海外在住という時点で1つ目に引っかかり、海外の高校に在籍しているという時点で2つ目にも引っかかる。二重に排除される設計です。神奈川県は加えて「単位認定は行いません」とも明記しています。
今回調べた範囲で唯一の例外らしきものが和歌山県でした。「県立高等学校における聴講生の受入れに関する取扱要領」は応募資格を「県内に在住又は勤務する者……ただし、校長が特に認めた者は、この限りでない。」としています。制度としての道ではありませんが、校長判断の余地が残されている書き方です。
なお、これらの聴講生制度はいずれも社会人・生涯学習を趣旨としたもので、海外在住の高校生を想定して作られたものではありません。
実例は「1日だけ」でした
実際に高校で体験入学ができた例が無いわけではありません。ある海外在住の方のブログ記録では、教育委員会の回答が「直接、希望の高校へ連絡し、学校長の許可があればOK」というもので、高校側は「個人での体験入学受け入れ前例がない」と応じ、最終的に1日だけの体験入学が実現しています。
つまり、制度ではなく校長の個別裁量で、しかも1日。実査した8都府県(東京・神奈川・大阪・愛知・福岡・兵庫・和歌山・群馬)では、都道府県教育委員会が海外在住高校生の短期通学・聴講を制度として公表している例は1件も確認できませんでした。「無いことの証明」はできないので、正確には「実査した範囲では確認できなかった」となります。
高校生の正規のルートは、編入学・転入学です
では何ができるのか。日本の高校に戻るなら、道は編入学・転入学です。都府県ごとに条件がかなり違うので、主要な6都府県を並べます。
| 都府県 | 時期 | 在外要件 | 検査 | 欠員の条件 |
|---|---|---|---|---|
| 東京都 | 第二学期=願書7月上旬・検査7月上旬・発表7月中旬 | 連続2年以上在住+帰国後1年以内 | 学力検査(国・数・英)+面接(三田/竹早/日野台)。国際高校は作文及び面接 | 欠員が生じていない学年は募集しない |
| 神奈川県 | 年度途中随時+4月1日付 | 保護者の転勤等で帰国 | 転編入学情報センター経由なら学力検査なし(資料+面接)。自力なら国数英+面接+作文 | 「転編入学定員等に空きのある高校」 |
| 大阪府 | 原則学期の初め | 原則1年以上継続在住+帰国後1年以内 | 要領に記載なし | 記載なし |
| 愛知県 | 4月1日〜翌1月上旬 | 1年以上継続在住+帰国後1年以内+県内在住 | 各学校が定める | 記載なし |
| 福岡県 | 3月・4月・8月(9月)・12月 | 学校に要確認 | おおむね国・数・英+面接 | 学年・学科の学級数と同数の転入学別枠 |
| 兵庫県 | 各学年の学期末が原則(学期途中も可) | 県内に居住/居住予定 | 各校で異なる | 記載なし |
神奈川県には海外から電話で相談できる「転編入学情報センター」があり、ここを経由すると学力検査なしで資料と面接による選考になります。海外在住のまま動ける窓口として、実務上は覚えておく価値があります。
在外教育施設に高等部は、ほとんどありません
「日本人学校の高等部に一時的に通う」という発想もあると思いますが、選択肢はかなり限られます。文部科学省は日本人学校について「小学部・中学部が原則。高等部は例外的に、平成23年に中国・上海に開設」と説明しており、認定在外教育施設一覧でも高等部を持つ日本人学校は上海日本人学校浦東校のみです(日本人学校は90校/47か国1地域)。
高等部を持つのは、私立の在外教育施設のほうです。立教英国学院(小・中学部及び高等部)、帝京ロンドン学園(高等部)、スイス公文学園(高等部)、早稲田渋谷シンガポール校(高等部)、慶應義塾ニューヨーク学院(高等部)の5校が確認できました。
夏の一時帰国は「体験入学の月」ではなく「入試と説明会の月」
ここが実務上いちばん重要かもしれません。高校生の夏の一時帰国でできることは、体験入学ではなく入試と情報収集のほうに集中しています。

- 編入学・転入学に出願する。東京都の海外帰国生徒対象の転学・編入学は、願書・検査・発表が7月上旬から中旬に集中しています。夏に帰国するなら、この日程を最初に確認してください。ただし欠員が生じていない学年は募集されません。
- 通信制高校の集中スクーリングに合わせる。NHK学園高等学校は海外在住のまま入学でき、年1回の帰国でスクーリングの出席と年度末試験の受験が可能な設計になっています(東京本校は12月の4日間連続+年度末試験1〜2日、計5〜6日)。「世界各地から生徒が集まる集中スクーリング」と案内されています。
- 帰国生のための学校説明会・相談会に行く。海外子女教育振興財団(JOES)の説明会・相談会は一時帰国者も対象で、高校生段階を含みます。例年7月下旬に東京・大阪・名古屋で開かれています。
- 大学のオープンキャンパスの帰国生向け相談に行く。筑波大学は2026年夏のオープンキャンパスで「海外教育生(インター校生・帰国生)向けグローバル入試個別相談会」を対面のみ・予約不要で実施しています。
- 志望校に個別の学校訪問を申し込む。制度としての体験入学は無くても、個別対応をしている学校はあります。前述の1日体験入学の例も、この形でした。
- 帰国前から国語を埋めておく。これは帰国してからでは間に合いません。後述します。
中学生が高校のオープンスクールに行く場合の落とし穴
「高校 体験入学」で検索すると、中学生向けのオープンスクール・一日体験入学が大量に出てきます。海外在住の中学生が、一時帰国のときにこれに参加できるかというと、時期は好都合なのに申込動線が致命的でした。
多くの高校が、申込を在籍中学校経由にしています。福島県のある県立高校の一日体験入学の案内は「在籍中学校の担当の先生にお申し出ください」「御不明な点等がありましたら、中学校の先生を通してお問い合わせください」とし、申込書の表題自体が「参加申込書(中学校内用)」です。北海道のある道立高校にいたっては、案内の宛名が「中学校長 各位」で、申込書の様式が「学校名 ○○中学校」「引率者氏名」「TEL/FAX」という学校単位のもの。個人での提出が様式レベルで想定されていません。千葉県のある県立高校も「申し込みは、中学校を通じて申し込んでください」としています。
加えて、対象が「中学3年生とその保護者」に限られること、「服装は、各中学校の制服を着用してください」という指定があること(現地校・インター校の生徒は持っていません)、締切が実施の3〜7週間前であること(夏に帰国してから動いたのでは間に合いません)が重なります。
ただし変化はあります。mirai-compassやQRコードによる個人Web申込に移行した高校も出てきていて、学校ごとにバラバラというのが現状です。海外在住中学生の参加可否を明記した要項は見つけられず、参加した実例も確認できませんでした。行きたい高校があるなら、要項を待つのではなく直接問い合わせるのが早いと思います。

高校生にとって、帰国前にやる価値がいちばん高いこと
体験入学ができないぶん、高校生の一時帰国は準備で差がつきます。そして準備の中身は、多くの場合日本語(国語)です。
帰国生入試は、英語や小論文で受けられるものが多くあります。しかし合格した後に待っているのは日本語の授業です。現代文の評論、古文、漢文。日本史の教科書。レポート。入試を突破する力と、入学後に困らない力は別物です。そして海外で高校生活を送っていると、会話の日本語は保てても、読み書きと語彙だけが止まりやすい。中学・高校の6年間は、その差が最も開く時期です。
私たちともだちじゃぱんは、海外で育つ子のためのオンライン日本語スクールです。日本の現役水準の教員が、8人の少人数クラスで学年相当の日本語・国語を教えます。月額定額で通い放題、日本との時差に合わせて3つの時間帯から選べます。
そしてもうひとつ。クラスメイトには日本に住む同世代がいます。高校生の一時帰国は、小中学生と違って「学校に混ぜてもらう」形が取れません。だからこそ、帰る前から日本側に知っている人がいることの意味が大きくなります。次に帰国したとき、行き先が学校見学ではなく、友達に会う予定になります。
よくある質問
高校生でも一時帰国の体験入学はできますか?
制度としては存在しません。文部科学省のFAQは「いわゆる『体験入学』は国の制度としては存在しておらず」としたうえで、高校生の項目には編入学の質問しか置いていません。体験入学を実施している自治体の要綱も、名寄市の例のように対象を「学校教育法における学齢児童生徒の年齢に該当する」子どもと定め、小・中・義務教育学校に限っています。実査した8都府県(東京・神奈川・大阪・愛知・福岡・兵庫・和歌山・群馬)では、都道府県教育委員会が海外在住高校生の短期通学を制度として公表している例は確認できませんでした。校長の個別裁量で1日だけ実現した個人の記録が1件見つかった程度です。
なぜ小中学校にはあるのに、高校には無いのですか?
体験入学が「学齢」を対象にした運用だからです。体験入学は市町村教育委員会と校長の裁量で行われており、要綱の対象は就学義務のある学齢児童生徒です。高校は義務教育ではないため、この枠に入りません。加えて学校教育法施行規則は第93条で「生徒が外国の高等学校に留学すること」を校長が許可でき36単位まで認定できると定めている一方、その逆=海外の学校に在籍する生徒を短期で受け入れる規定を置いていません。制度が片道通行になっています。
高校の「聴講生」制度は使えませんか?
資格要件で二重に弾かれるのが通常です。単位制高等学校教育規程第10条に聴講生(科目履修生)の規定はありますが、対象は単位制課程のみ。県立神奈川総合高等学校の募集要項は「県内に居住または勤務する方で、中学校卒業相当年齢以上で、かつ高等学校に在籍していない方」としており、海外在住かつ海外の高校に在籍している生徒は両方の条件で外れます。神奈川県は「単位認定は行いません」とも明記。和歌山県の取扱要領だけが「ただし、校長が特に認めた者は、この限りでない」という余地を残していました。いずれも社会人・生涯学習を趣旨とした制度です。
日本の高校に戻るには、どうすればいいですか?
編入学・転入学が正規のルートです。東京都は連続2年以上在住+帰国後1年以内が要件で、第二学期の募集は願書・検査・発表が7月上旬から中旬。ただし欠員が生じていない学年は募集しません。神奈川県は年度途中随時+4月1日付で、海外から電話相談できる「転編入学情報センター」経由なら学力検査なしの資料・面接選考になります。大阪府は原則学期の初め、愛知県は4月1日〜翌1月上旬、福岡県は3月・4月・8月(9月)・12月、兵庫県は各学年の学期末が原則です。日程は年度ごとに変わるため最新の公表資料をご確認ください。
海外在住の中学生が、日本の高校のオープンスクールに参加できますか?
申込動線が大きな壁になります。多くの高校が申込を在籍中学校経由としており、申込書の様式が学校単位(「学校名 ○○中学校」「引率者氏名」欄)で、個人での提出を想定していない例があります。案内の宛名が「中学校長 各位」の高校もあります。加えて対象が中学3年生に限られること、「各中学校の制服を着用してください」という服装指定、実施の3〜7週間前という締切が重なります。ただし個人Web申込に移行している高校も増えています。海外在住中学生の参加可否を明記した要項は見つけられませんでした。志望校へ直接お問い合わせください。
日本人学校の高等部に通うことはできますか?
高等部を持つ日本人学校は、ほぼありません。文部科学省は日本人学校について「小学部・中学部が原則。高等部は例外的に、平成23年に中国・上海に開設」と説明しており、認定在外教育施設一覧でも高等部があるのは上海日本人学校浦東校のみです。高等部を持つのは私立の在外教育施設で、立教英国学院・帝京ロンドン学園・スイス公文学園・早稲田渋谷シンガポール校・慶應義塾ニューヨーク学院の5校が確認できました。
高校生の夏の一時帰国は、何に使うのが有効ですか?
入試の日程と説明会が7月に集中しているので、そこから逆算するのが有効です。東京都の海外帰国生徒対象の転学・編入学は7月上旬に願書・検査、7月中旬に発表。海外子女教育振興財団(JOES)の帰国生のための学校説明会は例年7月下旬に東京・大阪・名古屋で開催。筑波大学は夏のオープンキャンパスで海外教育生向けの個別相談会を対面・予約不要で実施しています。加えて通信制高校の集中スクーリング(NHK学園は年1回の帰国で出席と年度末試験が可能)を帰国に合わせる方法もあります。

