辞令が出たあと、多くの家庭が最初に検索するのが「海外赴任 子供」です。ところが調べるほど出てくるのは「行きたくない」「かわいそう」「何歳まで」「影響」といった重い言葉ばかりで、かえって決められなくなります。この記事は連れて行くかどうかをどう決めるかと、決まったことを子どもにどう伝えるかの2つに絞って書きます。転校の手続きそのものは海外への転校の手続きにまとめてあるので、ここでは判断を扱います。先に結論を書くと、「かわいそうかどうか」で考えると決まりません。実際に効く材料は、赴任先に日本語で学べる場所があるか/子どもの学齢が制度のどこに当たるか/帰任の時期の3つです。
まず、「在外教育施設に通っていない子」が半分いる
帯同を迷っているときは、自分の家だけが特殊なのではないかという気持ちが判断を曇らせます。まず全体像を見ておきます。
文部科学統計要覧によると、海外にいる義務教育段階の子ども(在外学齢児童生徒)は平成29年時点で82,571人。この数字は平成29年を最後に公表が途切れており、これより新しい学齢児童生徒数は確認できません。一方で在外教育施設(日本人学校・補習授業校)に在籍していたのは41,217人。つまり当時、およそ半数はどちらにも在籍していませんでした。文部科学省の「在外教育施設未来戦略2030」(令和3年6月)も、「いずれの在外教育施設にも通わない子供が増加してきたと考えられる」と書いています。海外に行けば日本人学校に入る、が当たり前ではない――ここがまず出発点です。
そして毎年、日本へ帰ってくる子どももいます。文部科学省の学校基本調査では、令和6年度間の帰国児童生徒は10,988人(小学校6,398人/中学校2,622人/高等学校1,774人ほか)。年間1万人規模で、子どもたちは海外から日本の学校へ戻っています。行く家庭も、行かない家庭も、戻ってくる家庭も、どれも珍しいことではありません。
判断材料①|赴任先に「日本語で学べる場所」があるか
帯同の判断でいちばん効くのに、いちばん後回しになりがちなのがこれです。赴任先によって、子どもが日本語で学べる環境はまったく違います。
| 赴任先のタイプ | 通える日本語の学び場 | 日本語での学習の位置づけ |
|---|---|---|
| 日本人学校がある都市 (世界90校・47ヶ国1地域) | 全日制の日本人学校。日本の学習指導要領に基づく教育課程で、教科書も日本のもの | 学校生活のすべてが日本語。国語の授業時数も日本と同じ |
| 補習授業校しかない都市 (世界246校・51カ国1地域) | 週末(学校によっては平日夕方)に通う補習授業校。現地校・インターと併用 | 文科省の定義は「土曜日等を利用して国語、算数(数学)等の授業を行う教育施設」=一部の教科のみ |
| どちらもない都市・地方 | 現地校/インターのみ。日本語は家庭とオンラインで確保する | 家庭が用意した分だけ。学校の中に日本語の時間はない |
差の大きさは、授業時数を並べるとはっきりします。日本の小学校で国語に充てられる標準授業時数は、6年間で合計1,461時間(学校教育法施行規則 別表第一。1年生306時間/2年生315時間/3・4年生245時間/5・6年生175時間)。これに対して補習授業校は、国が「一部の教科について日本語で授業を行う教育施設」と定義しているとおり、週末に国語を中心とした一部教科だけを扱う設計です。補習校が手を抜いているのではなく、そもそも学校の代わりとして作られていません。両者の違いは日本人学校と補習校の違いにまとめています。
つまり「赴任先に日本人学校があるか」は、暮らしの便利さの話ではなく、子どもの数年分の国語がどうなるかの話です。ここを見ないまま「かわいそうかどうか」だけで考えると、判断がぶれます。

判断材料②|「何歳まで」の答えは、制度の側にある
「海外赴任 子供 何歳まで」もよく検索される語です。年齢そのものに決まりはありませんが、制度の切れ目ははっきりしています。
国が在外教育施設を支援しているのは、基本的に義務教育段階(小学部・中学部)です。文部科学省はその理由を自ら書いています。「教育の機会均等や義務教育の無償を定めた憲法第26条の精神に沿って、在外教育施設の小学部、中学部に対して支援を行っているところです」とし、「幼稚園段階や高等学校段階に対する支援を行うことは現状では難しいと考えています」としています(文科省Q&A)。教師の派遣も、対象は義務教育諸学校等の教師です。
その結果、高校段階の選択肢は極端に細くなります。文部科学省は「平成23年(2011年)には、中国の上海日本人学校に高等部が開設されました」と記していますが、私たちが各校の公式サイトと外務省の学校情報を突き合わせた範囲では、全日制の日本人学校で高等部を置いているのは上海日本人学校だけでした。ほかに高校段階では私立在外教育施設(立教英国学院・帝京ロンドン学園・スイス公文学園・早稲田渋谷シンガポール校・慶應義塾ニューヨーク学院)がありますが、いずれも限られた国にしかありません。詳しくは日本人学校に高校はあるのかにまとめました。
学齢別に整理すると、判断の形はこうなります。
- 未就学=国の支援の対象外の段階(幼稚園段階)。制度の後ろ盾はいちばん薄い一方、現地への適応はいちばん早い時期でもある
- 小学生=日本人学校・補習授業校のどちらも対象。選択肢がいちばん多い
- 中学生=赴任先の日本人学校に中学部があるかで大きく変わる。中学部卒業者は日本の高校の入学資格を持ちます(学校教育法施行規則第95条第2号)
- 高校生=ここで受け皿が急に少なくなる。現地校・インター・私立在外教育施設・日本に残る、のいずれかを選ぶことになる
「何歳まで連れて行けるか」ではなく、「その学齢のとき、赴任先に受け皿があるか」で考えるほうが、実際の判断に近づきます。
判断材料③|帰任の時期から逆算する
3つ目が帰任時期です。何年で戻るのかによって、必要な備えが変わります。
日本に戻ったときの学年は、原則として年齢相当の学年です。文部科学省は、日本語の能力によって一時的に下の学年へ編入することも可能としていますが、その場合も指導要録上は学齢相当の学年に編入したものとしておく必要があるとしています。「日本語が遅れているから1学年下げる」がそのまま公式の学年になるわけではないということです。
もうひとつ、見落とされやすい点があります。話せることと、その言葉で勉強できることは別だという点です。文部科学省の『外国人児童生徒受入れの手引』は、「『生活言語能力』については、ある程度は、普段の生活の中で自然に身に付きますが、教師による支援も必要です。一方、『学習言語能力』については、生活の中で身に付くことはあまり期待できません」と書いています。これは日本語を学ぶ外国人児童生徒についての記述ですが、海外で日本語が家庭の中だけの言葉になっていく子にも、同じ構造が起こりえます。家で日本語を話しているから大丈夫、とは言い切れません。
帰国後に最初につまずく科目として国語が挙がるのは、検索の世界にもはっきり出ています。帰国子女の国語で扱っているとおり、「話せるから大丈夫」で見送られやすいのがこの部分です。
「かわいそう」を判断材料にしないほうがいい理由
ここは正直に書きます。「海外赴任は子どもがかわいそうか」に答えられる公的なデータは存在しません。
文部科学省が毎年公表している不登校の調査(児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査)は、国内の小学校・中学校・高等学校等を対象としたもので、海外の在外教育施設は含まれていません。海外に住む日本人の子どもの不登校や登校しぶりの割合を示した国の統計は、確認できませんでした。したがって「海外赴任した子の◯%が不適応になる」といった数字には、根拠がありません。体験談は貴重ですが、それは一つひとつの家庭の話であって、確率の話ではありません。
代わりに知っておくと役に立つのが、異文化適応の段階という考え方です。Uカーブと呼ばれるもので、渡航直後の高揚した時期のあとに落ち込む時期が来て、そこから少しずつ適応していくという順番を示したものです(社会学者リスガードが1955年に提示したモデルで、国の資料ではありません)。この順番を知っているだけで、渡航して数か月後に子どもが荒れたり黙り込んだりしても、そこで「失敗した」と結論を出さずに済みます。

気持ちとは別に、出国で自動的に決まってしまうこと
帯同を決めると、家族の意思とは関係なく制度の側で決まる部分があります。ここは早めに知っておくほうが安全です。
- 住民票=1年以上の予定で国外へ転出すると転出届により住民票が消除され、文部科学省の説明では「それに伴い学齢簿も消除される」。逆に1年未満の滞在なら「学齢簿上においても引き続き当該児童生徒の在学関係を変更する必要はない」とされています。1年以上か未満かで扱いが変わります
- 児童手当=こども家庭庁は「原則として、児童が海外に住んでいる場合は、その児童の分の児童手当は支給されません」としています。例外は留学の場合のみで、「教育を受けることを目的として海外に居住し、父母……と同居していないこと」などの要件があります。家族で帯同する場合は同居しているので、この例外には当たりません(児童手当法第3条第1項も「児童」を日本国内に住所を有する者等と定義しています)
- 予防接種=厚生労働省検疫所(FORTH)は「必要な予防接種は、渡航先、渡航期間、渡航形態、渡航目的、渡航者自身の年齢、健康状態、予防接種歴などによって異なります」とし、「出発3か月以上前から」トラベルクリニック等で相談するよう案内しています。何を打つかは渡航先と時期で変わるので、必ず医療機関で確認してください
学校の書類(在学証明書・教科用図書給与証明書など)の受け取りや教科書の手配は、出国前に動かないと間に合わないものがあります。順番は海外への転校の手続きにまとめました。
子どもへの伝え方|「決まったこと」と「一緒に決めること」を分ける
「子どもにいつ、どう伝えるか」に公的な正解はないので、ここは実務的に効く整理のしかたを書きます。
伝え方でいちばん揉めるのは、すでに決まっていることを相談の形で持ちかけてしまうときです。「海外に行くのはどう思う?」と聞かれた子どもは、自分に決定権があると受け取ります。それで結局行くことになると、意見を聞かれたのに通らなかったという記憶だけが残ります。
- 決まったこととして伝える=行くかどうか、いつ行くか、どのくらいの期間か(会社の辞令で決まっている部分)
- 一緒に決める=現地でどの学校に通うか、何を持っていくか、習い事をどうするか、日本の友達とどうつながり続けるか
この2つを混ぜないだけで、話し合いはかなり穏やかになります。そして「一緒に決める」側に、子どもが本当に選べる項目を残しておくことが大切です。子どもが不安なのは、多くの場合行き先そのものではなく、自分の生活が自分の知らないところで全部決まっていく感覚のほうだからです。
「行きたくない」と言われたときも同じです。理由をよく聞くと、たいてい「いまの友達と離れたくない」に行き着きます。ここは「新しい友達ができるよ」では収まりません。いまの友達との関係が続く見通しと、向こうでも日本語で話せる相手がいる見通し――この2つを具体的に示せるかどうかが、実際には大きく効きます。
連れて行くと決めたあとに残る、ひとつの空白
手続きは調べれば出てきます。学校も、赴任先にある選択肢の中から選ぶことになります。それでも最後にひとつ、埋まらないまま残りやすいものがあります。日本語で、日本の同世代と話す時間です。
日本人学校がある都市なら、この空白は基本的に起きません。学校の中に日本語も同級生もあります。問題は補習授業校しかない都市と、どちらもない都市です。前者は週末の一部教科だけ、後者はゼロから家庭で組み立てることになります。冒頭で見たとおり、在外教育施設のどちらにも在籍していない子どもが、およそ半数いました。
ともだちじゃぱんは、この空白のためのオンライン日本語スクールです。日本の現役水準の教員が8人の少人数クラスを担任し、学年相当の国語を、日本の同世代と一緒に読んで・書いて・話します。授業はメタバース上なので送迎はゼロ。3つの時間帯+時差調整があるので、どの国からでも生活時間に組み込めます。費用は月額定額(通い放題)です。日本人学校に通えるご家庭には必要ないかもしれません。補習校が遠い・合わない・そもそも無い――そういうご家庭のための選択肢として作っています。渡航前の不安のうち「向こうでも日本語で話せる相手がいるか」は、先に用意しておける部分です。
よくある質問(海外赴任と子ども)
海外赴任に子供を連れて行くのは何歳までできますか?
年齢の決まりはありませんが、制度の切れ目は高校段階です。国が在外教育施設を支援しているのは主に義務教育段階(小学部・中学部)で、文部科学省は「幼稚園段階や高等学校段階に対する支援を行うことは現状では難しいと考えています」としています。実際、各校公式サイトと外務省の学校情報を突き合わせた範囲で、全日制の日本人学校に高等部があるのは上海日本人学校だけでした。小学生・中学生は選択肢が多く、高校生で急に細くなるのが実態です。
海外赴任に子供を連れて行くのは「かわいそう」でしょうか?
これに答えられる公的なデータはありません。文部科学省の不登校等の調査は国内の学校が対象で、海外在住の日本人の子どもの不適応の割合を示した国の統計は確認できませんでした。「◯%の子が不適応になる」といった数字には根拠がありません。判断材料にするなら、感情ではなく赴任先に日本語で学べる場所があるか/子どもの学齢/帰任の時期の3つで考えるほうが決めやすくなります。
子供が「行きたくない」と言っています。どうすればいいですか?
理由を具体的に聞くと、多くは「いまの友達と離れたくない」に行き着きます。「新しい友達ができるよ」では解決しないので、いまの友達と続く方法と現地でも日本語で話せる相手ができる見通しを具体的に用意するほうが効きます。伝え方は、辞令で決まっている部分(行くかどうか・時期)と、一緒に決められる部分(学校・持ち物・習い事・日本の友達とのつながり方)を分けると進めやすくなります。
海外赴任中も児童手当(子供手当)はもらえますか?
原則としてもらえません。こども家庭庁は「原則として、児童が海外に住んでいる場合は、その児童の分の児童手当は支給されません」としています。例外は留学の場合で、日本国内に住所を有しなくなった前日までに継続して3年を超えて国内に住所を有していたこと/教育を受けることを目的として海外に居住し父母等と同居していないこと/住所を有しなくなった日から3年以内であることという要件があります。家族で帯同する場合は父母と同居しているため、この例外には当たりません。個別の扱いはお住まいの市区町村にご確認ください。
渡航してしばらくして子どもが不安定になりました。失敗でしょうか?
渡航直後より数か月後のほうが揺れるのは、異文化適応でよく指摘される順番です。Uカーブ(渡航直後の高揚→落ち込み→適応)という考え方があり、落ち込みはその途中にあることが少なくありません。ただし登校しぶりや不登校が続く場合は、順番の問題ではなく個別の対応が必要です。海外での不登校については海外で子どもが不登校ににまとめています。
帰国したとき、子どもは何年生になりますか?
原則として年齢相当の学年です。文部科学省は、日本語の能力によって一時的に下の学年に編入することも可能としていますが、その場合も指導要録上は学齢相当の学年に編入したものとしておく必要があるとしています。手続きは海外への転校の手続き、帰国後の学習面は駐在中の国語、帰国後に間に合う?にまとめています。
赴任先に日本人学校がない場合、日本語の勉強はどうすればいいですか?
選択肢は補習授業校・通信教育・オンラインの塾やスクール・家庭学習です。補習授業校は世界に246校ありますが、都市によっては存在しないか、通える距離にありません。オンラインの選び方は海外からのオンライン塾の選び方、補習校の代わりを探す場合は補習校に通えない・続かない子へにまとめています。

