「駐在 子供 英語」で検索する保護者の方が続けて打つ言葉は、たいてい決まっています。英語 嫌い/英語 話せない/英語 伸びない。現地校やインターに入れて半年、一年と過ぎるのに手ごたえがなく、「いつになったら伸びるのか」を知りたい――という状態です。ところが、ここで多くの記事が根拠にしている「英語の習得には5〜7年かかる」という数字は、文部科学省の資料を探しても見つかりません。国が実際に書いていることは、それとは少し違います。この記事では、文科省の一次資料だけを並べて、年数で焦るのをやめるための材料と、いま実際に見ておくべきものを整理します。
まず、「何年で伸びる」の出どころを確かめる
文科省の資料で言語の習得年数に触れているのは、主に「外国人児童生徒のためのJSL対話型アセスメント(DLA)」(平成26年1月)です。ここには「Conversational Fluency=CF(会話の流暢度):日常的な学校生活に必要な会話力で獲得に普通 1~2 年必要とされるもの」「Academic Language Proficiency=ALP(教科学習言語能力):学年相当レベルに達するのに 5 年以上必要とされる能力」と書かれています。令和3年の研修用動画コンテンツでは「生活言語能力 →習得に2年程度/学習言語能力 →習得に5〜10年」と、もう少し幅のある示し方になっています。
大事なのは、この記述が何についてのものかです。DLAは冒頭で「(カミンズ、2006 の講演資料(中島・湯川訳)より)」と明記しており、第二言語一般の考え方の紹介として、しかも日本に来た子どもが日本語を習得する文脈で書かれています。「日本人の子どもが英語を身につけるのに何年かかるか」を国が調べて出した数字ではありません。さらに、令和7年6月に公開されたDLAの改訂版には、習得年数の数値記述そのものがありません。BICS/CALPという概念の紹介にとどめています。
| 資料 | 年次 | 何についての記述か | 会話 | 教科の言語 |
|---|---|---|---|---|
| JSL対話型アセスメント(DLA) | 平成26年1月 | 第二言語一般の考え方(カミンズ2006の紹介)/日本語習得の文脈 | 1〜2年 | 5年以上 |
| 研修用動画コンテンツ2「外国人児童生徒等教育の考え方」 | 令和3年4月 | 日本語習得(理論はカミンズの相互依存仮説) | 生活言語能力 2年程度 | 学習言語能力 5〜10年 |
| 外国人児童生徒受入れの手引き 第3章 | 平成31年3月改訂 | 日本語習得 | 年数の記載なし(「生活言語能力」と「学習言語能力」は違う、とだけ) | |
| DLA(改訂版) | 令和7年6月 | 同上 | 年数の記述が削除されている | |
| ネット記事でよく見る「5〜7年」 | ― | ― | 文科省の一次資料には該当する記述が見当たらない | |
つまり「うちの子の英語は何年で伸びるのか」という問いに、公的な答えは存在しません。現地校やインターに通う日本人の子どもの英語力を測った公的統計も、今のところありません。年数のカウントダウンで気持ちを削るより、別のものを見たほうが実際的です。

「話せるのに、わかっていない」は起こりうる
DLAには、保護者の実感にいちばん近い一文があります。「1、2年も経てば、流暢な日本語を話し日常生活では問題のない子どもが、教科学習に困難を感じるのは、求められる日本語能力が異なることによります。」――日本語を英語に置き換えて読みたくなりますが、この文は日本語習得についてのものです。それでも「会話の言葉」と「授業の言葉」は別物であるという指摘そのものは、言語を問わず考える枠組みとして役に立ちます。
同じことを「外国人児童生徒受入れの手引き」は、現場の声としてこう書いています。「日常会話は出来ても、授業などの学習に参加出来ない子供が多い。日常会話の力と、学習で求められる力は違う。」そして「『生活言語能力』については、ある程度は、普段の生活の中で自然に身に付きますが、教師による支援も必要です。一方、『学習言語能力』については、生活の中で身に付くことはあまり期待できません。」と続けます。放っておいて伸びる部分と、そうでない部分があるということです。
「英語が嫌い」は、英語力の問題とは限らない
「英語が嫌い」「学校に行きたがらない」と検索する方も多いのですが、海外に住む日本人の子どもの不登校や登校しぶりについての公的統計はありません。文科省の問題行動・不登校調査は日本国内の学校が対象で、在外教育施設は含まれていません。数字で語れない領域です。
代わりに、文科省の教員研修資料が採用している枠組みが参考になります。「新しい文化への適応のプロセス/異文化への適応は直線的ではない」として、リスガード(1955)のU-カーブ――ハネムーン期 → カルチャー・ショック → 適応を開始 → 適応――を示し、「一人一人の適応のプロセスは多様」と付け加えています。渡航直後は楽しそうだったのに数か月後に嫌がりはじめるのは、後退ではなく想定された段階だ、という見方ができます。
また同じ手引きは、言葉が通じない環境に置かれた子どもについて「自己開示もできず、常に緊張したり、時にはその結果として反抗的な態度を示すこともあります」と書いています。これは日本に来た外国人児童生徒についての記述であり、駐在家庭の子どもを調べたものではありません。ただ、立場を入れ替えれば構造は同じです。「英語が嫌い」という言葉が、英語そのものではなく、その場所での安心のなさを指している可能性は、頭の片隅に置いておく価値があります。行き渋りが続く場合の考え方は駐在の子どもが現地校に馴染めないとき、より深刻な段階については海外で子どもが不登校ににまとめています。

「両方できている」がいちばん見えにくい
ここからが、英語の話をしているときにいちばん見落とされるところです。文科省の「外国人児童生徒受入れの手引き」は、進路指導の章で保護者についてこう書いています。
「多くの保護者は、様々な生活場面で、子供が母語と日本語を使い分けて話している様子を見て、両方の言語力が十分育っている、と認識しがちである。しかし、そのような子供には、どちらの言語においても、学力を形成していく言語レベルにまでは達していない場合がよく見られる。進学の時期を迎えた時になって初めて、保護者が子供の実態を認識し、驚くこともある。」
くり返しますが、この記述の主語は「日本に来た外国人児童生徒とその保護者」です。駐在家庭を調べたものではありません。それでも「家では日本語、学校では英語。両方しゃべっているから大丈夫」という見立てが、国の文書で名指しで注意されている――という事実は知っておく価値があります。
なお、しばしば見かける「母語が育っていないと英語も伸びない」という因果の断定は、一次情報では裏が取れませんでした。手引きが書いているのは、もっと慎重な言い方です。「低学年で来日した児童の場合は、来日後も母語の習得を意図的に促進させるか、日本語の教育をしっかりと行うかしないと、どちらの言語も思考する力が未発達という状態になることがあります。その場合、言語の問題だけではなく、教科学習にも負の影響がでます。」――「どちらかをしっかりやらないと」という条件つきの言い方であって、一方向の因果ではありません。この記事でも、それ以上のことは書きません。
日本語のほうは、いま何が起きているか
英語に公的統計がない一方で、日本語の側には手がかりがあります。文科省が令和8年5月25日に公表した「日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」(令和7年5月1日現在)によると、公立学校で日本語指導が必要な児童生徒は84,759人。そのうち日本国籍の児童生徒は11,446人で、「日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒を言語別にみると、日本語が 27.7%で最も多く、次に英語の 18.4%となっている」とされています。実数では日本語3,166人、英語2,110人です。
この数字は日本国内の公立学校に在籍する子どものものなので、海外にいる駐在家庭の子どもの数ではありません。帰国したあとに日本語の支援が必要になった子が現に一定数いる、という読み方をしてください。実際、学校基本調査によれば令和6年度間に海外から帰国した児童生徒は10,988人(小学校6,398人・中学校2,622人・高等学校1,774人ほか)。多くのご家庭が、いつか同じ場面を通ります。
そして海外にいる間、日本語の学びは自動では続きません。文科省は日本人学校を「令和6年4月15日現在では、世界49カ国・1地域に94校が設置されており、約1万6千人が学んでいます」、補習授業校を「令和6年7月1日現在では、世界51カ国・1地域に242校」「令和6年4月15日時点で約2万1千人」としています。なお、この文部科学省のページは令和6年時点の数字のままです。より新しい一次情報では、日本人学校は90校・47ヶ国1地域(文部科学省「認定した在外教育施設一覧」令和8年4月1日時点)、補習授業校は246校(外務大臣の指定一覧を数えた実数・2026年8月時点。2025年8月15日に4校が追加指定)です。いっぽう「在外教育施設未来戦略2030」は、在留邦人子女数の伸びに対して在籍者数が横ばいであることから「この間、いずれの在外教育施設にも通わない子供が増加してきたと考えられる」と述べ、「日本人学校は現地校やインター校との競争的環境の中にある」としています。令和5年4月18日に文部科学省と外務省が決定した基本方針も、「現地校や国際学校との競争的環境の中にあることに留意が必要である」と同じ認識を示しています。学校の全体像は日本人学校 一覧と日本語補習校とは、違いは日本人学校と補習校の違いをどうぞ。

英語を待っている間に、日本語を止めない
英語がいつ伸びるかは、国にも答えがありません。だからこそその間に日本語の側を止めないでおくことが、家庭で決められる数少ないことになります。会話が続いているかどうかではなく、学年相当の文章を読み、書けるか。ここが、帰国したあとにいちばん響きます。
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よくある質問
駐在の子どもの英語は、何年で話せるようになりますか?
公的な答えはありません。文科省の資料で年数に触れているのは、日本に来た子どもの日本語習得についての記述で、DLA(平成26年1月)が会話は「1〜2年」、教科学習言語能力は「5年以上」、令和3年の研修用動画が生活言語能力「2年程度」、学習言語能力「5〜10年」としています。しかも令和7年6月のDLA改訂版では、年数の記述そのものがなくなりました。ネット記事でよく見る「5〜7年」という数字は、文科省の一次資料には見当たりません。現地校・インターに通う日本人の子どもの英語力を測った公的統計も存在しませんので、年数で管理するのは難しいと考えてください。
日常会話はできるのに、授業についていけません。なぜですか?
文科省のDLAは「1、2年も経てば、流暢な日本語を話し日常生活では問題のない子どもが、教科学習に困難を感じるのは、求められる日本語能力が異なることによります」と説明しています(日本語習得についての記述です)。「外国人児童生徒受入れの手引き」も現場の声として「日常会話の力と、学習で求められる力は違う」と紹介し、「『学習言語能力』については、生活の中で身に付くことはあまり期待できません」としています。会話が流暢になったことは、授業がわかることの証明にはならないということです。
「英語が嫌い」と言い出しました。どう考えればいいですか?
まず、海外に住む日本人の子どもの登校しぶりや不登校についての公的統計はありませんので、割合の話はできません。参考になるのは文科省の教員研修資料が紹介している考え方で、「異文化への適応は直線的ではない」として、ハネムーン期 → カルチャー・ショック → 適応を開始 → 適応というU-カーブ(リスガード1955)を示し、「一人一人の適応のプロセスは多様」としています。最初は楽しそうだったのに数か月後に嫌がりはじめるのは、想定された段階のひとつとして見ることができます。詳しくは駐在の子どもが現地校に馴染めないときをご覧ください。
母語が育っていないと英語も伸びない、というのは本当ですか?
その一方向の因果を断定した公的な記述は見つかりませんでした。文科省の「外国人児童生徒受入れの手引き」が書いているのは「低学年で来日した児童の場合は、来日後も母語の習得を意図的に促進させるか、日本語の教育をしっかりと行うかしないと、どちらの言語も思考する力が未発達という状態になることがあります」という条件つきの言い方です。「母語を伸ばすか、第二言語をしっかりやるか、どちらかはやる必要がある」という趣旨であって、「母語が先」と決めているわけではありません。この記事では、一次情報で裏の取れないことは書きません。
家では日本語、学校では英語。両方話せているので大丈夫ですよね?
文科省の手引きは、進路指導の章で「多くの保護者は、様々な生活場面で、子供が母語と日本語を使い分けて話している様子を見て、両方の言語力が十分育っている、と認識しがちである。しかし、そのような子供には、どちらの言語においても、学力を形成していく言語レベルにまでは達していない場合がよく見られる。進学の時期を迎えた時になって初めて、保護者が子供の実態を認識し、驚くこともある」と書いています。これは日本に来た外国人児童生徒についての記述で、駐在家庭を調べたものではありません。ただ、会話ができることと、その言語で学力を積み上げられることは別という指摘は共通します。読み書きの現在地は継承語を学齢相当に育てる方法と国語力チェックで確かめられます。
帰国したあと、日本語で困る子は実際にいますか?
います。文科省が令和8年5月25日に公表した調査(令和7年5月1日現在)では、公立学校で日本語指導が必要な日本国籍の児童生徒は11,446人。その言語別で最も多いのは「日本語」で27.7%(3,166人)、次が英語18.4%(2,110人)です。また学校基本調査では令和6年度間に海外から帰国した児童生徒は10,988人。帰国後の国語については帰国子女の国語、漢字の遅れは帰国子女の漢字、英語が得意な子ほど起きることはアメリカから帰国、子どもの国語は大丈夫?にまとめています。
英語がいつ伸びるかは待つしかない。日本語は、いま止めずにおけます。
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