滞在先の教育委員会に問い合わせて、受け入れの返事をもらった。ここからが本番です。「一時帰国 体験入学 小学校」と検索する方の多くは、実はもう「通えるかどうか」は解決していて、通いはじめてから何が起きるのかを知りたいのだと思います。教科書はもらえるのか。給食は食べられるのか。上履きや体操服は買うのか。成績はつくのか。学年はどこに入るのか。
この記事は、その「決まったあと」だけを扱います。受け入れてもらえるかどうかの自治体差については、別の記事にまとめてあります(一時帰国の小学校の受け入れ、市でこんなに違う|11市を調べました)。ここでは、公式ページと申込様式にあたって確認できた実務だけを並べます。

最初の関門は、締切です
受け入れの可否より先に、日程で詰むケースがあります。申込の締切が、自治体によってまったく違うからです。
仙台市の仮入学は「開始日の2開庁日前まで」。ほぼ直前でも間に合います。一方、千葉県市川市は「体験開始日の2か月前まで」で、可否の回答に約2週間かかると案内しています。埼玉県和光市も「開始希望日の2か月前を目安」。同じ「一時帰国の体験入学」なのに、締切に30倍の開きがあります。
さらにやっかいなのが、受付期間そのものが限られている自治体です。茅ヶ崎市は「6月・7月希望者は4月1日〜4月30日の受付のみ」。夏休みの一時帰国を考えている家庭は、春のうちに動かないと申し込む窓すら開いていません。
期間の下限にも注意が要ります。東京都三鷹市は「21日間以上(長期休業期間は含みません)」。夏休みを挟んだ帰国では、授業日を21日積み上げるのが難しい場合があります。町田市は「原則5日以上」で、こちらは祝日・休校日も5日に含めてよいとしています。品川区・港区は3週間以上、台東区・荒川区は2週間以上。東京は「これ以上の長さで来てください」という下限型、地方は「これ以内で」という上限型という、きれいな対比になっています。

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教科書がもらえるかどうかは、住民票ではなく「制度名」で決まる
ここは誤解が本当に多いところなので、一次情報をそのまま引きます。文部科学省の一時帰国者向けFAQ(2020年5月1日付)には、まさにこの質問と答えが載っています。
体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っていませんが、編入学を対象とした無償配布は行っています。日本人学校に籍を置きながら日本の学校に編入学する方法があり、住民票を移すことなく、居住実態さえあれば受け入れていただけます。編入学すれば教科書は無償配布されます。
文部科学省「海外から一時帰国中又は一時帰国を予定しているお子様の保護者向けお問合せに寄せられたFAQ」(2020年5月1日付)
つまり「住民票を移さないと教科書がもらえない」というのは誤りです。分かれ目は住民登録の有無ではなく、滞在先の自治体がその受け入れを「体験入学」と呼ぶか「編入学」と呼ぶかにあります。
実際、「編入学」の枠組みで受け入れる自治体は教科書を渡しています。東京都町田市は「町田市で使用している教科書と出版社が同じ教科書につきましては、帰国の際にご持参ください」としたうえで、異なる場合は「通われる学校にて無償でお渡しします」。三鷹市(制度名は「編入学(学校体験)」)も「教科書の受け取りに時間を要する場合があります」と、渡す前提で書いています。
逆に「体験入学」と呼ぶ自治体は、そろって対象外です。茅ヶ崎市「教科書の無償給与の対象外です。原則として個人で用意していただきます」、和光市「教科書無償給与の対象外となります。大使館等で支給されている教科書がある場合は持参をお願いします」、島根県安来市「教科書の無償の配付はありません。お持ちのものがあればご持参ください」、松本市「教科書のお渡し不可」。吹田市はさらに「購入した教科書が不要になった場合も教科書代の返金はできません」と念を押しています。
なお、台東区・品川区・北区のように「就学してからの注文のため、就学期間中に提供できない場合があります」と書く自治体もあります。制度上は渡す側でも、短期滞在では物理的に間に合わないことがある、ということです。
海外で使っている教科書を持って行くのがいちばん確実
海外子女教育振興財団(JOES)が配っている日本の教科書は全世界共通です。ただし国内は市区町村ごとに採択が異なるため、滞在先の学校と出版社が一致するとは限りません。茅ヶ崎市も「本市で採用している教科書とは異なる場合があります」と注記しています。
ひとつ注意点があります。一時帰国中にJOESへ直接教科書を申請することはできません。JOESの案内には「JOESでの教科書給与は、『ご申請時点で、日本の学校にお通いのお子さん』のみ対象」とあり、海外滞在中の方は在外公館経由の申請になります。日本に着いてから慌てても間に合わないので、出国前に手元の教科書を確認して、持って帰るのが現実的です。
給食は「申し込めるか」より「いつまでに言うか」
給食は食材の発注があるので、締切が独立して存在します。日数で明記していた自治体は少なく、確認できた範囲では山梨県忍野村の「希望される場合は2週間前までに」が唯一でした。世田谷区は「事前に食材の発注が必要なため、学校へ連絡する際にお早めにお申し出ください。場合により、給食が提供できないことがあります」と定性的に書いています。市川市は体験入学許可願と一緒に「学校給食申出書」を出す方式です。
費用は2026年度に大きく動きました。文部科学省の「学校給食費の抜本的な負担軽減」が令和8年4月に始まり、公立小学校の食材費を国が支援する仕組みができています。実額で見るとこうです。
| 自治体 | 補助前の1食あたり | 2026年度の保護者負担 | 中学校の保護者負担 |
|---|---|---|---|
| 和光市 | 小336円/中416円 | 小 27円 | 383円 |
| 西宮市 | 小355円/中410円 | 小 50円 | 205円 |
| 札幌市 | 小371〜382円/中452円 | 小 80〜91円 | 124円 |
| 仙台市 | — | 小学校・特別支援学校小学部は無償 | 保護者負担 |
| 忍野村(体験入学ページに明記) | — | 小340円(前納) | 360円(前納) |
兄が中学校、妹が小学校という家庭では、同じ日の給食で1食あたり14倍の差が出る計算になります(和光市の27円と383円)。「1食250〜300円」という従来の相場観は、2026年にはもう古くなりました。
キャンセルについても知っておいてください。忍野村は「体験入学前あるいは体験入学中に体験をキャンセルした場合は給食費全額お支払いいただきます」、世田谷区は「喫食の有無にかかわらず、給食を用意した日で請求」。フライトの変更や体調不良が起きやすい駐在家庭には、地味に効くルールです。
アレルギーがある場合は「対応食」ではなく「弁当」が標準
これは記事にしておくべき事実だと思うのですが、短期の子にアレルギー対応食を出すと明記した自治体は、調べた範囲で1件も見つかりませんでした。書かれているのは一貫して除外のほうです。
茅ヶ崎市「食物アレルギー等ある場合は、給食利用できません。お弁当を持参していただきます」。市川市「アレルギー等がある場合、給食の提供はできませんのでお弁当を持参ください」。世田谷区「食物アレルギーがある場合には、昼食を必要とする日はすべてお弁当持参」。十和田市は「アレルギー、宗教上による食物制限等、個別の対応はできません」。
ムスリム圏やインド、ベジタリアンのご家庭は、「体験入学=毎日お弁当」と見込んでおくのが実態に近いです。なお愛知県蒲郡市は申込のアンケートで「牛乳:飲める/飲めない/飲んだことがない」「日本食:食べたことがない」まで聞いていて、行政の側も海外育ちの子の実像をかなり具体的に把握しています。

持ち物は「買う」のか「代用できる」のかが、真逆に割れる
いちばん実務的に困るのがここです。数週間のために一式そろえるのか、手持ちで済むのか。
大阪府の茨木市立茨木小学校は、体験入学の持ち物を正面から列挙しています。
学校長が体験入学を許可した場合、必要な持ち物は以下の通りです。貸し出しはしませんので、ご用意ください。
茨木市立茨木小学校「体験入学について」
そのうえで、体操服(登校時に着る服とは別)、運動時の帽子、上履き(スリッパは不可)、体育館シューズ、お道具箱(23×33×5.5cm以下)+はさみ・のり・色鉛筆、給食用ナフキン、水筒、筆記用具、連絡用ノート、自由帳、教科用ノート、夏はプールセット一式——と続きます。さらに「体験入学が1か月程度の場合」は給食エプロンセット(エプロン・三角巾または帽子・マスク)も必要で、理由は「当番で使用します」。短期でも給食当番に入るのです。
一方で、代用を認める自治体もあります。茅ヶ崎市は「体操服については、白のTシャツ、学校で使用されているものと似た色のジャージまたはハーフパンツで代用できる場合があります」。和光市も体育着は「白のTシャツ・短パン、ジャージ等、動きやすい服装」で、持ち物は「顔合わせ時に学校で確認」としています。
ちなみに「短期の子はランドセルでなくリュックでよい」と明記した公式ページは見つかりませんでした。いちばん近いのが横浜市の帰国児童生徒教育ガイドで、小学校の例として「カバン…ランドセル」、中学校は「スポーツバッグやリュックサックが多い」と書かれています。ただし同ガイド自身が「学校によって異なります」と留保しているので、結局は受け入れ校に聞くのが唯一の正解です。

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成績はつかない。ただし「通った証明」は取れることがある
条文から確認しておきます。学校教育法施行規則第24条は「校長は、その学校に在学する児童等の指導要録…を作成しなければならない」、第25条は「校長は、当該学校に在学する児童等について出席簿を作成しなければならない」と定めています。どちらも主語が「在学する児童等」です。在籍しない体験入学の子には、指導要録も出席簿も作成義務が発生しない、というのが条文からの帰結になります。
これを明文で書いている自治体は多くありません。「体験入学期間中の成績の評価はしません。通知表や卒業証書のお渡しはありません」とはっきり書いているのは吹田市です。同義の表現は各地にあります。流山市「1カ月未満の体験入学は正式な就学として取り扱わないため、在籍とはなりません」、鎌倉市も同文、長野県須坂市「正式在籍とはしません」、十和田市「正式な在籍ではないため、教科書無償給与の対象外となります」、芦屋市は定義そのものを「正規の就学手続をせずに公立小・中学校へ一時的に通学すること」としています。
では海外の在籍校に「日本で通った」と示す書類は出るのか。ここは意外な発見がありました。自治体が事後に発行する「修了証」の類は見つかりませんでしたが、補習授業校の側が証明書を用意しているのです。
ロサンゼルスのあさひ学園は、こう案内しています。「日本国内の小中学校への体験入学者は、事前に各学校の職員室にある『体験入学に伴う在学証明発行願』に記入し、必ず2週間前までに欠席届と一緒に担任に提出してください」。そして「『体験入学証明書』は、体験入学校に必要事項を記入してもらい、本校に戻りしだい、担任に提出してください。そのことにより、『進級・卒業の認定に関する規定』の欠席日数の合計から除外されます」。
つまり補習校に通っているお子さんは、日本へ発つ前に補習校で用紙をもらっておく必要があります。これを知らずに帰国すると、体験入学のあいだの補習校の欠席が、そのまま欠席として積み上がります。出発前のチェックリストに入れておいてください。
学年は「日本の年齢相当」。現地の学年は関係ない
9月始まりの国や、南半球の1月始まりの国から帰ると、現地の学年と日本の学年がずれます。どちらに合わせるのか。答えははっきりしています。
静岡県藤枝市は「国外における学年に関わらず、体験入学に当たっての受入学年は日本における年齢相当の学年です」。台東区・品川区も「就学する学年は原則、日本の学齢に相当する学年になります」。仙台市・福岡市・松本市・豊中市・吹田市・高槻市なども同じです。日本の学年は4月2日生まれから翌年4月1日生まれまでで一学年、と決まっています。
ただし例外の余地はあります。安来市は「原則…年齢相当の学年となります。ただし、日本語の習得状況などにより、下の学年の方が適当であると学校と保護者の間に同意があれば、この限りではありません」。大阪府交野市も同様に、保護者が希望し学校長が認めた場合を認めています。文部科学省の就学事務Q&Aも「一時的に下級の学年に編入する措置をとることも可能です」としています。
ここでよく見かける誤りを訂正しておきます。「下学年編入の根拠は学校教育法施行規則第91条」と説明されることがありますが、第91条は高等学校の入学に関する規定です。同規則の条文に「下学年」という語は出てきません。根拠は条文ではなく、文部科学省の行政解釈です。
けがをしたときの扱いが、自治体で正反対になる
最後に、いちばん見落とされていて、いちばん重い論点です。学校でけがをしたときの災害共済給付(日本スポーツ振興センター=JSC)に、体験入学の子が入れるかどうか。
JSCの公式Q&Aは「原則、当該校に在籍をする場合は加入対象になります」と書くだけで、「体験入学」という語がJSCの公式サイトには出てきません。そのため各教育委員会が「在籍とみなすか」を独自に判断していて、結論が割れています。
- 加入できる——吹田市(任意・年額460円)/市川市(460円)/流山市(任意・460円)/古河市(任意・460円)/春日市(440円・加入が必要)/安来市(任意)/宝塚市(加入をお願いします)
- 加入できない——茅ヶ崎市「加入できないため、事故等による医療費等は、自己負担です」→旅行保険や個人賠償責任保険等への加入を推奨/和光市「和光市に住民票がないため、健康保険の対象外」「日本スポーツ振興センターの保険にも加入できない」/松本市「対象外です。学校での怪我や事故は保護者の責任になります」
JSC自身が「一時保育で保育所に預かる児童は、災害共済給付制度に加入することはできません」と明示していることを踏まえると、「加入できない」と判断している自治体には制度上の理屈があり、交渉して覆る話ではありません。加入できない自治体に滞在するなら、海外の保険が日本での学校活動をカバーするかを、渡航前に保険会社へ確認しておいてください。
なお、大阪府流山市・宝塚市・茨城県古河市の3市は「文部科学省が指定する結核高まん延国に、過去3年以内に通算6か月以上居住していた場合、事前に病院で結核検査を受診し結果の写しを提出」と明記しています。アジアやアフリカに駐在しているご家庭は、現地にいるうちに受診しておかないと初日に間に合いません。
2週間が終わったあと、日本語はどこで続くのか
ここまで読むと分かるとおり、体験入学の制度はどこを切っても「在籍している子」を基準に作られていて、短期の子は少しずつ枠の外にいます。教科書は渡されない。成績はつかない。保険は自治体次第。給食の減額制度も、長期欠席を前提に設計されています。
それでも多くの家庭が体験入学を選ぶのは、数値化できないものが手に入るからです。日本語だけで一日が流れる感覚。休み時間に日本語で笑うこと。「学校って、こういうところだったな」と子どもが思い出すこと。
問題は、それが2週間で終わってしまうことです。飛行機に乗った翌週から、日本語で話す相手はまたいなくなります。次に日本の教室に入るのは、早くて半年後、たいていは一年後。その空白のあいだに、学年相当の国語は静かに離れていきます。
ともだちじゃぱんは、その空白を埋めるためのオンラインスクールです。日本の現役水準の教員が、8人の少人数クラスで学年相当の国語を教えます。同じクラスにいるのは、同じように海外で育っている日本の同世代です。年に一度会う友達ではなく、毎週会って話す相手をつくること。それが体験入学の「続き」になります。
手続き全体の流れは一時帰国の「体験入学」完全ガイド、中学生の場合は一時帰国の体験入学、中学校は小学校と別物、最終日のお礼については一時帰国の体験入学のお礼にまとめています。
よくある質問
教科書はもらえますか
滞在先の自治体が「体験入学」と呼んでいる場合は、原則もらえません。文部科学省が「体験入学の児童生徒を対象とした教科書の無償配布は行っていません」と明記しています。逆に「編入学」の枠組みで受け入れる自治体(町田市・三鷹市など)は、手持ちと出版社が異なる教科について渡します。海外で使っている教科書を持って帰るのがいちばん確実です。
給食は食べられますか。アレルギーがある場合はどうなりますか
申し込めば食べられる自治体が多いですが、食材発注の都合で締切があります(忍野村は2週間前まで)。アレルギーがある場合は、対応食ではなく弁当持参が標準です。茅ヶ崎市・市川市・世田谷区はいずれも「給食は利用できません/提供できません」として弁当持参を求めています。宗教上の食物制限も「個別の対応はできません」(十和田市)とする例があります。
上履きや体操服は買わないといけませんか
学校によります。茨木市立茨木小学校のように「貸し出しはしませんので、ご用意ください」と明記し、上履き(スリッパ不可)・体育館シューズ・お道具箱まで列挙する学校がある一方、茅ヶ崎市・和光市のように「白のTシャツと似た色のジャージで代用できる場合があります」とする自治体もあります。顔合わせや事前訪問のときに必ず確認してください。
成績や通知表はもらえますか
もらえません。吹田市は「体験入学期間中の成績の評価はしません。通知表や卒業証書のお渡しはありません」と明記しています。学校教育法施行規則第24条・第25条が指導要録と出席簿の作成対象を「その学校に在学する児童等」としているため、在籍しない体験入学では作成義務が生じません。
補習校に「日本で通った」ことを証明できますか
補習校の側が用紙を用意している場合があります。あさひ学園(ロサンゼルス)は「体験入学に伴う在学証明発行願」を2週間前までに提出させ、日本の学校に記入してもらった「体験入学証明書」を戻すと、進級・卒業の認定における欠席日数から除外すると案内しています。出発前に、通っている補習校で確認しておいてください。
学年はどこに入りますか
日本の年齢相当の学年です。藤枝市は「国外における学年に関わらず、体験入学に当たっての受入学年は日本における年齢相当の学年です」としています。ただし日本語の習得状況によっては、保護者と学校が同意すれば下の学年に入る余地もあります(安来市・交野市)。決めるのは校長です。
学校でけがをしたら、医療費はどうなりますか
自治体によって正反対です。吹田市・市川市・流山市・古河市などは災害共済給付に440〜460円で加入できますが、茅ヶ崎市・和光市・松本市は加入できず、医療費は自己負担になります。和光市にいたっては「住民票がないため健康保険の対象外」とも書いています。加入できない自治体に滞在する場合は、海外の保険が日本での学校活動をカバーするかを渡航前に確認してください。
小学校の体験入学でいちばん多い不安は、日数や持ち物より「学校に迷惑ではないか」という点です。学校側の実務から見た答えは一時帰国の体験入学は迷惑なのかにまとめています。



