塾や情報サイトには「あの学校の帰国生入試は約◯倍」と書いてある。ところが学校の公式サイトを開いても、その数字がどこにも見当たらない。募集人数の欄には「若干名」とだけある。そうして「帰国子女 中学受験 倍率」と検索し、また別の「◯倍」に行き当たる――海外で帰国枠の中学受験を決めたご家庭から、この順番のご相談をよくいただきます。結論から書きます。帰国生入試の倍率は、一般入試の倍率と同じようには使えません。理由は三つあって、分母が一つではないこと、母数が小さいので学校自身が伏せる欄があること、方式ごとに満点も配点も違うことです。だから出願前に探すべきなのは「◯倍」という一つの数字ではなく、学校や教育委員会が公表している出願・受験・合格の実数のほうです。この記事は、2026年8月時点で公式が公表している数字だけを使って、その探し方と読み方を整理します。条件・日程・選考型の全体像は中学受験の条件と選考型の整理が担当です。
まず、実数を一件そのまま見てください
高輪中学高等学校は、公式サイトのお知らせで「2026年度 帰国生入試 概況」を公表しています(2026年1月12日掲載)。数字はこうです。
- 2科目型――募集定員10名/出願者総数25名/欠席者数9名/実受験者数16名/合格者数9名。合格者最高点183点・最低点131点、受験者平均点128.1点(200点満点)。
- 3科目型――出願者総数5名/欠席者数0名/実受験者数5名/合格者数2名。受験者平均点179.2点(300点満点)。合格者最高点・最低点は「合格者少数のため非公表」。
この一件に、帰国生入試の倍率の性質がほぼ全部出ています。まず2科目型は、出願した25名のうち9名が受けていません。欠席は36%です。理由は公表されていないので推測は書きません(「海外在住だと直前に受験できなくなることがある」といった説明はよく挙げられますが、この概況から読み取れる事実ではありません)。次に、3科目型は学校自身が点数の欄を伏せています。そして2科目型は200点満点、3科目型は300点満点。同じ学校の同じ入試でも、方式が違えば満点が違います。

「帰国子女」という言葉の定義・対象になる期間・何年からあてはまるのかは、学校や制度によって違います。そこだけ先に整理したい方は帰国子女とは?定義・期間・何年からと帰国後に困ることをご覧ください。
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「倍率」という言葉が指している五つの数
倍率という一語の中に、少なくとも五つの別々の数が混ざっています。分けてしまえば、混乱の大半は消えます。
- ①募集定員――募集要項に書かれる数。「若干名」とだけ書かれることがあります。
- ②出願者数(志願者数)――出願を受け付けた数。
- ③実受験者数――②から欠席を引いた数。
- ④合格者数――実際に合格を出した数。募集定員と一致するとは限りません。
- ⑤入学者数――④から辞退を引いた数。ほとんど公表されません。
世の中で「倍率」と呼ばれるのは②を④で割った数が多い。ところが③を④で割ると別の数が出ます。高輪の2科目型なら、出願25名÷合格9名で約2.8、実受験16名÷合格9名で約1.8。同じ入試の同じ結果から出てくる数字です。どちらが「本当の倍率」かという問いに意味はありません。手元の「◯倍」がどちらを分母にした数字かを確かめる――やることはそれだけです。
なお、模試が出す偏差値は別系統の数字です。偏差値は模試の受験者集団から算出される指標、倍率は学校や教育委員会が公表する実数。帰国枠で一般入試の偏差値表が使えない理由は偏差値の記事が担当なので、ここでは踏み込みません。

実数はどこに載っているか――探す順番
「学校のサイトに数字がない」というご家庭の多くは、募集要項のページだけを見ています。実数は別の場所にあるのが普通です。次の順に当たってください。
- ①学校公式サイトの「入試結果」「入試概況」「データ」――高輪のように帰国生入試だけの概況をお知らせ記事で出す学校があります。入試情報のトップではなくニュース欄に埋もれていることがあるので、サイト内検索も使ってください。
- ②募集要項そのもの――ここで分かるのは主に①募集定員です。「若干名」かどうかもここで確定します。
- ③学校説明会の配布資料――説明会で数字を示す学校があります。海外から参加する方法は説明会の3つの型が担当です。
- ④公立を受ける場合は都道府県教育委員会――学校ではなく県が公表します。次章で実物を追います。
- ⑤それでも出てこなければ学校に直接問い合わせる――「公表していません」という回答自体が情報です。数字がない前提で準備を組めます。
候補校がまだ固まっていないなら、数字より先に対象校を集めるほうが早い。集め方は受入校の探し方と見る順番にあります。

| 見るところ | 学校公式の入試概況 | 募集要項 | 都道府県教育委員会の公表資料 | 学校への問い合わせ | ともだちじゃぱん |
|---|---|---|---|---|---|
| 分かる数 | 出願・欠席・実受験・合格の実数 | 募集定員(「若干名」もここ) | 志願者数・受検者数・合格者数と競争率 | 公表の有無そのもの | 入試の数字は扱いません |
| 数字の時点 | 前年度の入試の結果 | これからの年度の予定 | 締切時・志願変更時・受検時で別々 | 問い合わせた時点 | 毎週の授業で継続的に見る |
| 母数の小ささ | 合格者が少ないと点数欄が非公表 | 定員が小さいほど一人が効く | 学校別・コース別に載る | 非公表の理由を聞ける場合も | 8人の少人数で一人ずつ見る |
| 先に確かめる | 方式ごとに満点が違わないか | 翌年度の要項が公表済みか | どの別紙のどの表にあるか | 出願する方式を先に決める | 対策ではなく日本語の土台 |
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同じ入試に、いくつもの倍率が公表されている
公立の帰国枠では、一つの入試について、公式が段階ごとに別々の倍率を出しています。神奈川県教育委員会の令和8年度(2026年度)の公表資料を実際に開いて追いかけます。これは高校入試の例ですが、教育委員会が実数をどう出すかがいちばんはっきり見えます。神奈川の高校の帰国枠そのものは高校受験 神奈川の記事が担当です。
神奈川県には海外帰国生徒特別募集があり、県教委は実施校8校を公式ページで紹介しています。そのうち県立神奈川総合高等学校の単位制普通科 国際文化コース(募集定員10名)の数字を、公表の順に並べます。
- 1月30日(志願締切時)――志願者19名、競争率1.90(「志願者数について」の別紙3)
- 2月9日(志願変更締切時)――志願者17名、競争率1.70(「志願者数(志願変更締切時)について」の別紙3)
- 2月17日(学力検査等受検者数)――受検者16名、競争率1.60(「学力検査等受検者数等について」の別紙3)
- 2月27日(合格者数)――合格者10名(「合格者数」の別紙4)
同じ一つの入試です。それなのに1.90倍・1.70倍・1.60倍という三つの数字が、いずれも県の公式資料として世に出ています。「神奈川の帰国枠は◯倍」と書かれていても、そのどれを引いたかは明示がなければ分かりません。数字を見たら、まず「いつ時点か」を確かめる。これが結論のひとつです。
探すときに知っておくと早いことが、もうひとつ。同じ公表の別紙1「集計結果の概要」にある全日制の平均競争率1.11倍は、「特別募集及び中途退学者募集を除く」と明記されています。つまり帰国枠の数字は概要に入っていません。学校別の別紙3を最後までたどり、「特別募集及び中途退学者募集志願締切時志願状況」という表まで来て、はじめて海外帰国生徒特別募集の行が出てきます。「県のページを見たけど帰国枠の倍率がなかった」の正体は、たいていこれです。県によって公表のしかたも資料名も違うので、帰国先の県教委のページで「特別募集」を含む資料を探してください。

募集定員が「若干名」のときの読み方
「若干名」と書かれていると、狭き門なのか狙い目なのかを判定したくなります。どちらでもありません。人数を約束しない表記であって、難易のシグナルではないからです。書けるのは数の構造だけです。
一つ目。募集定員が小さいほど、出願者が一人増減しただけで倍率の数字が大きく動きます。定員10名なら、志願者が19名から17名に変わるだけで1.90倍が1.70倍になる――神奈川の実例がまさにこれです。二つ目。母数が小さいと年度ごとの振れが大きく、去年の倍率が今年の目安になりにくい。三つ目。合格者数が募集定員と一致しないことがある。高輪の2科目型は定員10名に対して合格者9名でした。繰り返しますが、これは高輪のこの年の事実で、他校に一般化はできません。
だから「若干名」でやることは、判定ではなく確認です。その学校が過去の実施結果を公表しているかを探す。無ければ、倍率は手に入らないものとして計画を立てる。出願できる学校の範囲が帰国時期で変わる点は帰国時期の記事にあります。
倍率を見るべきでない三つの場面
- (a)倍率で志望校を決める。倍率は前年に起きたことの記録で、翌年の入試を保証しません。ここまで実数を引いてきた高輪中学高等学校は、2027年度入試より、1月に実施していた帰国生入試を廃止し、一般入試の中で帰国生を対象とした優遇措置に切り替えると公式の募集要項で発表しています(所定の書類の提出でA・B・C日程の4科目試験の合計得点に10点を加点/算数午後入試は対象外)。倍率どころか、その入試の枠自体が翌年には存在しません。こうした「入口が年度で変わる」現象の見分け方は入試の廃止と切り替えを整理した記事にまとめました。
- (b)方式をまたいで点数を比べる。高輪の2科目型は200点満点、3科目型は300点満点です。受験者平均点は128.1と179.2ですが、この二つを並べても何も言えません。学校が違えばなおさらで、英語だけで受ける方式と4科で受ける方式では測っているものが別です。方式の違いは英語のみ入試の3つの型を、実際の出題は過去問の探し方をご覧ください。
- (c)倍率が低い=入りやすい、と読む。帰国生入試は出願資格そのものが絞られています。在外年数、帰国後の経過年数、国籍、学齢――条件を満たした人だけが出願するので、母集団が一般入試と違います。同じ数字でも中身が別物です。
では合否の見通しはどう立てるのか。倍率だけでは決まらない話なので、中学受験でつまずく5つの型と海外からの模試の受け方に譲ります。動く時期は月別カレンダーに。
ともだちじゃぱんは株式会社NIJINが運営する、海外で育つ子のためのオンライン日本語スクールです(2026年12月開校)。学校教育法上の一条校ではなく、在籍校の代わりにはなりません。そして中学受験の教科指導も、志望校選びの相談も行っていません。倍率の読み解きや併願設計は帰国生向けの塾や家庭教師の領域で、その価値は本物です。私たちが担うのは、倍率が高かろうが低かろうが、どの方式でも土台になる日本語の読み書きです。帰国生入試には国語や作文、面接が入る方式が多く、学年相当の語彙と書き言葉はそのまま効きます。講師は採用合格率およそ2%の選抜を通った現役水準の日本の教員、8人の少人数・担任制で、日本に住む同世代が同じクラスにいるので、日本語で話す時間が生活に残ります。学費や奨学金の詳細は、無料の学校案内でお届けしています。
よくある質問
志望校の帰国生入試の倍率は、どこを見れば分かりますか?
まず学校公式サイトの「入試結果」「入試概況」です。高輪中学高等学校のように、帰国生入試だけの概況をお知らせ記事で出す学校があります。公立なら都道府県教育委員会の公表資料。見つからなければ学校に直接お尋ねください。
塾のサイトの倍率と学校の数字が合わないのはなぜですか?
分母と時点が違う可能性が高いです。出願者数と実受験者数のどちらを分母にするかで数字は変わり、公立では志願締切時・志願変更締切時・受検時と段階ごとに別の競争率が公表されます。「いつ時点の、何を分母にした数字か」を確かめてください。
募集人数が「若干名」の学校は、避けたほうがいいですか?
「若干名」は難易を示す表記ではありません。ただし定員が小さいと一人の増減で倍率が大きく動き、年度ごとの振れも大きくなります。去年の数字を今年の目安に使いにくい前提で扱ってください。
倍率が低い学校を選べば合格しやすいですか?
そうとは言えません。帰国生入試は在外年数や帰国後の経過年数などで出願資格が絞られており、母集団が一般入試と違います。同じ数字でも中身が別物で、倍率だけでは比べられません。
去年の倍率を見て志望校を決めても大丈夫ですか?
お勧めしません。高輪中学高等学校は2027年度入試から帰国生入試を廃止し、一般入試での加点に切り替えると公表しています。入試の枠自体が年度で変わります。詳しくは入試の廃止と切り替えの記事へ。



