帰国枠の募集要項を開いたら「作文」または「小論文」の文字があった。あるいは帰国後の授業で、原稿用紙を前にお子さんの手が止まっている。――そんなとき保護者が検索するのが「帰国子女 作文」「帰国子女 作文 対策」「記述 苦手」という言葉です。日本語で家族と話すぶんには何の問題もない。なのに、いざ「書きなさい」と言われると一行目から動けない。これはやる気の問題でも、日本語力が足りないという単純な話でもありません。書く力は、話す力とはまったく別の道すじで育つからです。この記事では、帰国枠入試で作文が課される理由、帰国子女がつまずく構造、よく出るテーマの型、そして話す→短い段落→400字→原稿用紙という練習の順番を整理します。
帰国枠入試で作文・小論文が課されるのはなぜか
帰国生入試は、多くの場合英語(または現地語)・作文/小論文・面接の組み合わせで構成されます。英語や面接だけでは測れないものを見るために置かれているのが、作文・小論文です。そこで学校が確かめたいのは、文章のうまさというより「日本語で考えて、日本語で筋道を立てて書けるか」。入学後に日本語で行われる授業やレポートについていけるかを、いちばん短時間で見られるのが「書かせる」という方法だからです。
形式は学校によってかなり幅があります。40〜60分で400字〜600字前後を書かせる形が一般的ですが、テーマ型(与えられたお題について自分の考えを書く)か、課題文型(文章を読んでそれを踏まえて書く)かも学校ごとに違います。国語の学力試験そのものを課す学校もあれば、作文だけの学校もある。ここは必ず志望校の募集要項と説明会で確認してください。帰国枠の条件(海外在留1年以上・帰国後2〜3年以内が一般的)や日程の全体像は帰国子女枠とは?受験の仕組みに、高校段階の話は帰国子女の高校受験にまとめています。
そしてもうひとつ。作文の力が必要になるのは受験のときだけではありません。帰国後の日本の教室では、社会の「まとめ」も理科の「考察」も国語の「記述」も、すべて日本語の文章で書きます。受験の作文対策と、帰国後に授業で困らない力は、同じ一本の道です。だから受験学年でなくても、早く始めた家庭ほど後がラクになります。
なぜ帰国子女は作文でつまずくのか――3つの理由
「話せるのに書けない」の正体は、はっきりしています。理由は大きく3つあります。

① 「話す日本語」と「書く日本語」は別の力
言語学者ジム・カミンズは、日常会話で使う生活言語(BICS)と、教科書を読み・考え・書くために使う学習言語(CALP)を区別しました。生活言語は環境に入ればおおむね2〜3年で身につきますが、学習言語は5〜7年かかるとされます。作文はこの学習言語のど真ん中です。家族との会話は生活言語なので、そこがどれだけ流暢でも、書く力は自動的にはついてこない。「うちの子は日本語ができるはずなのに」という違和感は、この差から生まれます。詳しくは帰国子女が国語を苦手にする理由(9歳の壁)で解説しています。
② 原稿用紙の作法と「書き言葉」の在庫が薄い
日本の子は小学校の6年間で、原稿用紙の使い方(一マス下げ、句読点の位置、かぎかっこの改行)、段落の切り方、「しかし」「たとえば」「つまり」といった接続詞、そして話し言葉を書き言葉に直す感覚を、毎週の授業で少しずつ体に入れています。海外にいるとこの練習量が構造的に減ります。加えて漢字の学年配当(教育漢字は小学6年間で1,026字)が止まっていると、言いたい語が書けないので、書ける語だけで書く。結果として、内容は面白いのに幼く見える文章になります。これは能力ではなく練習量と道具の問題で、埋めれば戻ります。
③ 英語のエッセイ型と、日本語の作文の型が違う
ここは見落とされがちですが、実はいちばん実りのある論点です。現地校で学ぶparagraph writingは、トピックセンテンスを先頭に置き、根拠を並べ、結論で締める――という明快な設計図を持っています。一方、日本の学校の作文は「出来事を書き、そこから自分が感じたこと・気づいたことに降りていく」構成が好まれ、結論を最初に言い切らない書き方も普通です。この違いを知らないまま英語の型をそのまま日本語に移すと、「主張は立派だが体験が薄い」と読まれてしまう。逆に言えば、英語で身につけた構成力は日本語の作文でも強い武器になります。捨てるのではなく、日本語の型に翻訳して使う。ここを教えられるかどうかで、伸び方がまったく変わります。
よく出るテーマの「型」と、考え方の入り口
設問そのものは学校ごとに違い、毎年変わります。ですから過去問を丸暗記するより、テーマの型を知って、自分の引き出しを用意しておくほうが確実です。帰国生の作文でよく見られる型は、おおむね次の5つに整理できます。
- 海外での経験そのもの:現地でいちばん心に残っていること。→ 出来事を1つに絞り、場面を細かく書けるかが勝負。
- 異文化・日本との違い:暮らして気づいた文化のちがい。→ 優劣をつけず「ちがいをどう受け止めたか」まで書く。
- 自分が成長した経験:うまくいかなかったこと、乗り越えたこと。→ 失敗を書いてよい。むしろ失敗の具体があるほど強い。
- 志望理由・入学後にしたいこと:なぜこの学校か。→ 学校案内の言葉の引き写しではなく、自分の経験と接続する。
- 社会的なテーマ:環境・多様性・AI・地域社会など。→ 一般論で終わらせず、自分の海外経験を1つ差し込む。
どの型でも、評価されるのは「立派な意見」ではなくその子にしか書けない具体です。「多様性は大切だと思います」は誰でも書ける。「転校初日に隣の席の子が自分の名前を10回聞き直してくれた」は、その子にしか書けません。帰国生の作文は、海外経験という他の受験生が持っていない在庫を持っているのが最大の強みです。練習の半分は、この在庫を思い出して言葉にしておく作業だと考えてください。
書いたものを外に出す場をつくるのも有効です。海外子女教育振興財団(JOES)が毎年実施している「海外子女文芸作品コンクール」には作文・詩・短歌・俳句の部門があり、海外で日本の小・中学生にあたる学習をしている子どもが対象です。学校(日本人学校・補習授業校など)でまとめて応募するほか、個人での応募も受け付けています。応募時期・要項は年度によって変わるので、必ず主催者の公式ページでご確認ください。締切という締めがあるだけで、原稿用紙に向かう理由になります。
書けるようになる練習の順番――いきなり原稿用紙に向かわない
作文が苦手な子に「400字書きなさい」と原稿用紙を渡すのは、泳げない子をプールの真ん中に置くのと同じです。順番があります。
- まず話す:お題について3分しゃべってもらう。書く前に、頭の中の在庫を口で出しきる。
- 話した内容を口で構成する:「いちばん言いたいことは?」「その場面をひとつ選ぶと?」「それで何が変わった?」と3つだけ聞く。これが構成メモになる。
- 短い段落を1つ書く:100〜150字。1段落が書ければ、あとは足し算です。
- 400字にする:主張・具体・気づきの3段構成に並べる。日本語の作文はこの3段でほぼ足ります。
- 原稿用紙に清書する:ここで初めてマス目の作法と字数感覚を身につける。手書きの速度も測る。
- 推敲は「書き言葉に直す」だけ:「すごい→非常に」「〜とか→〜など」「なので→そのため」。話し言葉を1つずつ置き換える作業に絞ると、子どもが自分でできます。
家庭でできることも多いです。①週に1本、400字だけ書く日を決める(毎日でなくていい)。②書いたら必ず声に出して読む(不自然な文はほぼ耳で見つかります)。③家族が「どこがよかったか」を先に言う(直すのはその後)。④日記でも読書感想でもなく「お題」で書く(入試も授業もお題が出る形式です)。⑤書けなかった漢字だけを集めたノートを作る。学年相当の漢字を止めない話は帰国が決まったら最初にやる国語の準備もあわせてどうぞ。
添削は誰に見てもらうか――4つの選択肢を正直に比べる
作文は、書きっぱなしでは伸びません。読み手がいて、返ってくるから伸びる技能です。ではその読み手を誰に頼むか。EDUBAL・TCK Workshop・帰国生のミカタなどのオンライン家庭教師には帰国受験の添削実績があり、大手の帰国生コースには志望校別のノウハウがあります。その価値を認めたうえで、性格の違いを並べます。

| 家庭で見る | オンライン家庭教師(1対1添削) | 帰国生塾の作文講座 | ともだちじゃぱん | |
|---|---|---|---|---|
| 向いている場面 | 書く習慣づくり・低学年 | 志望校が決まってからの個別最適 | 受験直前の志望校別対策 | 受験の前段階=書く力そのものを育てる |
| 読み手 | 保護者(評価がぶれやすい) | 担当講師1人 | 講師+同じ塾の受験生 | 日本の現役水準の教員+同世代の仲間 |
| 書き言葉の指導 | 直し方が分からないことも | 依頼内容しだい | 受験の型に最適化 | 学年相当の語彙・漢字・記述をまとめて |
| 頻度・量 | 続けば強いが続きにくい | 回数分だけ | 講座の日程どおり | 通い放題で何度でも書いて読み合う |
| 費用のめやす | 教材費のみ | 1回数千円〜(積み上げ) | 各塾に要問い合わせ | 月24,800円(税込・通い放題) |
ともだちじゃぱんは「書いて、読み合う」場をつくります
ともだちじゃぱんは、国内最大級のオルタナティブスクール「NIJINアカデミー」(在籍1,000名超)を運営する株式会社NIJINのオンライン日本語スクールです。講師は採用合格率およそ2%の選抜を経た、今の日本の教室を知る現役水準の教員。だから「作文を上手にする裏ワザ」ではなく、学年相当の語彙・漢字・段落・記述を、日本の授業と同じ順番で積み上げます。

そして作文にとって決定的なのが、8人制の少人数クラスに担任がつくという形です。1対1の添削では「先生に直してもらう」で終わりますが、少人数なら書いたものを同世代の友達に読んでもらえる。「ここ面白かった」と言われた一文は忘れませんし、人の作文を読むことは自分の書き方の在庫を増やします。作文は読み手がいると伸びる――その読み手が日本に住む同世代の子どもたちであることが、うちのいちばんの強みです。

料金は通い放題で月24,800円(税込)。平日の夜=現地の放課後の時間帯に通えるので、土曜は家族に返せます。ただし正直に申し上げると、受験直前の志望校別対策は帰国生専門塾のほうが強いと考えています。志望校の出題形式に合わせた仕上げは塾に任せ、その手前にある「日本語で考えて書ける土台」をうちで作る――この併用がいちばん現実的です。国語全体の見取り図は帰国子女の国語(総まとめ)にあります。
まずは今の学年とのギャップを確認したい方へ。1分でできる学年相当・国語力チェック(無料)で、お子さんの「学年の穴」の目安がわかります。海外での国語・日本語の続け方は海外駐在×子どもの国語・日本語 完全ガイドにまとめています。
よくある質問
帰国子女の作文対策は、いつから始めればいいですか?
受験を意識するなら本番の1年前が目安ですが、書く力そのものは前倒しで始めるほど有利です。作文は暗記科目ではなく、書いた回数だけ伸びる技能だからです。受験学年でなくても、週に1本400字を書いて誰かに読んでもらう習慣があれば、それだけで土台になります。帰国が決まってからの動き方は帰国が決まったら最初にやる国語の準備を参考にしてください。
作文のテーマは、海外経験を書けば有利になりますか?
海外経験は他の受験生が持たない材料なので強みですが、「海外にいました」という事実だけでは評価されません。大事なのは、その経験から何に気づき、これからどうしたいかまで書けているか。また、海外と直接関係のないお題が出ることもあります。型を1つに決め打ちせず、いくつかの「自分の話せる具体」を用意しておくのが安全です。
英語のエッセイは書けるのに、日本語の作文だけ書けません。
とても多いご相談です。原因は構成力ではなく、日本語の型と書き言葉の在庫にあります。英語で身につけた「主張→根拠→結論」の設計図はそのまま資産なので、そこに日本語の作文が求める具体的な場面描写と、接続詞・書き言葉の語彙を足していけば一気に形になります。むしろ英語のエッセイが書ける子は、伸び始めると速いです。
記述問題が苦手です。作文の練習で改善しますか?
つながります。記述は「本文の言葉を使って、字数内で、聞かれたことに答える」作業で、作文で鍛える要点を1文にまとめる力がそのまま効きます。ただし記述には読解の土台も必要なので、語彙と漢字の学年配当を止めないことが前提です。背景は帰国子女が国語を苦手にする理由で詳しく解説しています。
帰国生塾に通っています。併用する意味はありますか?
あります。塾は志望校の出題形式に合わせた仕上げが得意で、そこは無理に置き換えないほうがよいと考えています。一方で、書く量そのものを増やしたい・読み手がほしい・受験が終わったあとの授業でも困らない力をつけたい、という部分はうちが担えます。大学段階の小論文まで見据える方は帰国子女の大学受験もご覧ください。
作文は、読んでくれる人がいると伸びます。
ともだちじゃぱんは2026年12月に開校(パイロット)予定です。開校情報と体験会のご案内を、事前登録の方へいちばんにお届けします。

