申し込みのメールを書きかけて、送信ボタンの手前で止まる。先生は忙しいのに、数週間だけの子のために手間をかけさせていいのだろうか──。一時帰国 体験入学 迷惑と検索する人がいるのは、この一瞬があるからだと思います。
この記事では、気持ちの話ではなく事実で答えます。自治体と学校が公開している文書には、受け入れにあたって何が起きるのか、どういう場合に断るのか、かなりの部分が書かれています。読んでみると、答えははっきりしていました。迷惑ではありません。ただし「学校が受け入れられる条件の中に収まっているか」がすべてです。

罪悪感の正体は、たぶん「制度が無いこと」です
文部科学省は一時帰国の家庭向けFAQ(2020年5月1日付)で、こう書いています。
いわゆる「体験入学」は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです。
権利として請求できるものではない。だから「お願いする」形になり、そこに後ろめたさが生まれます。この感覚自体は正確です。実際に受け入れる側も、そう認識しています。川崎市のある市立小学校は、受け入れの案内文でこう書いています。
本校の本来の責務は、現在在籍している児童の教育活動を安全かつ円滑に遂行することにあります。(中略)一時帰国子女の体験入学は正式な転入学とは異なり、法令に基づいたものではなく、学校の裁量と判断によるものです。
はっきりしています。だからこそ、次の一文が効いてきます。同じ学校が、受け入れの意味もあわせて書いているのです。それは後半で紹介します。まず、学校側に実際に何が発生するのかを見ます。
受け入れる学校側に、実際に発生すること

推測ではなく、公式文書に書かれているものだけを挙げます。
- 受け入れ可否の協議と決定:安来市は「いただいたメールの内容をもとに、教育委員会と学校とで受入れの可否について協議をします」「原則1日〜1か月以内で校長が決定します」。京都市も校長が教育委員会と協議して許可する形です。
- 事前の面接・訪問:市川市は「指定日時に本人・保護者で学校と面接」、神戸市は「体験入学願」提出後に校長面談、茅ヶ崎市は開始3営業日前までの事前訪問を求めています。
- 給食の食数の追加発注:世田谷区は「給食については、事前に食材の発注が必要なため、学校へ連絡する際にお早めにお申し出ください」。
- 教科書・教材の調達:台東区・品川区は「教科書については、就学してからの注文のため、就学期間中に提供できない場合があります」。前掲の川崎市の小学校は教科書を「コピー等で対応します」としており、担任の作業が発生します。
- アレルギー対応の判断:町田市は「食物アレルギーの対応が必要な場合、医療機関の受診や食物アレルギー面談など、1か月以上の時間を要する場合があります」。
- 保険加入の手続き:災害共済給付に加入する自治体では、掛金の徴収と加入処理を学校で行います。
なお、机や椅子の準備、クラスへの事前説明、名簿の処理といった校内の運用については、自治体の公式サイト上に明示的な記述を見つけられませんでした。あって当然のように思えますが、書かれていない以上ここでは断定しません。
「1人ぶん増やすだけ」ではない、給食の話
申込期限が2か月前という自治体があると聞くと、大げさに感じるかもしれません。理由の一端は給食にあります。
北九州市は「1日当たり約70,000食の給食を調理しているため、使用する食材の量も多く、原則として給食を実施する日の20日前に食数を確定しています」と公表しています。摂津市の教育委員会は発注の流れをこう説明しています。見積もり依頼のために前々月半ばにおよその食数が必要、発注のために前月10日までに確定した食数が必要、発注後の変更は納品予定日の1週間前まで。長泉町の給食センターは「食材発注の都合上、給食停止(再開)には3日かかります」「連続して学校を休む日が4日以下の場合、事前に行う食材の発注に対応が出来ないため、停止の対象になりません」としています。川崎市も「毎日約11万食分の食材を調達していることから、給食食材の発注変更には一定の期間を要します」と説明しています。
つまり「1食増やす」は、当日や前日には物理的にできないのです。期限を守ることは、遠慮するよりずっと実質的な配慮になります。
アレルギーがある場合はさらに深刻です。今回調べた範囲では、食物アレルギーがある体験入学生に給食を提供する自治体はほぼ無く、弁当持参が原則でした。町田市の「1か月以上の時間を要する場合があります」という記述のとおり、夏休みの2週間ではそもそも間に合いません。
断られる条件は、公開されています
ここが今回いちばん伝えたいところです。「迷惑かどうか」を想像で悩むより、公開されている条件を読むほうが早いのです。
| 断られる理由 | 公式に書かれていること |
|---|---|
| 学校の体制・施設 | 芦屋市「学校改修等による工事や学校行事、学級数や職員の受け入れ体制等により、受け入れができない場合があります」/荒川区「学校運営上または施設の受入状況等から希望に添えないことがあります」 |
| 時期 | 茅ヶ崎市「4月から5月、2月から3月は学校での受け入れができません」/荒川区「年度末・年度始め(3〜4月)は原則として受入れを行っていません」 |
| 行事・テスト | 茅ヶ崎市「テスト期間中や運動会・体育祭を含む校外活動等の行事がある場合、その他学校の業務繁忙期等」/さいたま市「定期テスト等との兼ね合い等により」 |
| 人数 | 茅ヶ崎市「希望者が一定数を超える場合はお断りすることがあります」(数値基準の公表は確認できず) |
| 日本語の理解 | 世田谷区・府中市「日本語が理解でき、学校運営に支障がないこと」/品川区「日本語が理解できること」 |
| 滞在先 | 品川区「友人宅やホテル(民泊を含む。)に滞在する場合は就学を認めない」/三鷹市もホテル・ウィークリーマンション滞在は不可 |
| 開始後の中止 | 吹田市「受入開始後であっても中止する場合があります」/安来市「学校生活に適応できない、またはクラス運営に支障が生じた場合は、期間中であっても体験入学をお断りする場合があります」 |
| そもそも実施していない | 品川区「体験入学は実施しておりません」/文京区「体験入学での受け入れはおこなっておりません」/台東区「体験入学という制度はありません」/練馬区「『体験入学』にあたる制度はありません」/札幌市「体験入学という制度は設けておりません」 |
これらは断るための条件であると同時に、受け入れられる条件でもあります。時期を外し、期限を守り、日本語で授業についていけて、滞在先が区域内の自宅か親族宅であれば、多くの自治体では受け入れの土俵に乗ります。
保険は、市によって正反対になっています
気を遣うべき本当のポイントは、実はここです。学校でケガをしたときの日本スポーツ振興センター(JSC)の災害共済給付について、自治体の案内が割れています。

JSCは公式のよくある質問で、「一時帰国した生徒が2か月ほど本校へ通学することになりましたが、災害共済給付制度に加入することはできますか?」という問いに「原則、当該校に在籍をする場合は加入対象になりますが、一般の生徒と同様の授業を受ける場合についても加入できます」と答えています。同じFAQで一時保育の児童については「加入することはできません」と明確に否定しているので、一時帰国生は意図的に別扱いされていることが分かります。
それでも、茅ヶ崎市は「日本スポーツ振興センター災害保険に加入できないため、事故等による医療費等は、自己負担です」、豊中市は「原則、日本スポーツ振興センターの災害共済への加入はできません」、姫路市は「自己負担となりますので、旅行保険や個人保険等に加入されることをお勧めします」と案内しています。反対に吹田市は「任意で加入することができます(保護者負担額460円/年額)」、市川市・我孫子市・さくら市・宝塚市なども加入を案内、京都市は「加入は、可能である(例外あり)」、神戸市は費用を保護者負担する前提で加入としています。
さらに知っておきたいのが給付の範囲です。災害共済給付は医療費・障害見舞金・死亡見舞金の3種類だけで、他人にケガをさせた・物を壊したといった賠償責任は対象外。医療費の給付も「療養に要する費用の額が5,000円以上」からで、軽いケガは自己負担です。加入できる自治体であっても、海外旅行保険の治療費用特約と個人賠償責任保険を確認しておくのが現実的です。茅ヶ崎市自身が「旅行保険や個人賠償責任保険等に加入しておくことをお勧めします」と書いています。
お礼やお土産は、どうすればいいのか
結論を先に言うと、公的にはどこにも書かれていません。今回、体験入学の要綱・ガイドライン・案内ページを30以上あたりましたが、お礼・謝礼・贈答品・お土産に言及した記述は1件も見つかりませんでした。「お礼の品はご遠慮ください」と書いている教育委員会も、公的ドメインでは見つけられませんでした。
「受け取ってはいけない決まりがあるのでは」と心配する必要も、基本的にはありません。大阪府教育委員会の綱紀保持Q&Aは「生徒や保護者は一般には利害関係者に該当しません」としています(ただし懲戒や修了認定などを判断する過程では利害関係者になることがある、とも書かれています)。和歌山県教育委員会の倫理規則の解説も同様で、利害関係者に当たる保護者を高校入試の受検生の保護者・修了認定に係る生徒の保護者・懲戒処分を行おうとする生徒の保護者に限定しています。つまり、体験入学で受け入れた児童の保護者は形式的にはここに入りません。
とはいえ学校ごとの慣行は公開情報からは分かりません。お礼の品を用意するより、公式に書かれていることを守るほうが、学校にとっては実質的な負担軽減になります。締切に間に合う申込、正確なアレルギーの申告、欠席の連絡。学校が公式に困ると書いているのは受け入れそのものではなく、この3つが崩れることです。

受け入れる側は、迷惑だとは書いていません
最後に、いちばん伝えたい事実です。受け入れる側の公式文書は、体験入学を負担としてだけ書いていません。
仙台市は「現在在籍している児童生徒の教育に支障が生じない限り、仮入学(体験入学)として受け入れを行っております」と、受け入れる姿勢を先に書いています。前半で引用した川崎市の市立小学校は、自校の責務を明記したうえで、続けてこう書いています。
体験入学を、在校生にとっても「生きた国際理解教育」の貴重な機会であると捉えています。
同校は、受け入れた子どもに滞在国の生活や学校の様子を紹介してもらう「ミニ発表」の場を設けたいとまで書いています。お客さんではなく、教育の資源として迎えているということです。
国の文書も、この方向を裏づけています。小学校学習指導要領(平成29年告示)の総則は「海外から帰国した児童などについては、学校生活への適応を図るとともに、外国における生活経験を生かすなどの適切な指導を行うものとする」と定め、その解説は帰国児童について「他の児童が経験していない異文化での貴重な生活経験をもっている」とし、他の児童についても「互いの長所や特性を認め、広い視野をもって異文化を理解し共に生きていこうとする姿勢を育てるよう配慮することが大切」としています。文部科学省の「外国人児童生徒受入れの手引き」は、負担感の存在を認めたうえでこう書いています。
「大変だ」、「面倒だ」などとマイナスに捉えてしまう場合も少なくないようです。しかし、外国人児童生徒等を学級に受け入れることは、在籍学級の児童生徒にとっても多様な価値観や文化を知り、成長できる大きなチャンスであり、学級を豊かにしてくれるプラスの出来事だということを理解しておきましょう。
※これらの国の資料が主に想定しているのは本帰国する帰国児童生徒であって、一時帰国の短期体験入学を名指ししたものではありません。両者をつないでいるのは、川崎市の小学校のような学校側の実際の文書です。そこは正確に区別しておきます。
遠慮より、準備。ではその準備とは
まとめると、やるべきことは4つです。
- 時期を外す。年度末・年度始め、定期テスト、運動会・体育祭、宿泊行事の前後を避ける。自治体が公開している「受け入れできない期間」をまず読む。
- 締切から逆算する。2か月前を目安に動けば、ほとんどの自治体に間に合います。給食の食数は20日前に確定していることがあります。
- アレルギーは最初に、正確に伝える。対応の判断に1か月以上かかる例があります。弁当持参になる前提で計画する。
- 保険を自分で確認する。災害共済に加入できるかは市によって正反対。加入できても賠償責任はカバーされません。
そしてもうひとつ。数週間の体験入学が届かない場所を、先に埋めておくことです。教室に座ったときに困るのは、たいてい国語です。話せるのに、教科書の文章が読めない。板書の漢字が書けない。授業のスピードについていけない。これは能力ではなく、触れた量の差です。
私たちともだちじゃぱんは、そこを埋めるためのオンラインスクールです。日本の現役水準の教員が、8人の少人数クラスで学年相当の国語を教えます。月額定額で通い放題。近くに補習授業校があるなら、まずそちらが確実です。土曜が使えない、通える距離にない、レベルが合わない──そういうご家庭の受け皿として、あるいは併用先として使っていただいています。
そして、日本の同世代がクラスメイトとして毎日そこにいます。次に一時帰国したとき、会いたい人がいる状態を先につくっておく。そうすると体験入学は、遠慮しながらお願いするものではなく、会いに行くついでのものになります。
よくある質問
一時帰国の体験入学は、学校にとって迷惑ですか?
迷惑だと書いている自治体・学校は見つかりませんでした。仙台市は「現在在籍している児童生徒の教育に支障が生じない限り、仮入学(体験入学)として受け入れを行っております」としています。川崎市のある市立小学校は、体験入学を「在校生にとっても『生きた国際理解教育』の貴重な機会」と位置づけ、滞在国の様子を紹介する「ミニ発表」の場まで用意すると書いています。ただし同じ文書は「法令に基づいたものではなく、学校の裁量と判断によるもの」とも明記しており、条件に収まっているかどうかが判断の基準になります。
どういう場合に断られますか?
断られる条件は公開されています。茅ヶ崎市は「4月から5月、2月から3月は学校での受け入れができません」「テスト期間中や運動会・体育祭を含む校外活動等の行事がある場合」「希望者が一定数を超える場合」。芦屋市は「学校改修等による工事や学校行事、学級数や職員の受け入れ体制等により」。品川区は「友人宅やホテル(民泊を含む。)に滞在する場合は就学を認めない」。吹田市は「受入開始後であっても中止する場合があります」としています。そもそも体験入学を実施していない自治体(品川区・文京区・台東区・練馬区・札幌市など)もあります。
なぜ申し込みが1〜2か月前なのですか?
給食の食材発注が大きな理由のひとつです。世田谷区は「事前に食材の発注が必要なため、学校へ連絡する際にお早めにお申し出ください」と明記。北九州市は「1日当たり約70,000食の給食を調理しているため、原則として給食を実施する日の20日前に食数を確定しています」。摂津市は「前月10日まで」に確定食数が必要とし、長泉町は「連続して学校を休む日が4日以下の場合、事前に行う食材の発注に対応が出来ないため、停止の対象になりません」としています。1食の追加は当日にはできません。
先生にお礼の品を渡したほうがいいですか?
公式には何も定められていません。体験入学の要綱・ガイドライン・案内ページを30以上調べましたが、お礼・謝礼・贈答に言及した公的な記載は1件も見つかりませんでした。「受け取れない決まり」があるわけでもなく、大阪府教育委員会の綱紀保持Q&Aは「生徒や保護者は一般には利害関係者に該当しません」としています。ただし学校ごとの慣行は公開情報からは分かりません。お礼の品より、締切を守ること・アレルギーを正確に伝えること・欠席を連絡することのほうが、学校にとっては実質的な負担軽減になります。
学校でケガをしたときの保険はどうなりますか?
自治体によって正反対なので、必ず確認してください。日本スポーツ振興センターは公式FAQで「一般の生徒と同様の授業を受ける場合についても加入できます」としていますが、茅ヶ崎市は「加入できないため、事故等による医療費等は、自己負担」、豊中市も「原則、加入はできません」と案内。吹田市は年額460円で任意加入できます。加入できる場合も、給付は医療費・障害見舞金・死亡見舞金のみで賠償責任はカバーされず、医療費は総額5,000円以上からです。海外旅行保険の治療費用特約と個人賠償責任保険をあわせてご確認ください。
食物アレルギーがあります。給食は食べられますか?
ほとんどの自治体で対応不可=弁当持参になります。今回調べた範囲では、体験入学生の食物アレルギーに給食で対応する自治体は確認できませんでした。茅ヶ崎市は「食物アレルギー等ある場合は、給食利用できません」と明記しています。町田市は対応の判断に「医療機関の受診や食物アレルギー面談など、1か月以上の時間を要する場合があります」としており、短期の滞在では時間的に間に合いません。申し込みの最初の段階で正確に伝えてください。

