海外で生まれたお子さんが日本ともう一方の国籍を持っている。一時帰国のたびに、二重国籍の子供のパスポートをどう使い分ければいいのか迷う——というご相談はとても多いです。空港のカウンターで慌てないために、根拠のある部分と、公式には書かれていない部分を分けて整理します。結論を先に言うと、日本に出入りするときの根拠は入管法第60条・第61条にあり、日本の旅券がないときは「日本の国籍を有することを証する文書」で足りるという設計になっています。そしてもう一方の国の側にも、その国の旅券を使うよう求める法律がある場合があります。だから多くのご家庭が2冊を使い分けることになります。
はじめにお断りです。当社は教育事業者であり、行政書士・弁護士ではありません。この記事は現行の条文と公式ページの記述を整理したもので、個別のケースの可否は在外公館・法務局・お住まいの市区町村にご確認ください。記載はすべて2026年9月8日時点のものです。

日本に出入りするときの根拠条文
出入国管理及び難民認定法(入管法)は、日本人の出国と帰国をそれぞれ次のように定めています。
第六十条 本邦外の地域に赴く意図をもつて出国する日本人は、有効な旅券を所持し、その者が出国する出入国港において、法務省令で定める手続により、入国審査官から出国の確認を受けなければならない。
第六十一条 本邦外の地域から本邦に帰国する日本人は、有効な旅券(有効な旅券を所持することができないときは、日本の国籍を有することを証する文書)を所持し、その者が上陸する出入国港において、法務省令で定める手続により、入国審査官から帰国の確認を受けなければならない。
出入国管理及び難民認定法 第60条第1項・第61条(e-Gov法令検索の現行条文・2026年9月8日確認)
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ここで正確に読んでおきたいのは、条文には「日本の旅券」とは書かれていないことです。入管法第2条第5号の「旅券」の定義には、日本国政府だけでなく「日本国政府の承認した外国政府」が発行した旅券も含まれます。ですので「法律上、日本のパスポートでなければならない」と断定するのは条文の読み方として正確ではありません。実務上どう扱われるかは、出入国在留管理庁がQ&Aで示しています。
Q. 日本と外国の二重国籍ですが、日本のパスポートを所持していません。日本人として帰国したいのですが、外国のパスポートのみで大丈夫ですか。
出入国在留管理庁「出入国審査・在留審査Q&A」Q16(2026年9月8日閲覧)
A. 発行後6か月を経過していない戸籍謄本等の証明資料を御提示いただき、日本国籍をお持ちであることが確認できれば、日本人として帰国していただけます。
つまり外国旅券だけで自動的に通れる、という話ではなく、外国旅券+日本国籍を証明する書類という組み合わせです。第61条の「日本の国籍を有することを証する文書」に対応した運用です。なお証明できなかった場合にどう扱われるかについては、公式に説明が見当たりません。ここを当てにした運用は避けたほうが安全です。また日本国籍のある人は入管法上の「外国人」(第2条第1号=日本の国籍を有しない者)ではないため、在留資格やビザの対象にもなりません。
もう一方の国にも、同じような決まりがあることがあります
日本側だけ考えていると足をすくわれます。たとえばアメリカは、米国市民に対して米国旅券での出入国を法律で求めています。在外の米国大使館・総領事館は次のように説明しています。
If you are a U.S. citizen you must, by law, enter and depart the United States on a valid U.S. passport, regardless of age or possession of foreign passports.
U.S. Embassy & Consulates in Australia「Dual Nationality」(2026年9月8日閲覧)。根拠として 8 U.S. Code §1185 を挙げています。
同じページには、米国市民は米国のビザの対象にならず(ビザ免除プログラムで外国旅券で入国することもできない)、入国審査官には罰金を科したり入国を拒否したりする権限があるとも書かれています。「外国で生まれたことや、外国籍の親を通じて自動的に外国籍を取得しても、米国籍には影響しない」とも明記されています。
結果として、日米の二重国籍のお子さんは「日本の出入国は日本の旅券、米国の出入国は米国の旅券」という2冊運用になります。どちらの国の決まりも自分の国の出入国について定めているので、矛盾はしません。ご家庭のもう一方の国がどうなっているかは、その国の政府の公式ページで必ず確認してください。国によって扱いは異なります。

日本の旅券を持つには、まず戸籍に載っていること

日本の旅券は、戸籍に記載があることが前提の仕組みになっています。旅券法第3条第1項は、発給の申請にあたって申請書に戸籍謄本等を添えることを定めています(国外では領事官に対して申請します)。外務省の必要書類の案内でも、在外公館での新規申請には「戸籍謄本(全部事項証明書)(原本を必要とします)1通」が挙げられ、申請日前6か月以内に発行されたものという条件がついています。
そして、その戸籍に載るための入口が出生届と国籍留保です。国籍法第12条は「出生により外国の国籍を取得した日本国民で国外で生まれたものは、戸籍法の定めるところにより日本の国籍を留保する意思を表示しなければ、その出生の時にさかのぼつて日本の国籍を失う」と定め、戸籍法第104条が期限を出生の日から3か月以内・出生の届出とともにと定めています。外務省も「この届出期限を過ぎますと日本国籍を失いますので、日本側への出生届はできません」と明記しています。
この順番を図にすると、出生届+国籍留保 → 戸籍に記載 → 戸籍謄本が取れる → 日本の旅券が申請できるという一本道です。最初の3か月でつまずくと、あとの全部が動きません。出し忘れた場合の救済については海外での出生届を出し忘れたらで、条文の救済規定まで整理しています。
| 手続き | 期限・条件 | 根拠 |
|---|---|---|
| 出生届+国籍留保 | 出生の日から3か月以内。国籍留保は出生届とともに | 国籍法12条/戸籍法104条1項・2項 |
| 日本の旅券(新規・在外公館) | 申請書・戸籍謄本(発行後6か月以内)・写真(縦45mm×横35mm・6か月以内撮影)ほか | 旅券法3条1項/外務省の必要書類案内 |
| 有効期間 | 18歳未満は5年旅券のみ(18歳以上は10年) | 旅券法5条1項ただし書 |
| 法定代理人の署名 | 未成年の申請は「親権者である両親のいずれか一方の申請書裏面の『法定代理人署名』欄への署名」 | 外務省「未成年者の旅券発給申請における注意点」 |
なお外務省は、子どもの連れ去りを犯罪としている国にある在外公館では、もう一方の親権者の不同意の意思表示がない場合でも、両親権者の同意の有無を口頭で確認しているとも案内しています。国際結婚のご家庭では、この点も知っておくと窓口で驚かずに済みます。
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手数料は2026年7月1日に変わりました(古いページに注意)
旅券の手数料は2026年7月1日申請分から改定されました。政府広報オンラインの案内によると、国内での合計額は10年旅券がオンライン8,900円・窓口9,300円、5年旅券(7月1日以降は18歳未満に限る)がオンライン4,400円・窓口4,800円です。そして重要なのが、「12歳未満」の料金区分が廃止されたことです。
在外公館の手数料は現地通貨建てで、毎年4月1日に改定されると案内している公館があります。ここで実際に起きているのが、公館ごとの更新のばらつきです。2026年9月8日時点で、7月1日以降の額に更新されている公館がある一方、すでに廃止された「12歳未満」の区分をそのまま掲載している公館ページも残っています。金額は必ず、ご自身が申請する公館のページで直前に確認してください。
ついでに一つ、実務で効く豆知識を。外務省は「年齢計算は、法律により、申請者の誕生日の前日の申請手続から1歳加算して取り扱われます」と案内しています。18歳の誕生日前後に申請するときは、この1日の差で5年旅券か10年旅券かが変わります。

「いつか選ぶ日」の期限は20歳です
二重国籍のお子さんには、いずれ国籍を選ぶ期限が来ます。ここは間違った数字がインターネット上に大量に残っているところなので、現行条文をそのまま引きます。
外国の国籍を有する日本国民は、外国及び日本の国籍を有することとなつた時が十八歳に達する以前であるときは二十歳に達するまでに、その時が十八歳に達した後であるときはその時から二年以内に、いずれかの国籍を選択しなければならない。
国籍法 第14条第1項(e-Gov法令検索の現行条文・2026年9月8日確認)
生まれたときから二重国籍のお子さんは「20歳に達するまで」です。「18歳まで」でも「22歳まで」でもありません。ただしここに落とし穴があって、「22歳」と書いてあるページがすべて古いわけではありません。2022年4月1日の時点で20歳以上だった人には経過措置として22歳までという扱いが今も有効で、外務省もそう案内しています。「22歳」の文字を見ただけで古い記述だと決めつけない——これが、この分野の情報を読むときのコツです。
期限を過ぎた場合は、法務大臣が書面で国籍の選択を催告することができ(国籍法15条1項)、催告を受けた日から1か月以内に日本の国籍を選択しなければ、その期間が経過した時に日本の国籍を失うと定められています(同条3項)。所在が分からない場合は官報への掲載による催告もあり、その場合は掲載の翌日に到達したものとみなされます。
では、期限が来るまで二重国籍のまま日本の旅券を持っていることは違法なのでしょうか。法務省・外務省の公式ページを読むかぎり、違法である・罰則があるという記述は見当たりません。書かれているのは第14条の選択義務と、第15条の催告と国籍喪失という効果だけです。むしろ在外公館の出生届の案内には「国籍留保して日米の二重国籍となったお子さんは、20歳までにいずれかの国籍を選択する必要があります」と、期限内の二重国籍状態を前提にした説明が置かれています。なお、旅券の申請書に他国の国籍や旅券の有無を申告する欄・注意書きがあるという記述も、公式には見当たりませんでした。
日本に帰る日まで、日本語を切らさない
パスポートの話は手続きですが、その先には必ずお子さんが日本でどう過ごすかがあります。文部科学省は、就学義務について「重国籍者であっても日本の国籍を有する学齢児童生徒の保護者は、就学義務を負うことになります」と明記しています。日本に生活の本拠を移せば、二重国籍のお子さんも日本の学校に通うことになります。
そのとき効いてくるのが、日本語です。家庭の会話は続いていても、教室で使う日本語——説明文を読む、理由を述べる、話し合いに入る——は、意識して積まないと育ちません。ともだちじゃぱんは、日本の現役水準の先生が学年相当の国語を見て、日本にいる同世代と8人の少人数クラスで毎日話すオンラインの学校です。「いつか帰るかもしれない」が「来年帰る」に変わったときに慌てないための、日常の側の備えを受け持ちます。
よくある質問(二重国籍の子どものパスポート)
日本に入国するとき、日本のパスポートは必要ですか?
入管法第61条は「有効な旅券(有効な旅券を所持することができないときは、日本の国籍を有することを証する文書)を所持し…帰国の確認を受けなければならない」と定めています。出入国在留管理庁のQ&Aでは、日本の旅券がない場合でも「発行後6か月を経過していない戸籍謄本等の証明資料」で日本国籍が確認できれば日本人として帰国できると案内されています。ただし条文と運用のとおりに準備するなら、日本の旅券を持っておくのがいちばん確実です。
2冊のパスポートを持っていても大丈夫ですか?
日本の公式ページに、期限内の重国籍で日本の旅券を持つことが違法だという記述は見当たりません。書かれているのは国籍法14条の選択義務と、期限を過ぎた場合の催告・国籍喪失(15条)です。一方でもう一方の国の決まりは別で、たとえば米国は米国市民に米国旅券での出入国を法律で求めています。両国の決まりをそれぞれ確認してください。
子どものパスポートは何年有効ですか?
旅券法第5条第1項ただし書により、18歳未満は5年旅券のみです(18歳以上は10年)。2026年7月1日以降は、18歳以上による5年旅券の申請と、18歳未満による残存有効期間同一旅券の申請はいずれも不可となったと案内している公館があります。なお「12歳未満」という料金区分は2026年7月1日に廃止されました。
戸籍に載っていない子どもは、日本のパスポートを取れますか?
旅券法第3条第1項は、申請書に戸籍謄本等を添えることを定めています。「戸籍に記載がなければ発給されない」と直接書いた公式の一文は見当たりませんが、新規申請に必要な戸籍謄本が用意できない、という関係になります。海外で生まれたお子さんは、出生の日から3か月以内の出生届と国籍留保が入口です(国籍法12条・戸籍法104条)。
国籍を選ぶ期限はいつですか?
国籍法第14条第1項により、18歳に達する以前に重国籍となった場合は20歳に達するまで、18歳に達した後に重国籍となった場合はその時から2年以内です。なお2022年4月1日時点で20歳以上だった人には22歳までという経過措置があり、この「22歳」は現在も有効な記述です。年齢の数字が違うページを見かけたら、法改正か経過措置か、発行日で見分けてください。
一時帰国のとき、どちらのパスポートで航空券を取ればいいですか?
日本の出入国は日本の旅券、もう一方の国の出入国はその国の旅券、という2冊運用が基本です。ただし航空券の名義と旅券の綴りの一致について、日本の公式ページに具体的な記述は見当たりません。2冊でローマ字の綴りが異なる場合の扱いも含めて、航空会社と、渡航先の国の公式情報でご確認ください。一時帰国そのものの準備は児童手当は海外転出でどうなるや、帰国時の編入・転入手続きの流れもあわせてご覧ください。
まとめ
二重国籍のお子さんのパスポートは、①日本の出入国は入管法60条・61条が根拠で、旅券がないときは日本国籍を証する文書 ②もう一方の国にも同種の決まりがあることが多く、実際には2冊運用になる ③日本の旅券は戸籍が前提で、その入口は出生から3か月の出生届と国籍留保 ④18歳未満は5年旅券・手数料は2026年7月1日改定 ⑤国籍選択の期限は原則20歳——この5点で整理できます。
そして、公館のページでも古い年齢や廃止された料金区分が残っていることがあります。金額と年齢は、申請する公館の最新ページで必ず確認してください。



