海外に住んでいて、夏や年末に日本へ帰る。せっかくだから、そのあいだ子どもを日本の学校に通わせたい。そう思って「一時帰国 学校に通う」と検索し、次に自分の実家の市の名前を足して検索し、そして何も見つからずに手が止まる——この経験をしている方が、たくさんいます。
見つからない理由は、あなたの検索が下手だからではありません。この仕組みには、全国共通の名前がないからです。36の市区町村の公式ページを実際に読んで数えたところ、呼び名は少なくとも7通りに割れていました。しかも「最初にどこへ連絡するか」まで自治体で正反対になります。この記事は、その地図を作る試みです。

まず、国の制度としては存在していない
出発点はここです。文部科学省は、一時帰国者向けのFAQ(2020年5月1日付)でこう書いています。
いわゆる「体験入学」は国の制度としては存在しておらず、正規の編入学とは違い、各教育委員会の裁量によって実施されているものです。「体験入学」を実施していない教育委員会もあれば、実施していても期間や条件が違う場合もあります。
文部科学省「海外から一時帰国中又は一時帰国を予定しているお子様の保護者向けお問合せに寄せられたFAQ」(2020年5月1日付)
恒久的なページのほうにも同趣旨の記述があります。文科省のCLARINETのQ&A(Q12)は「一時的な短期滞在期間中のいわゆる体験入学については、市区町村教育委員会や学校が指導体制等を勘案して、個別に受入れの判断を行っています」としています。
国が制度を作っていないので、名前も様式も統一されていません。制度が「ない」から、名前がバラバラなのです。この一点を理解すると、探し方が変わります。
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実際に数えてみた——呼び名は7通りに割れている
36の市区町村の公式ページを読んで、そのページが使っている正式な呼び名を記録しました。結果はこうです。
| 呼び名 | 使っている自治体の例 | 備考 |
|---|---|---|
| 体験入学 | 茅ヶ崎市・吹田市・市川市・和光市・北本市・鎌倉市・神戸市・芦屋市・宝塚市・可児市・土岐市・白馬村・豊見城市・石垣市・鹿児島市 ほか | いちばん多い。検索語としても定着している |
| 編入学(正式な編入学のみ) | 三鷹市・枚方市・品川区・荒川区・練馬区・立川市・府中市・町田市・中央区・新宿区・杉並区・世田谷区 | 東京に集中している。12自治体で確認 |
| 聴講生 | 京都市 | ページ本文に「体験入学」が一度も出てこない |
| 仮入学 | 福岡市・仙台市 | いずれも括弧書きで「(体験入学)」を併記 |
| 一時受入れ | 横浜市 | 送り仮名なしの独特の表記 |
| 短期通学 | 港区 | URLのスラッグは「tannkisyuugaku」=短期就学 |
| 学校体験 | 三鷹市(「編入学(学校体験)」) | 編入学との複合表記 |
| 区域外就学 | 世田谷区(申請書名)・茅ヶ崎市・立川市・荒川区・和光市・神戸市・宝塚市 | 36件中7件。学校教育法施行令第9条の行政用語 |
ここで注目してほしいのが「区域外就学」です。これは学校教育法施行令第9条にもとづく正式な行政用語で、世田谷区は申請書の名称そのものを「区域外就学申請書(一時帰国)」としています。一般の保護者がこの言葉を知っているはずがありません。でも、この語を知らないと世田谷区の様式にはたどり着けない、という構造になっています。
逆に、解説記事でよく見かけるのに自治体公式では1件も使われていなかった語もあります。「体験就学」「短期入学」「短期就学」は、36自治体の公式ページの制度名としてはゼロ件でした。港区のURLに痕跡があるだけです。これらの語で検索すると、自治体のページには当たりません。

東京に「編入学」が集中している理由
東京23区で「体験入学」の表記が見当たらないのはなぜか。港区が公式に理由を書いています。区民からの質問への回答(教育委員会事務局学校教育部学務課)で、こうしています。
海外からの一時帰国に伴う区立学校への通学については、東京都の体験入学を認めていないという方針に基づき、港区では正式な編入学として取り扱っています。
港区「区民の声」回答(2025年8月28日掲載)
ただし正直に書いておきます。この「東京都の方針」は、東京都教育委員会自身の公式文書としては確認できませんでした。港区以外の22区で都に言及した区もありません。港区がそう説明している、という事実までが確認できる範囲です。
実務への影響ははっきりしています。東京に帰る家庭が「体験入学」で検索すると、ほぼ全滅します。台東区は「体験入学という制度はありません。正式な編入学での受入れとなります」、世田谷区は「体験入学ではありません」、北区は「体験入学という制度はありません。一時的であっても、正式な就学での受け入れとなります」、墨田区・文京区も同様です。これを「うちの区は通えない」と読んでしまうのが、いちばんもったいない誤読です。通えます。名前が違うだけです。
最初に電話する先が、自治体で真逆になる
呼び名と同じくらい実務的に困るのが、入口です。30自治体で「まずどこに連絡するか」を数えました。
- 教育委員会(学務課・学事課・学校教育課など)に連絡=24/30——三鷹市・茅ヶ崎市・吹田市・港区・町田市・北本市・立川市・府中市・品川区 ほか
- 学校(校長)に直接連絡=6/30——横浜市・神戸市・福岡市・仙台市・さいたま市・京都市
多数派は教育委員会です。しかし少数派を軽く見ると詰みます。横浜市は「滞在場所の最寄りの学校に相談して『一時受入れ』の許可を受けてください」「学校の状況等を勘案して学校長が判断します」「許可申請の書式は特に定められていません」。さいたま市にいたっては「体験入学は法令等に基づく正式な就学ではないため市役所・教育委員会での手続きは不要ですが、学校長の許可が必要となります」。教育委員会に電話しても、話が始まりません。
逆方向の事故もあります。埼玉県北本市は、公式ページにこう書いています。「詳細につきましては学校教育課からご連絡いたしますので、学校に直接お問い合わせしないようお願いします」。良かれと思って学校に電話すると、迷惑をかけることになります。
つまり「前に住んでいた市ではこうだった」という経験が、隣の市ではそのまま通用しません。毎回、その自治体のページを読むしかないのです。

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住民票がなくても通える。根拠は文科省が出している
よくある不安が「住民票を抜いてあるから、そもそも通えないのでは」というものです。文部科学省のCLARINET Q&A(Q12)が、これに直接答えています。
住民票がない場合でも、居住の実態がある場合には、市区町村教育委員会に入学を希望し、入学の許可を得ることによって、当該市区町村の公立学校(小・中・義務)に入学することができます。
文部科学省 CLARINET「帰国・外国人児童生徒教育等に関するQ&A」
法令の側も整合しています。学校教育法施行令第1条第2項は「学齢簿の編製は、当該市町村の住民基本台帳に基づいて行なうものとする」としていますが、昭和42年10月2日付の文部省初等中等教育局長通達は「住民基本台帳に記載されていない者であっても、当該市町村に住所を有するものであれば、この者についても学齢簿を編製すること」としています。60年近く前から、住民票がない子の受け入れは想定されているのです。
実際、住民登録なしで受け入れると明記している自治体は多数あります。福岡市「住民登録をせずに福岡市に短期滞在する場合、一時的に仮入学…できます」、鹿児島市「住民登録がなく、短期間の一時帰国で、転入の住民異動届を行わない場合は体験入学をすることができます」、台東区・品川区・練馬区・杉並区・立川市・奈良市・世田谷区・三鷹市も同様です。
ただし、逆のことを書く自治体もある
ここが厄介なところで、判断が真っ二つに割れています。
住民登録がないと受け入れない——中央区「中央区の住民登録がない方は受け入れができません」「中央区立学校の体験入学制度はございません」。新宿区「一時帰国中の体験入学は実施していません。…正式な編入学の手続きが必要」。
逆に、住民登録をすると体験入学の対象から外れる——茅ヶ崎市「帰国の際に住民票の転入届をした場合は…海外からの一時的な帰国とみなすことはできない」。横浜市「※ただし、住民登録をした場合は…編入学になります」。豊見城市も同旨。
そもそも転入届が受理されない——川崎市「海外に居住している方が一時的に帰国した場合で、再び海外の居住地に戻るような場合は、住所は海外の居住地にあるものとして扱います。したがいまして、このような場合には、転入の届出があっても住民登録を受付することができません」。
お気づきでしょうか。川崎市の言い分(一時帰国では転入届を受け付けない)と、中央区の言い分(住民登録がない方は受け入れできない)を同時に満たすことは不可能です。呼び名の分裂は単なる表記ゆれではなく、住民登録の解釈が自治体間で衝突している、その表面に出ているものなのです。

では、どう検索すれば自分の市にたどり着けるのか
実際に3つの自治体で検索を試しました。結果は、けっこう身も蓋もないものでした。
札幌市(市が自前の検索エンジンを持っています)。「体験入学」で検索すると、1位から5位まですべて「シンガポール少年少女交流事業」——海外派遣の話で、一時帰国とは無関係です。「体験就学」「短期入学」は0件。「区域外就学」はいじめ対応のガイドラインや議事録が出てくるだけ。唯一「一時帰国」だけが、3位に正解ページを返しました。そしてその正解ページには「札幌市では体験入学という制度は設けておりません」と書かれています。
京都市。「体験入学 一時帰国」で検索すると、正解ページ(タイトルは「聴講生」)が上位に出ました。本文に「体験」の語が含まれているためです。ただしページ本文に「体験入学」という語は一度も出てきません。
茅ヶ崎市。site指定検索(site:city.chigasaki.kanagawa.jp 一時帰国 体験入学)では正解ページが出ず、site指定を外した一般検索で初めて出てきました。site指定はかえって不利になることがあります。
そこで、36ページ全部の本文に対して語の出現を数えました。
- 「体験入学」が1回以上出るページ=26/30(0回は三鷹市・京都市・港区・町田市)
- 「一時帰国」が1回以上出るページ=27/30(0回はさいたま市・白馬村・石垣市)
- 「体験入学」または「一時帰国」のどちらかが出るページ=30/30
結論はこうです。検索するときは「{市区町村名} 一時帰国 体験入学」と、両方の語を入れてください。片方だけでは3〜4自治体に届きません。両方入れれば、調べた30自治体すべてに当たりました。
もうひとつ実務的な発見を。多くの自治体の「サイト内検索」は、実体がGoogleカスタム検索です。横浜市・名古屋市・世田谷区・広島市・川崎市・千葉市・神戸市・茅ヶ崎市で確認しました(品川区にいたっては、検索フォームの送信先が google.co.jp/search です)。つまりサイト内検索とGoogle検索を別々に試す意味はほとんどありません。自前の検索エンジンを持っていたのは、調べた範囲では札幌市だけでした。
通わせる以外の選択肢も、知っておくと楽になります
短期滞在の日程や自治体の条件が合わず、どうしても通えないことがあります。三鷹市の「21日間以上(長期休業期間は含みません)」、茅ヶ崎市の「6月・7月希望者は4月中の受付のみ」、石垣市の「石垣市出身の方・そのお子さま・そのお孫さま」といった条件は、努力でどうにかなるものではありません。
その場合の受け皿として、海外子女教育振興財団(JOES)の窓口があります。JOESは「ご出国前」「一時帰国中」「ご帰国後」に分けてサービスを案内していて、教育相談(会員は無料、それ以外は初回相談から1年間有効で2回まで10,000円+税)や、毎年7月末に大阪・名古屋・東京で開かれる「帰国生のための学校説明会・相談会」(入場無料、後援=外務省・文部科学省)があります。「海外から帰国または一時帰国された」家庭が対象と明記されています。
また、在外教育施設としては日本人学校が90校(47か国1地域・令和8年4月1日時点)、補習授業校が246校(2026年4月1日現在)あります。ここで注意点をひとつ。文部科学省のCLARINETの解説ページは、2026年8月時点でも「94校(令和6年4月15日現在)」「242校(令和6年7月1日現在)」という古い数字のまま更新されていません。古い数字を載せている記事は、たいていこのページを参照しています。
「通わせる」で解決しないものが、ひとつだけ残ります
ここまで、名前の探し方と入口の見つけ方を書いてきました。でも、うまく通えたご家庭ほど、帰りの飛行機の中で同じことを思います。「この2週間が、あと10か月あればいいのに」。
一時帰国中に日本の学校へ通うのは、日本語と日本の同世代に触れる機会として、とても良いものです。ただ制度そのものが「短期で戻る子」を継続的に支える設計にはなっていません。年に一度の2週間では、学年相当の国語は積み上がりませんし、そこでできた友達とも、帰国と同時に途切れます。
ともだちじゃぱんは、その途切れる部分をつなぐためのオンラインスクールです。日本の現役水準の教員が、8人の少人数クラスで学年相当の国語を教えます。同じクラスにいるのは、同じように海外で育っている日本の同世代です。年に一度会う友達ではなく、毎週会って話す相手をつくること。一時帰国の学校で「日本語で話すのは楽しい」と分かった子ほど、その先が続きます。
手続きの全体像は一時帰国の「体験入学」完全ガイド、通いはじめてからの実務は一時帰国の体験入学、小学校で実際に起きること、東京の事情は東京23区に「体験入学」は無い。それでも15区は通えるをどうぞ。
よくある質問
自分の市のページが見つかりません。どう検索すればいいですか
「{市区町村名} 一時帰国 体験入学」と、両方の語を入れて検索してください。30自治体の本文を数えたところ、「体験入学」だけでは4自治体、「一時帰国」だけでは3自治体に届きませんでしたが、どちらかを含むページは30/30でした。なお「体験就学」「短期入学」「短期就学」は、自治体の制度名としては1件も使われていないので、この語で探しても当たりません。
「体験入学は実施していません」と書いてありました。通えないということですか
通えないという意味ではないことがほとんどです。台東区・世田谷区・北区・墨田区・文京区・立川市・札幌市・奈良市などは、「体験入学」という枠組みを持たない代わりに正式な編入学として受け入れています。むしろ在籍児童と同じ扱いになるので、教科書が渡されたり指導要録が作られたりする点では手厚くなります。ページの続きを読んでみてください。
教育委員会と学校、どちらに連絡すればいいですか
30自治体では教育委員会が24、学校が6でした。多数派は教育委員会ですが、横浜市・神戸市・福岡市・仙台市・さいたま市・京都市は学校が入口です。逆に北本市は「学校に直接お問い合わせしないようお願いします」と明記しています。必ずその自治体のページで確認してください。前に住んでいた市の経験は通用しません。
住民票を抜いたままでも通えますか
文部科学省は「住民票がない場合でも、居住の実態がある場合には…入学することができます」としており、昭和42年の文部省通達も「住民基本台帳に記載されていない者であっても…学齢簿を編製すること」としています。実際、福岡市・鹿児島市・台東区・品川区など多くの自治体が住民登録なしで受け入れています。ただし中央区・新宿区のように住民登録を求める自治体もあり、判断は割れています。
「区域外就学」とは何ですか
学校教育法施行令第9条にもとづく手続きで、住所のある市町村以外の学校に通うときの正式な枠組みです。保護者が、通わせたい学校のある教育委員会の承諾を証する書面を添えて、住所のある市町村の教育委員会に届け出ます。世田谷区は申請書の名称を「区域外就学申請書(一時帰国)」としています。36自治体のうち7自治体でこの語が使われていました。
通えなかった場合、ほかに相談できるところはありますか
海外子女教育振興財団(JOES)が「一時帰国中」の家庭向けの窓口を設けています。教育相談は会員が無料、それ以外は初回から1年間有効で2回まで10,000円(税別)。毎年7月末に大阪・名古屋・東京で「帰国生のための学校説明会・相談会」(入場無料)も開かれており、対象に「一時帰国された」家庭が明記されています。
一時帰国中に学校へ通わせたいと思っても、「受け入れ側の負担になるのでは」と申し込みをためらう保護者は少なくありません。先に一時帰国の体験入学は迷惑なのかを読んでおくと、依頼の仕方で迷わなくなります。



